2 / 23
1話 1度目の婚約
しおりを挟む1度目の婚約者ハンケロウ伯爵家の次男アルフレッド様は、王立学園の騎士課を卒業すると、自分が護衛する王弟殿下が隣国へ留学することが決まり、一緒について行くこととなった。
「2年で帰国する予定だけど、護衛の任務だから… たぶんオレは、王弟殿下の留学期間が終わるまで、1度も帰国することができないと思うんだ」
騎士になるため幼い頃から剣の鍛錬を、毎日欠かさなかったアルフレッド様は、大きくて逞しい迫力のある体格をしていて… その大きな身体を小さく丸めて困った顔をする。
「では、アルフレッド様と2年もお会いできないのですか?」
「ああ、そうなるな… すまないマリオン」
「2年は長いわ……」
「うん。 本当にすまない」
顎が男らしく角ばっていて、鼻筋が通った彫りの深い顔だから、アルフレッド様は黙っていると『怒っているの?』と、よく人に誤解されるほど威圧感があった。
そんなアルフレッド様のことをよく知らない人が見ると、『何を考えているのかわからない怖い人』 …という印象を初対面で持つらしい。
でも私といる時は従順な大型犬のようで少しも怖くない。 むしろ物静かで穏やかな男性だと思っている。
「アルフレッド様と会えないなんて… さびしいわ… でも王族をお守りする、大切な役目ですもの。 アルフレッド様のために私も我慢します」
私はまだ結婚ができる年齢にたっしていないから、隣国へ行くアルフレッド様については行けない。
「ありがとう、マリオン」
「お手紙をたくさん… 書いても良いですか?」
「ああ、嬉しいよ。 でもオレは手紙を書くのが得意ではないから… 返事はあまり出せないかもしれない。 それでも良いか?」
「ええ!」
―――そして2年後。
隣国にいるアルフレッド様から、私のお父様スリンドン子爵に、手紙が届いた。
手紙を読んだ私の両親は……
「マリオン。 落ち着いてお父様のお話を聞いてね」
「そんなにあわててお母様… どうしたの?」
お父様に呼ばれて執務室へ行くと、お母様も一緒にいた。 来客用のソファセットに腰をおろすと、お母様は私と手をつなぎギュッとにぎる。
「アルフレッド卿が護衛する、王弟殿下の留学期間が数年のびるらしい」
「え? それだとお父様… アルフレッド様はいつごろ、隣国から帰国するの?」
先月届いた私への手紙には、王弟殿下が活発に外交活動をしているから、忙しくて眠るヒマもないと書いてあっただけなのに。
「うん。 その帰国の予定が立たなくなったから… マリオン、お前との婚約を解消したいとアルフレッド卿は、手紙に書いてきているんだ」
「…そんな、まさか!」
私はスリンドン子爵家の1人娘。 お父様が女相続人の私に婿養子として選んだのが、5歳年上のアルフレッド様。
(財産は相続できるけど、王国法で女性は爵位を継承できないため、1人娘の私の夫となる男性が、スリンドン子爵家を継ぐことになる)
「まだ学園に通う年齢の若いお前なら、次の婚約者も簡単に見つけられると、アルフレッド卿はスリンドン子爵家に配慮したのだろう」
「婚約解消なんて… 私は嫌です、お父様!」
「落ちついて、マリオン…」
理屈はわかるけど、気持ちのほうが納得できない。
92
あなたにおすすめの小説
元婚約者からの嫌がらせでわたくしと結婚させられた彼が、ざまぁしたら優しくなりました。ですが新婚時代に受けた扱いを忘れてはおりませんよ?
3333(トリささみ)
恋愛
貴族令嬢だが自他ともに認める醜女のマルフィナは、あるとき王命により結婚することになった。
相手は王女エンジェに婚約破棄をされたことで有名な、若き公爵テオバルト。
あまりにも不釣り合いなその結婚は、エンジェによるテオバルトへの嫌がらせだった。
それを知ったマルフィナはテオバルトに同情し、少しでも彼が報われるよう努力する。
だがテオバルトはそんなマルフィナを、徹底的に冷たくあしらった。
その後あるキッカケで美しくなったマルフィナによりエンジェは自滅。
その日からテオバルトは手のひらを返したように優しくなる。
だがマルフィナが新婚時代に受けた仕打ちを、忘れることはなかった。
望まない相手と一緒にいたくありませんので
毬禾
恋愛
どのような理由を付けられようとも私の心は変わらない。
一緒にいようが私の気持ちを変えることはできない。
私が一緒にいたいのはあなたではないのだから。
心を病んでいるという嘘をつかれ追放された私、調香の才能で見返したら調香が社交界追放されました
er
恋愛
心を病んだと濡れ衣を着せられ、夫アンドレに離縁されたセリーヌ。愛人と結婚したかった夫の陰謀だったが、誰も信じてくれない。失意の中、亡き母から受け継いだ調香の才能に目覚めた彼女は、東の別邸で香水作りに没頭する。やがて「春風の工房」として王都で評判になり、冷酷な北方公爵マグナスの目に留まる。マグナスの支援で宮廷調香師に推薦された矢先、元夫が妨害工作を仕掛けてきたのだが?
〖完結〗あんなに旦那様に愛されたかったはずなのに…
藍川みいな
恋愛
借金を肩代わりする事を条件に、スチュワート・デブリン侯爵と契約結婚をしたマリアンヌだったが、契約結婚を受け入れた本当の理由はスチュワートを愛していたからだった。
契約結婚の最後の日、スチュワートに「俺には愛する人がいる。」と告げられ、ショックを受ける。
そして契約期間が終わり、離婚するが…数ヶ月後、何故かスチュワートはマリアンヌを愛してるからやり直したいと言ってきた。
設定はゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全9話で完結になります。
私を売女と呼んだあなたの元に戻るはずありませんよね?
ミィタソ
恋愛
アインナーズ伯爵家のレイナは、幼い頃からリリアナ・バイスター伯爵令嬢に陰湿ないじめを受けていた。
レイナには、親同士が決めた婚約者――アインス・ガルタード侯爵家がいる。
アインスは、その艶やかな黒髪と怪しい色気を放つ紫色の瞳から、令嬢の間では惑わしのアインス様と呼ばれるほど人気があった。
ある日、パーティに参加したレイナが一人になると、子爵家や男爵家の令嬢を引き連れたリリアナが現れ、レイナを貶めるような酷い言葉をいくつも投げかける。
そして、事故に見せかけるようにドレスの裾を踏みつけられたレイナは、転んでしまう。
上まで避けたスカートからは、美しい肌が見える。
「売女め、婚約は破棄させてもらう!」
婚約者に値踏みされ続けた文官、堪忍袋の緒が切れたのでお別れしました。私は、私を尊重してくれる人を大切にします!
ささい
恋愛
王城で文官として働くリディア・フィアモントは、冷たい婚約者に評価されず疲弊していた。三度目の「婚約解消してもいい」の言葉に、ついに決断する。自由を得た彼女は、日々の書類仕事に誇りを取り戻し、誰かに頼られることの喜びを実感する。王城の仕事を支えつつ、自分らしい生活と自立を歩み始める物語。
ざまあは後悔する系( ^^) _旦~~
小説家になろうにも投稿しております。
帰ってきた兄の結婚、そして私、の話
鳴哉
恋愛
侯爵家の養女である妹 と
侯爵家の跡継ぎの兄 の話
短いのでサクッと読んでいただけると思います。
読みやすいように、5話に分けました。
毎日2回、予約投稿します。
初恋のひとに告白を言いふらされて学園中の笑い者にされましたが、大人のつまはじきの方が遥かに恐ろしいことを彼が教えてくれました
3333(トリささみ)
恋愛
「あなたのことが、あの時からずっと好きでした。よろしければわたくしと、お付き合いしていただけませんか?」
男爵令嬢だが何不自由なく平和に暮らしていたアリサの日常は、その告白により崩れ去った。
初恋の相手であるレオナルドは、彼女の告白を陰湿になじるだけでなく、通っていた貴族学園に言いふらした。
その結果、全校生徒の笑い者にされたアリサは悲嘆し、絶望の底に突き落とされた。
しかしそれからすぐ『本物のつまはじき』を知ることになる。
社会的な孤立をメインに書いているので読む人によっては抵抗があるかもしれません。
一人称視点と三人称視点が交じっていて読みにくいところがあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる