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9話 絶望
フェルナンと剣の師匠シプリアン卿がベルヌフ王国で戦死したと知り、私は生きる気力をうしないあずかった護り刀で自分の喉を刺して、自決することまで考えた。
私に下劣な態度をとり続けたジャコブの妻になるなんて… 愛する人を亡くした後でおとずれる、そんな未来をとても受け入れられそうにない。
でも…
『ベレニスお姉様… ごめんなさい! 私のせいでお姉様が… 皇帝陛下の側妃になるなんて… お姉様が…!』
ロンヴィル侯爵家に残り、1人でがんばるエレーヌのことを考えたら、軽はずみなことはできなかった。
「戦争が終わるまで、もう少しだけ生きていよう。 エレーヌのために… フェルナンの所へ行くのは、その後でもおそくないわ。 彼はきっと女神様の腕の中で、安らかに眠っているはずだから……」
私の頬を涙がつたい落ちる。
さんざん泣いて疲れているのに… 少しでも油断すると勝手に涙がこぼれてしまうのだ。
自分では止めることができない。
「いつになったら… この涙はかれるの?」
◇ ◇ ◇ ◇
ベルヌフ王国襲撃の成功を報告しに、ジャコブが側近の騎士だけをつれて、帝都へもどって来た。
ロンヴィル騎士団の本隊はしばらくのあいだ、ベルヌフ王国にとどまるらしい。
「ベレニス様、今日はいつもよりも少し紅を濃くして、お顔を華やかにしましょう」
「ええ……」
エレーヌの手紙を読んで泣きくずれた私は… フェルナンを亡くしたショックで、気をうしなってしまった。
その時以来、私の親切な侍女は気持ちをさっしてくれて、『ロンヴィル騎士団の偉業』についていっさい口に出さなくなった。
「今日はロンヴィル侯爵様と久しぶりにお会いするのですから… いつもより、もっと美しくしないといけませんね」
「あなたにまかせるわ」
「はい」
「いつもありがとう…」
侍女は手ぎわよく私の赤い髪を器用にあみこんでゆく。
「ふふふっ こんなに美しい赤い髪をさわらせてもらえて、私こそありがとうございます。 ベレニス様」
楽し気に明るい声で侍女は笑う。
悲しみで口が重くなった私の相手はきっと疲れることだろう。 それでも気の好い侍女は、私のために明るく世話をしてくれる。
私が後宮に使用人をつれず1人で入ったから、侍女長が選んでつけてくれた人だけど… 気落ちする私のために、何も言わなくてもすべて整えてくれるのがありがたい。
「……」
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…そして後宮に入ったときから枕の下に置いていた、フェルナンからあずかった護り刀を手にとり、瞳を閉じて祈りをささげる。
「どうか… 私の心をジャコブの邪悪な言葉から護ってフェルナン……」
私は護り刀を枕の下にはもどさず、ショールの下に隠し持った。
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