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2017.5.2.Tue
序章 微睡
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──相変わらず上手いね。
──そうかな? 嬉しい!
──流石ピアニストの娘!
──それは関係無いよー。
──だって、音楽は、“心"で奏でる物なんだから。
ぼんやりとした景色の中、身を寄せ合って笑い合う、二人の少女達。その内の一人は、……私だ。
おそらく、母校の音楽室だろうか。その懐かしい室内で、幾分年季の入ったグランドピアノの鍵盤を細い指が走り、楽譜上のメロディをなぞって行く。
それは徐々に組み立てられ、しっとりとしたメロディーとして私の心に訴えかける。その音色が心地良くて、私はうっとりとして目を閉じた。
あぁ、なんて素敵な曲なんだろう。
もっと、この幸せな時を、感じていたい──。
「…………あれ?」
いつの間にか、私は何かに身を預けていた。ふと視線を落とせば、己の身体とそれを横切るベルトのようなものが目に入る。
(……私、音楽室にいた筈じゃなかったっけ?)
未だ状況を理解出来ず、私はむむ? と首を捻る。すると、私の右側から、呆れたような声がかけられた。
「おっはよー、朱華。お目覚めかしらー?」
「………………比美子?」
「はい、比美子よー。ねぇ、あんたもしかして寝惚けてるー? ここ、どこだか判ってますかー?」
「……えっと、…………車内?」
友人の言葉を受けて、私はゆっくりと思い出して行く。
あぁそうだ。今日は、ずぅっと楽しみにしていた日じゃないか。
「そっか。私、あんたに乗せて貰って、……霧隠荘に………」
「正解でーす。もー、あんた本当に大丈夫ー? ボーっとしちゃっているし。何か変な夢でも見てたー?」
からからと楽しげに笑う友人に、一瞬息を呑む。けれど、異変を感じ取られたくなくて、私は何気ない風を装いながら、言葉を返した。
「……そう、だね。……見ていた、気がする」
また、言えなかった。……あの夢の事。
でも、何故か誰かに話そうとする度、つい口をつぐんでしまう。
一体、誰なんだろう。いつも、夢に現れるあの子は。
いつだって、楽しそうに私とお喋りしているあの子は。
……どうして、どれだけあの夢を見ていても、あの子の顔が判らないのだろう──。
その夢を見始めてから、五年。
今でも私は、“あの子”の事を思い出せずにいる。
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