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第二十四話 了とアサキシ

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「よう、了」

「なんだ、葉月」
 昼頃、了が人里で、用事を済まして甘味処にいると、葉月と偶然会い彼女が話しかけてきた。

「了、お前に聞きたいことがある」

「なあに」

「お前は何故アサキシの下についているんだ?」

「うーんまあワケアリでね」

「ワケアリ?」

 了の言葉に首を傾げる葉月。了は頭をかきながら恥ずかしそうに話す。

「うんまあ、私さ当てもなく迷っていたところをアサキシに保護されたんだ」

「そ、そうか。それで保護されて何していたんだ」

 了が当ても無くさ迷っていたことに、葉月は面を喰らう。了の立ち振る舞いを見ても、そう言った過去があるとは思っていなかった。そしてさ迷って歩いていたと言う部分に、浮浪者の孤児のイメージが浮かんだが口に出すのは失礼だと思いださなかった。

「一時期、アサキシと一緒に働いたりしていたよ」

「へえ。あいつ自分から働くのか。なんかイメージと違った」

 この言葉にも驚く葉月。アサキシ自身が外に出て戦ったり働いている姿を見たことが無かったからだ。しかし人里の多くの者達は、少し前までアサキシ自身が自ら行動していたことを知っていた。 
 なぜ葉月はアサキシが戦ったり働いたりしていたこと知らないのにはわけがある。それは葉月が了とムクと出会う前までは引きこもりがちで、誰かと関わるのを嫌がっていた。そのためその間の出来事をあまり知らない。

「アサキシは頑張り屋だからな。あいつ意外と優しいんだぜ」
そう了はアサキシの事を誇らしげに語った。

「まあ大災害の被害者を支援したぐらいだもんな」

「そうそれに、私の恩人でもある」

 その言葉に葉月は疑問を浮かべ、了に聞き返す。

「恩人何の?」

「……今の私を作るきっかけになってくれたんだ。」

 そう言う了の言葉からは、心の底からアサキシへ感謝の気持ちがにじみ出ていた。そんな了の何か隠した言葉に葉月は困惑しながらも、前から気になっていたことを指摘する。

「了はどうして男の口調なんだ?『だぜ』だとか。何で使うの?名前も男っぽい」

 葉月は了の口を指さし話す。それを笑いながら了は答える。

「男の口調なのは菫がそうした方が良い言ったからなんだ」

「菫がなんで?」

「自分で言うのも何なんだが、優しすぎると言われてね。だから男口調を使えって言われたんだ
名前に関しては…… 名は体を表すものだからなそうした」

「名前についてはようわからんが、男口調は菫が教えたからなのか」

「今ではそれがふつうになっちまったよ」

 口に手を当ててクスクスと可愛らしく笑う了。口調は男の者であるが、しぐさは女だった。それに葉月は何処かちぐはぐさを感じたが、これは了の個性だろうと気にも留めなかった。

「アサキシからなんか言われなかったか?」

「言われれた。『菫め変な影響をあたえやがって』て怒っていた」

 そう言いながら、指で鬼の角を表す。それを見て笑う葉月。


「普段のアサキシはどんな人間なんだ」

 葉月はアサキシの存在は知っていたが、人狼事件以前まで関わりあいが無かったため気になり尋ねる。
それに対して、了は自分の家族を語るかのように話す了。葉月はその様子をみて了はアサキシの事を大切に思っている事がわかりほほえましい気持ちになった。了のアサキシの話は続く。

「家族愛がすごいのと、よく食べるのと、男の話」

「お、男の話し!?」

 葉月は赤面する。それを見て了は違う、違うと手を振り否定する。

「私にふさわしい男が居ないと言う愚痴さ」

「ああ、そうなのか。意外と俗人なんだな。アサキシ」

「よく周りの人や管理所の職員さんたちは、アサキシさんと慕っているけどね。アサキシは普通の良い奴さ」

 このあとも、ニコニコしながら了はアサキシの話をした。後でそれを知ったアサキシは自分がほめれて鼻を高くし、菫はアサキシがほめられて不快そうにした。

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