大嫌いな従兄と結婚するぐらいなら…

みみぢあん

文字の大きさ
10 / 23

9話 絶望



 フェルナンと剣の師匠シプリアンきょうがベルヌフ王国で戦死したと知り、私は生きる気力をうしないあずかったまもがたなで自分ののどを刺して、自決することまで考えた。

 私に下劣げれつな態度をとり続けたジャコブの妻になるなんて… 愛する人を亡くした後でおとずれる、そんな未来をとても受け入れられそうにない。

 でも…

『ベレニスお姉様… ごめんなさい! 私のせいでお姉様が… 皇帝陛下の側妃になるなんて… お姉様が…!』

 ロンヴィル侯爵家に残り、1人でがんばるエレーヌのことを考えたら、軽はずみなことはできなかった。


「戦争が終わるまで、もう少しだけ生きていよう。 エレーヌのために… フェルナンの所へ行くのは、その後でもおそくないわ。 彼はきっと女神様の腕の中で、安らかに眠っているはずだから……」

 
 私のほほを涙がつたい落ちる。

 さんざん泣いて疲れているのに… 少しでも油断すると勝手に涙がこぼれてしまうのだ。
 自分では止めることができない。

「いつになったら… この涙はかれるの?」



  ◇  ◇  ◇  ◇




 ベルヌフ王国襲撃の成功を報告しに、ジャコブが側近の騎士だけをつれて、帝都へもどって来た。

 ロンヴィル騎士団の本隊はしばらくのあいだ、ベルヌフ王国にとどまるらしい。


「ベレニス様、今日はいつもよりも少しべにを濃くして、お顔を華やかにしましょう」

「ええ……」

 エレーヌの手紙を読んで泣きくずれた私は… フェルナンを亡くしたショックで、気をうしなってしまった。

 その時以来、私の親切な侍女は気持ちをさっしてくれて、『ロンヴィル騎士団の偉業いぎょう』についていっさい口に出さなくなった。

「今日はロンヴィル侯爵様と久しぶりにお会いするのですから… いつもより、もっと美しくしないといけませんね」

「あなたにまかせるわ」
「はい」
「いつもありがとう…」

 侍女は手ぎわよく私の赤い髪を器用にあみこんでゆく。 

「ふふふっ こんなに美しい赤い髪をさわらせてもらえて、私こそありがとうございます。 ベレニス様」

 楽し気に明るい声で侍女は笑う。

 悲しみで口が重くなった私の相手はきっと疲れることだろう。 それでも気のい侍女は、私のために明るく世話をしてくれる。

 私が後宮に使用人をつれず1人で入ったから、侍女長が選んでつけてくれた人だけど… 気落ちする私のために、何も言わなくてもすべて整えてくれるのがありがたい。


「……」
 ジャコブが皇帝陛下の許しをもらい、私に会いに来ると伝言を受けとった。

 正直、会いたくない。 体調不良で拒否しようかと思ったけれど…

 どういう状況でフェルナンとシプリアンきょうが戦死したのかが知りたい。 聞けばまた、私の心は深く傷つくとわかっている。

 それでもフェルナンを愛する私は、彼の最期さいごを知らなければいけないと思うから。


 先代のロンヴィル侯爵、亡くなった伯父さまに持たされたドレスの中で、1番華やかなものを着て大きめのショールまとう。

 …そして後宮に入ったときからまくらの下に置いていた、フェルナンからあずかったまもがたまを手にとり、瞳を閉じて祈りをささげる。


「どうか… 私の心をジャコブの邪悪な言葉から護ってフェルナン……」


 私はまもり刀をまくらの下にはもどさず、ショールの下に隠し持った。




あなたにおすすめの小説

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

第二王女と次期公爵の仲は冷え切っている

山法師
恋愛
 グレイフォアガウス王国の第二王女、シャーロット。  フォーサイス公爵家の次期公爵、セオドア。  二人は婚約者であるけれど、婚約者であるだけだった。  形だけの婚約者。二人の仲は冷め切っているし冷え切っている。  そもそも温度など、最初から存在していない。愛も恋も、友情も親しみも、二人の間には存在しない。  周知の事実のようなそれを、シャーロットもセオドアも否定しない。  お互いにほとんど関わりを持とうとしない、交流しようとしない、シャーロットとセオドアは。  婚約者としての親睦を深める茶会でだけ、顔を合わせる。  親睦を深める茶会だというのに、親睦は全く深まらない。親睦を深めるつもりも深める意味も、二人にはない。  形だけの婚約者との、形だけの親睦を深める茶会。  今日もまた、同じように。 「久しぶりに見る君が、いつにも増して愛らしく見えるし愛おしく思えて、僕は今にも天に召されそうなほどの幸福を味わっている。──?!」 「あたしのほうこそセオ様とお顔を合わせること、夢みたいに思ってるんですからね。大好きなセオ様を独り占めしているみたいに思えるんですよ。はっ?!」  顔を合わせて確認事項を本当に『確認』するだけの茶会が始まるはずが、それどころじゃない事態に陥った。  

私だった時間の終わりに〜あなたの愛はまだありますか?

月山 歩
恋愛
幼馴染である二人は、社交界きっての誰もが認める美男美女のカップルだった。 けれど、ある日の馬車の事故で侯爵令嬢である私と侍女の魂が入れ替わる。 美貌もほっそりとした体も令嬢としての地位もすべて失った私に、彼は何を思うだろう。

愛を忘れた令嬢が平民に扮した公爵子息様に娶られる話

rifa
恋愛
今まで虐げられ続けて育ち、愛を忘れてしまった男爵令嬢のミレー。 彼女の義妹・アリサは、社交パーティーで出会ったオリヴァーという公爵家の息子に魅了され、ミレーという義姉がいることを一層よく思わないようになる。 そこでミレーを暴漢に襲わせ、あわよくば亡き者にしようと企んでいたが、それを下町に住むグランという青年に助けられ失敗し、ミレーはグランの家で保護され、そのまま一緒に暮らすようになる。 そしてそのグランこそがアリサが結婚を望んだオリヴァーであり、ミレーと婚約することになる男性だった。 やがてグランが実は公爵家の人間であったと知ったミレーは、公爵家でオリヴァーの婚約者として暮らすことになる。 だが、ミレーを虐げ傷つけてきたアリサたちを許しはしないと、オリヴァーは密かに仕返しを目論んでいた。 ※アリサは最後痛い目を見るので、アリサのファンは閲覧をオススメしません。

余命僅かな大富豪を看取って、円満に未亡人になるはずでした

ぜんだ 夕里
恋愛
傾きかけた家を救うため、私が結んだのはあまりにも不謹慎な契約――余命いくばくもない大富豪の辺境伯様と結婚し、彼の最期を穏やかに看取ることで莫大な遺産を相続する、というものだった。 しかし、人の死を利用して富を得るなど不正義! そう考えた私が立てたのは、前代未聞の計画。 「そうだ、遺産が残らないくらい贅沢の限りを尽くしてもらえば、すべて丸く収まるじゃない!」

迎えに行ったら、すでに君は行方知れずになっていた

月山 歩
恋愛
孤児院で育った二人は彼が貴族の息子であることから、引き取られ離れ離れになる。好きだから、一緒に住むために準備を整え、迎えに行くと、少女はもういなくなっていた。事故に合い、行方知れずに。そして、時をかけて二人は再び巡り会う。

狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します

ちより
恋愛
 侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。  愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。  頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。  公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。

将来の嫁ぎ先は確保済みです……が?!

翠月 瑠々奈
恋愛
ある日階段から落ちて、とある物語を思い出した。 侯爵令息と男爵令嬢の秘密の恋…みたいな。 そしてここが、その話を基にした世界に酷似していることに気づく。 私は主人公の婚約者。話の流れからすれば破棄されることになる。 この歳で婚約破棄なんてされたら、名に傷が付く。 それでは次の結婚は望めない。 その前に、同じ前世の記憶がある男性との婚姻話を水面下で進めましょうか。