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11話 疑問 ジャンside
しおりを挟むせっかく2人で話し合う時間をディディエ殿下にもらったのに… オレはエリシア殿下の説得に失敗した。
そのことを報告しようと、落ち込んだ気分で執務室へ来たら、難しい顔で考えこむディディエ殿下にたずねられた。
「なぁジャン… ジャメル兄上の命令をどう思う?」
「ああ、そのことか…」
第6王女のエリシア殿下が嫁ぎ、ランブロス帝国と和平をむすぶことになり… 戦争を止めるスカルナ王国は同盟からぬけることが決まった。
オレとディディエ殿下はそのことを説明するため、同盟国の代表が集まる会議に出席しろと、王太子ジャメルに命令されたが……
『ジャメル兄上! そのような重大な説明を同盟国にする役目を、本当に僕がするのですか?!』
『そうだディディエ。 お前の王位継承権は私の次に高いから適任だ』
『ですがこのような大役は、若く未熟な僕ではなく… 本来なら王太子である兄上の役目ではありませんか?』
『いや、私はエリシアを帝国へ送るという重要な役目があるから、お前にまかせるのだディディエ』
『本… 本当に兄上は、それでよろしのですか……?』
腹黒王太子ジャメルの性格を知らない者なら… 弟ディディエへの信頼の証だと、何もおかしく感じないだろう。
…だがオレとディディエ殿下、そして目の前で王子2人のやり取りを見ていた大臣たちまで、王太子ジャメルの命令に大きな疑問を感じていた。
執務机に浅く尻をのせ、腕組みをするディディエ殿下の隣にならび、オレも同じように立ったまま、執務机に尻をのせて殿下の問いかけに答えた。
「戦争を終わらせるために、エリシア殿下を帝国へ送りとどけることは重要だが……」
「…だが?」
「何の企みも無いのなら… 普通は戦いになれているディディエ殿下が、エリシア殿下の護衛役につくはずだよな?」
政治の面では王太子ジャメルは、まぁまぁ使えるが… 戦いの面ではハッキリ言って、ド素人だ。
「やっぱりジャンも、ジャメル兄上の命令がオカシイと思うよな?」
「当然だ」
「今まで同盟国の代表が集まるような公式の場には、必ずジャメル兄上が自分の権力を誇示するために、出ていたからな……」
腕組みをしたまま、殿下は首をかしげる。
「そんな重要でめだつ役目を、ディディエ殿下にまかせるなんて… 絶対におかしい! もしかするとだが……」
「うん?」
エリシア様とそっくりのアクアマリンの瞳で殿下はジッ… とオレを見つめ、話に耳を傾ける。
「オレたちに同盟を一方的にぬけられるせいで… 怒り狂った同盟国の代表者たちから、自分が責め立てられたり、もしくは暗殺されるのを恐れているとか…?」
「なるほど… 自分が矢面に立つのが嫌で、面倒な仕事を僕に押しつけたか。 確かにジャメル兄上ならやりそうだ」
「でも、そんな単純な理由とは思えない」
オレは何かを考える時のくせで、執務机を指でトンッ… トンッ… とたたきながら話した。
「うん。 もっと邪悪な理由をジャメル兄上は隠している気がするよな…?」
「腹黒王太子はあきらかに、何かを企んでいるように見えるのに。 オレも殿下も立場上、王太子の命令を聞かなければならないからな…」
「絶対に何か仕掛けてくるよな… ジャメル兄上は」
腕組みをしてジッ… と執務室の青い壁を見つめ、ディディエ殿下は考え込む。
「どうする、殿下?」
こんな時のために腹黒王太子の側近を1人、こちら側にひきこんである。
戦場で王太子の無謀な命令で死にかけ、オレが命を救った男だが… それ以来、腹黒王太子にうらみを持ち、何かあれば必ずこちらに情報を流してくれるのだ。
「そうだな。 どちらにしても僕たちは、ジャメル兄上の命令通り、会議のために隣国へ向かわなければならない」
「説明だけなら、オレたち2人が一緒に行く必要は無いよな?」
会議には大臣の1人も同行する予定だ。
「うん。 ジャンはこっそり、僕とは別行動をするのはどうだろう?」
「…だったら、オレと同じ南方出身で浅黒い肌の部下がいるから、そいつをオレの身代わりにして、殿下の隣に立たせるか?」
これからの方向性が決まれば、次々とアイデアが出て来る。
「良いね、ジャン。 完璧だ! ついでにジャメル兄上が僕に付けた側近たち(監視役)も、何か仕事を見つけて、出発の直前にどこかへ追い払ってしまおう」
ディディエ殿下はニヤリと笑う。
「野放しになったオレは、こっそり王太子の周囲をうろついて情報を集めるか」
腹黒なのは王太子だけではない。 今まで危険な戦場で生き残ってきたウチの殿下も、狡猾さでは負けていない。 王族というだけで荒くれ者の部下たちから、信頼をえられるほど戦場は甘くはないのだ。
英雄と呼ばれるようになるまで、ディディエ殿下は自分の能力を証明し、結果を出してきた。
「後はまかせるよ、ジャン」
「殿下も同盟国の暗殺者には、気をつけてくれよ?」
「ああ」
話がまとまると、オレと殿下はいつもの調子で、おたがいの肩をたたき合う。
「ところでジャン、エリシアの説得は成功したのか?」
「……っぐ」
突然、話が変わり… オレは言葉につまった。
「やっぱり失敗したか!」
「………」
オレは返事をするのが嫌で、渋い顔をした。
「何をグズグズしているんだ、ジャン! 今すぐ後宮へ忍び込んで、夜這いへ行けよ」
後宮を良く知るディディエ殿下は忍び込むのに最適のルートを知っているらしい。 …そしてエリシア殿下には専属の護衛がいないから、そのルートを使えば簡単に部屋まで行けるということだ。
「…何だって? 正気か?!」
「エリシアを誘惑して、気持ちを変えさせるんだよ」
「……クソッ!」
それはもう、試したけど… 結局、最後までエリシア様はオレと『逃げる』…とは言わなかった。
「エリシアはジャンを愛しているから… ジャンが死ぬ気でせまれば、きっと落ちるはずなんだ」
「クソッ!」
だから落ちなかったんだよ!
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