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第1章:異世界召喚! ……嘔吐。
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午後11時、点在するビルの光と車のライトにうっすら照らされた札幌大通り。俺はマ〇ドナルドでのアルバイトを終えて地下鉄駅へ向かっていた。他に居残り勤務を終えたのだろうスーツ姿の灰色の顔たちがまばらに歩いている。
大学を卒業したら、誰にもできない仕事に就いてやる。そうサラリーマンと見受けられる彼らを勝手に反面教師に仕立て、心のうちで嘲笑っていた。
ふと、横切っていく車の中から、自分が灰色の顔をしてトボトボ歩いているように見られているのではないかと一抹の不安がよぎり、俺は疲弊した体に鞭を打って歩幅を広げた。
その時だった。
「うっ!!」
走る鈍痛。
恐怖と吃驚。
視界が反転。右半身に衝撃。
突如薄らいでいく意識に、右脇腹へのジンジンと燃えるような激しい痛みが響く。ぼやけた視界の端には誰かが立っていた。
背筋への震えるほどの悪寒と、生暖かい液体がねっとりと脇腹から流れ滴るのを感じて、背中を刃物で刺されたことをすぐに悟った。
なぜ?
ここは悪名高きホンジュラス共和国のサンペドロスーラなどではない。治安の特別悪いわけではない札幌の中心で背後からいきなり刺される理由も思いつかず、鈍痛にうめき声だけが漏れた。
閑散としたビル街に響く女性の金切り声が遠い。全感覚が鈍っていく。
刺した犯人はどうやら俺のリュックを漁っている様子。
強盗か…。
そう見切った俺だったがどうにも反抗できずに、大学生のリュックには金目の物は入っていないぞ、と冷笑するのみだった。
瞼が重い。感覚がほぼなくなり、眠るように意識がフェードアウトしていった。
そのまま死ぬはずだった。なぜか刺されてからはひどく冷静だった俺は無念ながらも、その死を半ば受け止めてさえいたのだ。
瞼越しに陽光を感じ、目を覚ました。
いつものようにベッドの中で寝ていると錯覚した俺は、目の前に見慣れた白い天井ではなく、快晴の青空が広がっていることに人生で二番目の驚きを感じた。(一番は刺されたことだ)
矢庭に、刺された記憶が蘇り反射的に体を起こした。
体を起こしてから脇腹の傷を顧みて刺痛に身構えたが、全く痛みの『い』の字もない。
そのことを考えるよりも視覚に人生二番目の驚き(同位タイ)が飛び込む。
「おいおい、なんだここは…」
つい声を漏らした俺の視界いっぱいに森が広がっているのだ。
申し訳程度に道なりに並ぶ大通公園の木々でないことは一目瞭然だ。
視界の限界のその暗がりの奥まで広葉樹が無秩序に茂りあっているからだ。青々と光る木の葉は風を受け、日光を我が先に浴びようとせめぎあっているように見える。
続けざまの人生屈指の驚きが確実に自分の寿命を縮めているのを感じた。心拍音が聞こえるようにドクドク脈打っている。
誰が刺したのか、誰がここに運んだのか、自分は本当に生きているのか…。
尽きることのない疑問の渦に寝起きの頭脳はついていかない。
とりあえず一応傷の状態を見よう、と鉛のような体の倦怠感をこらえ立ち上がろうとした時だ。
『ガチャリ』
一挙一動に合わせ、金属同士が触れ合う音が聞こえ、慌てて自分の姿を通観した。
「うわわああ!」
自分でも笑えてくる間抜け声で叫喚してしまった。だが、自分が中世ヨーロッパ風の鉄の胴甲冑を着ていて、それに誰のとも知らぬ血が大量にこびり付いていれば大抵はこうなるはずだ。
まさに鉛のような重りを上半身につけていたのだ。
脱ぎ方が分からず、あたふたしていると血を見た不快感に吐き気が急に喉を駆け上がっていき、たまらず脇の草むらにぶちまけた。
ここで吐瀉物に昨夜の晩飯の鮭おにぎりなんかが垣間見えれば多少は生きている実感が湧くものだが生憎、半透明な胃液しか吐き出せず、口から引く糸が草むらに空しく落ちた。
「最悪だ……」
ぴったりと首や腕を守っている血だらけの鎧は脱ぐことができず、気休めに血痕だけでも取ろうとする。
鉄甲冑の固くこびり付いた血痕を脇道に落ちていた石で削るように拭いながら、悪態をついた。
ここはどこなのだ。傷を治してくれたのは有難いが、流石にこの仕打ちは悪趣味すぎないか。どうして、血の付いた甲冑をわざわざ着させて森のあぜ道に放置したのだろう。
見当もつかない。
驚きの後に湧き上がる憎悪ともとれる怒りを右手の石にぶつける。
三分間ゴリゴリした後襲ってきたのは野生の動物などではなく、空腹だった。
相当眠っていたのか、今感じる空腹は並のレベルではない。俺は日本の大学1年生だ。無論、食べ物には困ったことはなく冷蔵庫を開ければ空腹は満たせる。
この状況はどうだ。見知らぬ土地に放置され、冷蔵庫はおろか、真っすぐ伸びたあぜ道の水平線上にはコンビニも見当たらない。
途方に暮れる思いだが、徒歩で最寄りのコンビニを見つけようと決心した。
近くに落ちていた自分のものと思しき血に汚れた直剣を護身用にと思い拾う。
刃渡り1mの剣は左腰の剣鞘に収めるのも難しく、剣の切っ先が鞘の入り口に入らず、30秒ほど苦闘。
チーンと収まるのを期待していたが、血に汚れているためかジャリジャリと不快な摩擦音を残し鞘に収まった。
一本調子に続く道のどちらの方向に進めばよいかも分からないので太陽のある方角へ歩を進めることにする。
歩きながら考えた。
この状況がありえる一番有力な事態は何なのか。
それは、間違いなくドッキリだ。きっとモニタ〇ングとかその辺の類だろう。森の中に中世の騎士の格好で放置されたらどうする?…みたいな企画のはず。
嘔吐した自分を全国民が笑い転げている様が目に浮かぶ。
ええー! モニタリングされているとは気づきませんでしたー!
ドッキリだと明かされた瞬間にカメラマンに殴り掛からないようにと穏やかな第一声を思い浮かべた。
ドッキリである、とドッキリ中に気づけば後はたやすい。 俺は急に気楽になって、待ち受ける奇想天外にオーバーリアクションを以て応えることで全国の笑いを取ろうと画策するのだった。
大学を卒業したら、誰にもできない仕事に就いてやる。そうサラリーマンと見受けられる彼らを勝手に反面教師に仕立て、心のうちで嘲笑っていた。
ふと、横切っていく車の中から、自分が灰色の顔をしてトボトボ歩いているように見られているのではないかと一抹の不安がよぎり、俺は疲弊した体に鞭を打って歩幅を広げた。
その時だった。
「うっ!!」
走る鈍痛。
恐怖と吃驚。
視界が反転。右半身に衝撃。
突如薄らいでいく意識に、右脇腹へのジンジンと燃えるような激しい痛みが響く。ぼやけた視界の端には誰かが立っていた。
背筋への震えるほどの悪寒と、生暖かい液体がねっとりと脇腹から流れ滴るのを感じて、背中を刃物で刺されたことをすぐに悟った。
なぜ?
ここは悪名高きホンジュラス共和国のサンペドロスーラなどではない。治安の特別悪いわけではない札幌の中心で背後からいきなり刺される理由も思いつかず、鈍痛にうめき声だけが漏れた。
閑散としたビル街に響く女性の金切り声が遠い。全感覚が鈍っていく。
刺した犯人はどうやら俺のリュックを漁っている様子。
強盗か…。
そう見切った俺だったがどうにも反抗できずに、大学生のリュックには金目の物は入っていないぞ、と冷笑するのみだった。
瞼が重い。感覚がほぼなくなり、眠るように意識がフェードアウトしていった。
そのまま死ぬはずだった。なぜか刺されてからはひどく冷静だった俺は無念ながらも、その死を半ば受け止めてさえいたのだ。
瞼越しに陽光を感じ、目を覚ました。
いつものようにベッドの中で寝ていると錯覚した俺は、目の前に見慣れた白い天井ではなく、快晴の青空が広がっていることに人生で二番目の驚きを感じた。(一番は刺されたことだ)
矢庭に、刺された記憶が蘇り反射的に体を起こした。
体を起こしてから脇腹の傷を顧みて刺痛に身構えたが、全く痛みの『い』の字もない。
そのことを考えるよりも視覚に人生二番目の驚き(同位タイ)が飛び込む。
「おいおい、なんだここは…」
つい声を漏らした俺の視界いっぱいに森が広がっているのだ。
申し訳程度に道なりに並ぶ大通公園の木々でないことは一目瞭然だ。
視界の限界のその暗がりの奥まで広葉樹が無秩序に茂りあっているからだ。青々と光る木の葉は風を受け、日光を我が先に浴びようとせめぎあっているように見える。
続けざまの人生屈指の驚きが確実に自分の寿命を縮めているのを感じた。心拍音が聞こえるようにドクドク脈打っている。
誰が刺したのか、誰がここに運んだのか、自分は本当に生きているのか…。
尽きることのない疑問の渦に寝起きの頭脳はついていかない。
とりあえず一応傷の状態を見よう、と鉛のような体の倦怠感をこらえ立ち上がろうとした時だ。
『ガチャリ』
一挙一動に合わせ、金属同士が触れ合う音が聞こえ、慌てて自分の姿を通観した。
「うわわああ!」
自分でも笑えてくる間抜け声で叫喚してしまった。だが、自分が中世ヨーロッパ風の鉄の胴甲冑を着ていて、それに誰のとも知らぬ血が大量にこびり付いていれば大抵はこうなるはずだ。
まさに鉛のような重りを上半身につけていたのだ。
脱ぎ方が分からず、あたふたしていると血を見た不快感に吐き気が急に喉を駆け上がっていき、たまらず脇の草むらにぶちまけた。
ここで吐瀉物に昨夜の晩飯の鮭おにぎりなんかが垣間見えれば多少は生きている実感が湧くものだが生憎、半透明な胃液しか吐き出せず、口から引く糸が草むらに空しく落ちた。
「最悪だ……」
ぴったりと首や腕を守っている血だらけの鎧は脱ぐことができず、気休めに血痕だけでも取ろうとする。
鉄甲冑の固くこびり付いた血痕を脇道に落ちていた石で削るように拭いながら、悪態をついた。
ここはどこなのだ。傷を治してくれたのは有難いが、流石にこの仕打ちは悪趣味すぎないか。どうして、血の付いた甲冑をわざわざ着させて森のあぜ道に放置したのだろう。
見当もつかない。
驚きの後に湧き上がる憎悪ともとれる怒りを右手の石にぶつける。
三分間ゴリゴリした後襲ってきたのは野生の動物などではなく、空腹だった。
相当眠っていたのか、今感じる空腹は並のレベルではない。俺は日本の大学1年生だ。無論、食べ物には困ったことはなく冷蔵庫を開ければ空腹は満たせる。
この状況はどうだ。見知らぬ土地に放置され、冷蔵庫はおろか、真っすぐ伸びたあぜ道の水平線上にはコンビニも見当たらない。
途方に暮れる思いだが、徒歩で最寄りのコンビニを見つけようと決心した。
近くに落ちていた自分のものと思しき血に汚れた直剣を護身用にと思い拾う。
刃渡り1mの剣は左腰の剣鞘に収めるのも難しく、剣の切っ先が鞘の入り口に入らず、30秒ほど苦闘。
チーンと収まるのを期待していたが、血に汚れているためかジャリジャリと不快な摩擦音を残し鞘に収まった。
一本調子に続く道のどちらの方向に進めばよいかも分からないので太陽のある方角へ歩を進めることにする。
歩きながら考えた。
この状況がありえる一番有力な事態は何なのか。
それは、間違いなくドッキリだ。きっとモニタ〇ングとかその辺の類だろう。森の中に中世の騎士の格好で放置されたらどうする?…みたいな企画のはず。
嘔吐した自分を全国民が笑い転げている様が目に浮かぶ。
ええー! モニタリングされているとは気づきませんでしたー!
ドッキリだと明かされた瞬間にカメラマンに殴り掛からないようにと穏やかな第一声を思い浮かべた。
ドッキリである、とドッキリ中に気づけば後はたやすい。 俺は急に気楽になって、待ち受ける奇想天外にオーバーリアクションを以て応えることで全国の笑いを取ろうと画策するのだった。
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