19 / 23
18話 婚姻無効
しおりを挟むアルフレッド様がいなくなった自分の部屋で、私はボンヤリと求婚について考えた。
「……」
彼の婚約者だったころ、私はなんとなく大切にされているということは感じていた。
普段から自分の気持ちを、あまり口に出す人ではなかったから… 婚約者として大切にされていても、愛されているとは思わなかった。
『これからも君以外の女性を愛すことはないよ』
アルフレッド様の告白を思い出して、私の顔がまた熱くなった。
「私を10年も前にすてた人から、愛の告白をされるなんて……」
嬉しいと思うよりも、戸惑いのほうが大きい… 今は受けとめきれないわ。
本当に好きだったからこそ、アルフレッド様を憎んでいたから。
胸の中がモヤモヤする。
数日がすぎ…… アルフレッド様がふたたび私をたずねて来た。
アルフレッド様は私の夫の診察をさせるため、王都からハンケロウ伯爵家の主治医をつれて来ていた。
「アルフレッド様… お医者様に旦那様を診察させて、何をするつもりですか?」
「診断書を作らせるんだよ」
「診断書?」
「それを添えて、マリオンとあの老人の婚姻無効を申し立てるのさ」
「離婚ではなくて婚姻無効…? そんなことができるのですか?!」
「できる。 …君の夫があの調子では意思を確認するのが難しいから、離婚するほうが困難だと弁護士は言っていた」
私のところに来る前にアルフレッド様は、なるべく私が傷つかない離婚のしかたを弁護士と話し合い、準備を進めて来たらしい。
「あの老人は君を前妻のイヴォンヌ夫人だと思っていて、君が新妻マリオンだと認識していない。 それはつまり、彼自身が認識していない君との結婚が正立するのはおかしいだろう?」
「ええ…」
実際、その通りだわ。 他人の名まえで呼ばれるのが嫌で、何度も教えたけど… 旦那様は私と結婚したことを、いまだに理解していない。
「診断書はそのことを証明するためのものなんだ」
私が付き添い、旦那様がハンケロウ伯爵家の主治医の診察を受けると… 診断結果はアルフレッド様の狙い通りとなった。
「間違いありません、ご主人は奥様を認識されていませんでした。 10人の医師が診察しても、同じ診断結果になるでしょうね」
「マリオン… このまま婚姻無効の申し立てを進めて良いか?」
「……はい」
アルフレッド様に私をつれ出したいと言われた日から、ずっと考え続けて来た。
何年も憎いと思っていた男性からの求婚に、胸の中がモヤモヤするけれど。
結局、アルフレッド様の求婚を受けいれることが、私にとって最良の選択だとわかっている。
診断書を添えて貴族管理局(貴族の婚姻、出生などを管理する機関)に提出した申し立てが受理され… 数ヶ月待たされた審議の結果、私と旦那様の婚姻無効が認められた。
私は晴れて未婚のスリンドン子爵令嬢にもどり… しばらくの間、ハンケロウ伯爵家に身を寄せることとなった。
151
あなたにおすすめの小説
元婚約者からの嫌がらせでわたくしと結婚させられた彼が、ざまぁしたら優しくなりました。ですが新婚時代に受けた扱いを忘れてはおりませんよ?
3333(トリささみ)
恋愛
貴族令嬢だが自他ともに認める醜女のマルフィナは、あるとき王命により結婚することになった。
相手は王女エンジェに婚約破棄をされたことで有名な、若き公爵テオバルト。
あまりにも不釣り合いなその結婚は、エンジェによるテオバルトへの嫌がらせだった。
それを知ったマルフィナはテオバルトに同情し、少しでも彼が報われるよう努力する。
だがテオバルトはそんなマルフィナを、徹底的に冷たくあしらった。
その後あるキッカケで美しくなったマルフィナによりエンジェは自滅。
その日からテオバルトは手のひらを返したように優しくなる。
だがマルフィナが新婚時代に受けた仕打ちを、忘れることはなかった。
望まない相手と一緒にいたくありませんので
毬禾
恋愛
どのような理由を付けられようとも私の心は変わらない。
一緒にいようが私の気持ちを変えることはできない。
私が一緒にいたいのはあなたではないのだから。
初恋のひとに告白を言いふらされて学園中の笑い者にされましたが、大人のつまはじきの方が遥かに恐ろしいことを彼が教えてくれました
3333(トリささみ)
恋愛
「あなたのことが、あの時からずっと好きでした。よろしければわたくしと、お付き合いしていただけませんか?」
男爵令嬢だが何不自由なく平和に暮らしていたアリサの日常は、その告白により崩れ去った。
初恋の相手であるレオナルドは、彼女の告白を陰湿になじるだけでなく、通っていた貴族学園に言いふらした。
その結果、全校生徒の笑い者にされたアリサは悲嘆し、絶望の底に突き落とされた。
しかしそれからすぐ『本物のつまはじき』を知ることになる。
社会的な孤立をメインに書いているので読む人によっては抵抗があるかもしれません。
一人称視点と三人称視点が交じっていて読みにくいところがあります。
心を病んでいるという嘘をつかれ追放された私、調香の才能で見返したら調香が社交界追放されました
er
恋愛
心を病んだと濡れ衣を着せられ、夫アンドレに離縁されたセリーヌ。愛人と結婚したかった夫の陰謀だったが、誰も信じてくれない。失意の中、亡き母から受け継いだ調香の才能に目覚めた彼女は、東の別邸で香水作りに没頭する。やがて「春風の工房」として王都で評判になり、冷酷な北方公爵マグナスの目に留まる。マグナスの支援で宮廷調香師に推薦された矢先、元夫が妨害工作を仕掛けてきたのだが?
旦那様に「君を愛する気はない」と言い放たれたので、「逃げるのですね?」と言い返したら甘い溺愛が始まりました。
海咲雪
恋愛
結婚式当日、私レシール・リディーアとその夫となるセルト・クルーシアは初めて顔を合わせた。
「君を愛する気はない」
そう旦那様に言い放たれても涙もこぼれなければ、悲しくもなかった。
だからハッキリと私は述べた。たった一文を。
「逃げるのですね?」
誰がどう見ても不敬だが、今は夫と二人きり。
「レシールと向き合って私に何の得がある?」
「可愛い妻がなびくかもしれませんわよ?」
「レシール・リディーア、覚悟していろ」
それは甘い溺愛生活の始まりの言葉。
[登場人物]
レシール・リディーア・・・リディーア公爵家長女。
×
セルト・クルーシア・・・クルーシア公爵家長男。
婚約者に値踏みされ続けた文官、堪忍袋の緒が切れたのでお別れしました。私は、私を尊重してくれる人を大切にします!
ささい
恋愛
王城で文官として働くリディア・フィアモントは、冷たい婚約者に評価されず疲弊していた。三度目の「婚約解消してもいい」の言葉に、ついに決断する。自由を得た彼女は、日々の書類仕事に誇りを取り戻し、誰かに頼られることの喜びを実感する。王城の仕事を支えつつ、自分らしい生活と自立を歩み始める物語。
ざまあは後悔する系( ^^) _旦~~
小説家になろうにも投稿しております。
帰ってきた兄の結婚、そして私、の話
鳴哉
恋愛
侯爵家の養女である妹 と
侯爵家の跡継ぎの兄 の話
短いのでサクッと読んでいただけると思います。
読みやすいように、5話に分けました。
毎日2回、予約投稿します。
〖完結〗あんなに旦那様に愛されたかったはずなのに…
藍川みいな
恋愛
借金を肩代わりする事を条件に、スチュワート・デブリン侯爵と契約結婚をしたマリアンヌだったが、契約結婚を受け入れた本当の理由はスチュワートを愛していたからだった。
契約結婚の最後の日、スチュワートに「俺には愛する人がいる。」と告げられ、ショックを受ける。
そして契約期間が終わり、離婚するが…数ヶ月後、何故かスチュワートはマリアンヌを愛してるからやり直したいと言ってきた。
設定はゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全9話で完結になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる