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49話 元婚約者
しおりを挟むエドガーが居なくなった後ジュリーは… 突然、『僕が案内をする』と言い出したジョナサンにエスコートされ、気まずい空気の中、伯爵夫人の部屋へ向かう。
「……」
ジョナサンはきっと… エドガーと結婚した私に、何か文句が言いたいのね? 良いわ! 聞いてあげる。
でも、あなたの嫌味や侮辱を、今日は黙って受け入れたりしないから! 今までは良好な関係を築きたくて、プライドの高いジョナサンに侮辱されても黙っていたけれど… 今の私はエドガーの妻だもの。 侮辱は許さないわ!
花嫁のベールをはずし、顔をさらしたジュリーの表情が… キリッ… と引き締まる。
「お前… 兄上を愛しているのか?」
ジョナサンはエドガーが結婚すると、伯爵邸に連絡をよこした時… ジュリーは男爵家から逃げ出したくて、そのために兄のエドガーを利用しようと、求婚を受け入れたと思っている。
「ええ、愛しているわ…!」
あなたを気づかって、私の気持ちを隠すつもりはないわ! お互い気まずい思いをしたくなくて、黙っていたけど。
妻になった今は、エドガーを愛していると堂々と言える。
ジュリーは即答した。
「うそだ! お前が愛しているのは、裕福な伯爵家の領地と伯爵夫人の立場だろう? お前は人間を愛せるような可愛い女ではないと、僕は昔から知っている! 兄上を利用しているだけだ!」
前夜、ジュリーへの暴言に腹を立てた兄に、殴られたことをジョナサンは、少しも懲りていないらしい。
醜く腫れた痣だらけの顔に、グルグルと包帯を巻いたジョナサンは、ふたたびジュリーを侮辱する。
そんなジョナサンを、ジュリーはフンッ…! と鼻で笑った。
「自分の幸せだけを追い求めて、今まで好きなように生きて来たあなたに… 私の何がわかるの? 私を理解しようとしたことなんて、1度も無いくせに。 なぜ、あなたが私のことを語れるの?」
「なんだと…! 兄上を誑かしたお前のような詐欺師は、ファゼリー伯爵夫人に相応しくない! 今なら婚姻を無効にできるかもしれない。 兄上に結婚はやめると言え!」
カッ… と腹を立てたジョナサンは、ジュリーの細い手首を乱暴につかみ怒鳴り声をあげた。
「そういうあなたは、ファゼリー伯爵家に相応しい息子だったの? あなたが学園を卒業しても、先代伯爵が亡くなるまで伯爵領へ帰って来なかったのは… 王都でどこかの未亡人に夢中になって、愛人のようなことをして遊んでいたからでしょう?」
ジョナサンは学園を卒業後、王都で2年ものあいだ遊んで暮らしていた。
未亡人との付き合いはジョナサンが学園生時代からだ。
「なっ…!」
「田舎に住んでいても、あなたのことは知っているのよ? 地元の女学院で友達になった娘が、王都で暮らす貴族に嫁いで… あなたと同じ時期に学園生だった夫から、あなたの悪い話を聞いたと… 心配して手紙で知らせてくれたから」
私はそれまで、何も知らなかった。
だから… 私を心配する友人にジョナサンの代わりに、『彼なら大丈夫』 …と白々しく弁解するのが、どれだけ恥かしかったか。
「お… お前…っ…!」
動揺したジョナサンは、つかんでいたジュリーの手首を放して後ずさる。
「安心して、アリアーヌには黙っていてあげる。 あの子を不安にさせたくないから… でも、お父様は全部知っているわ!」
時々、王都へ行っていたお父様も、お母様も知っていた。
それほどジョナサンが遊びまわっていたことは、社交界で有名だったのだ。
『独身の男性は、経験を積むためによくあることよ? 結婚すれば落ち着くはずだから… 見守ってあげなさい』
…とジュリーは男爵夫人になだめられた。
「…だから、お前はずっと僕をバカにしていたのか?」
「何を言っているの、あなたは…」
「お前が僕をバカにしていたのは、それが理由なんだろう?!」
王都で浮気をしていた未亡人に、捨てられたのはジョナサンの方だった。
ジョナサンは気づいていないが… 当時エドガーが、ジョナサンと愛人関係にあった未亡人と裏で交渉し、良い結婚相手を紹介することを条件に、縁を切らせ尻拭いをしたのだ。
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