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第三十七話 かわりのかわり 6

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 アサキシが事件解決を発表すると人々は喜び里に活気が戻った。人と妖怪は安心して暮らせるようになったのだ。
 そんな街の一つである人間の街を果物を持ったムクが歩いていた。ムクは事件を解決したのが了だと知り解決してくれたお礼として果物を家にもっていこうと考えたのだ。彼女は人間の街を出て、了の家に向かう。

「どうしたのかな?」

 ムクは了の家の前を見て呟いた。ポストには週刊誌が溢れ、家のごみ置き場らしき場所に『真新しい布団』が置かれていた。それらを不思議に思いながらも、扉を叩く。反応は無かった。何度もしても反応が無かった。

「あれ開いている?」

 扉はわずかにな隙間を広げていた。鍵がかかっていなかった。それを知り何かあったのでは、と思い緊張の面持ちで扉をあけ中に入る。

 部屋は暗く窓から差し込む日光しか光源は無かった。部屋の薄暗さはムクの心に不安を与えた。その部屋の隅に了が無気力に座り込んでいた。顔は俯き、誰からの眼で見ても彼女に元気はない事がわかった。そんな量にムクは驚き、近づいて優しく声をかける。

「了どうしたの……」

「……? ああムクか」

「元気ないね。どうかしたの?」

 ムクの優しい言葉に了は泣きそうになりながら今回の事件とラウラと自身の正体を話した。その話し方はまるで、罪を告白する罪人の様であった。それを聞いてムクは押し黙った。了は嘆く。

「すべては私だ。私なんかが生まれてきたから。生まれてしまったから、きぬやほかの人々が死んでしまったんだ」

「そんな悲しいこと言わないでよ……」

 了の言葉に悲しくなり、否定する。しかし了の言葉は続く。

「だけど私が生まれなかったらラウラも生まれず、きぬたちは死ななかったんだ。……私なんか生まれなければ」

「そんなこと言わないでよ!」

 ムクは叫び否定した。ムクの叫びに了はムクの顔を見た。彼女の顔も泣きそうな顔だった。

「私は了に会えて良かった。了のおかげで命を救われ、葉月の過去も知ることができた。了がいなければ何も知れず死んでいたんだ。だから生まれてきてよかったんだよ」

「私がやってきたことは他の者にそうしなさいと教えられたからだ」

「誰かに教えられてそう簡単に出来る事じゃないよ。誰かのために戦ったり傷ついたりていうことはさ」

「そんなことはない」

「そんなことはある!! ……私はそんなことができる了と友達になれて本当によかったよ」

「…………」

「だから生まれてきてよかったんだよ了は!!」

「ムク…… ありがとう」

 ムクの言葉に了は涙を流しながら何度も感謝し続けた。ムクも、もらい泣きしてしまった。
 両者は涙を流し続けた。
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