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1話 姉の手紙
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私の姉マグノリアには子供のころから幼馴染みの婚約者がいた。婚約者の名前はクロード様。
クロード様は少し前に爵位を継いで、今ではソールズ伯爵となられた。
今日はソールズ伯爵領にある小さな神殿で、そんな二人の結婚式がおこなわれる。
デントン家は朝から結婚式の準備で、誰もが忙しそうにしているなか。花嫁の妹の私…ビオレータだけが、とても複雑な気持ちでぼんやりとしていた。
「……はぁ。嬉しいような?」
私としては、子供のころから大好きな年上の幼馴染みが、義理のお兄様になるのだから、喜ぶべきことなのだけど。
「胸が痛んで、苦しくて…… ああ、複雑だわ……」
でも大好きな初恋の男性が姉の夫になってしまうのが、とても悲しくて胸が張り裂けそうになる。
「笑わなければいけないのに、うまく笑えない」
マグノリアお姉様の結婚式だから、心から祝う気持ちはある。 …でも笑おうとすると、かってに涙がこぼれそうになり、本当に困っていた。
「ハンカチを3枚はよぶんに、ポケットに入れておかないと… きっと後で足りなくなるわね」
ずっと前からクロード様への恋心を忘れようと、努力を続けてきたのにまったく意味がなかった。むしろ忘れようとすればするほど、胸の痛みが強くなって自分がどれだけ彼のことを好きなのか、自覚するばかり。
今もクロード様が大好きだ。記憶喪失にでもならないかぎり、恋心は消えることはない。
「でも… お姉様と結婚したら、私の愛は少しはうすれるかしら?」
ハァ──… とまた大きなため息が出てしまう。
結婚式に出席するために用意した、さわやかな水色のドレスに着替えて、姉の準備がととのうのを、一人さびしく居間で待っていると… 青い顔をしたお母様が、あわてて私のもとへやって来た。
「まぁ! ビオレータ、こんなところにいたのね? ちょっといらっしゃい!」
「どうしたのですか、お母様?」
「とにかく、いらっしゃい! ビオレータ!」
「はい…?」
さっきは『あなたはボンヤリしていて、邪魔になるから居間で待っていなさい』 …と、お姉様の準備を手伝おうとした私を、お母さまが追い出したのに。
(んんん? 何かしら……?)
こんな時でも、おっとりとした性格の私が首を傾げてゆっくり考えこんでいると……
「とにかく、早くいらっしゃい。ビオレータ!」
「ああ、はい…?」
お母様に腕をつかまれ、姉のマグノリアが花嫁の準備をしている客間へと、ものすごい力でグイグイと引っぱられて、私はつれて行かれた。
バタンッ!
…とお母様にしては乱暴に客間の扉を閉めると、私を急かした。
「さぁ、ビオレータ! 急いでそのドレスを脱ぎなさい!!」
「え?! お… お母様?! どうしたのですか?!」
「とにかく、早くドレスを脱いで! 時間が無いの!」
いつもは穏やかなお母様がまるで悪魔のような怖い顔で、私にドレスを脱げとせまってくる。
私はお母様の迫力に負けて、わけもわからずうなずいた。
「は… はい」
(なんだか怖いわ、お母様。いったい何がおきているの?)
私が水色のドレスをもじもじと脱ぎ始めると… お母様がチッ! と舌打ちをした。
「ちょっと、そこのあなた! 何をボンヤリしているの? 早くビオレータがドレスを脱ぐのを手伝いなさい!」
「は… はい、奥様!」
「急いでちょうだい!」
お母様は近くにいた使用人にイライラと命令する。
「あ… あの、お母様……? どうして私がドレスを脱ぐの?」
(私、こんなに恐ろしいお母様は初めて見たわ。いったい何が起きているの?)
私は背中のボタンを使用人に外してもらうあいだ、目が合ったお母様にたずねると、お母様は顔をしかめて口を開いた。
「ビオレータ… マグノリアが家出したの」
「……は?!」
「花嫁のドレスを着せて、髪も綺麗に結って、お化粧も終わって…… 婚姻の儀式をする神殿へ行く前に、少しだけ1人にしてほしいと、マグノリアが言うから。私たちはあの子を残してこの部屋を出たの」
「まぁ……」
(なんでお姉様は結婚式の直前になって、逃げ出したの?)
お母様は悔しそうに形の良い赤い唇を噛んだ。テーブルの上に置いてあった手紙を取って、私に手渡してくれる。
「私たちが部屋からいなくなったすきに、マグノリアはドレスを着替えて、窓から逃げ出したのよ」
「まぁ… なんてこと。いったい、お姉様は何を考えているの?」
お母様に渡された、姉が残した手紙を見ると… それは姉のマグノリアから私に宛てたものだった。
“ビオレータへ。
大切な用事があるから、私の代わりにクロードと結婚しておいて。
あなたの姉マグノリアより”
思わず私は首を傾げた。
「………自分の結婚式よりも大切なこととは、何かしら?」
マグノリアお姉様は、昔から気が強くて大胆なところがある人で… 私はそんなお姉様が羨ましかった。
私はお姉様とは違い、気が小さくて流されやすい性格で、決められたルールや常識の中でしか上手く生きられないから。
…だけど、こんな大きなことをやらかすなんて。ぼんやり気味の私でもさすがに呆れてしまう。
クロード様は少し前に爵位を継いで、今ではソールズ伯爵となられた。
今日はソールズ伯爵領にある小さな神殿で、そんな二人の結婚式がおこなわれる。
デントン家は朝から結婚式の準備で、誰もが忙しそうにしているなか。花嫁の妹の私…ビオレータだけが、とても複雑な気持ちでぼんやりとしていた。
「……はぁ。嬉しいような?」
私としては、子供のころから大好きな年上の幼馴染みが、義理のお兄様になるのだから、喜ぶべきことなのだけど。
「胸が痛んで、苦しくて…… ああ、複雑だわ……」
でも大好きな初恋の男性が姉の夫になってしまうのが、とても悲しくて胸が張り裂けそうになる。
「笑わなければいけないのに、うまく笑えない」
マグノリアお姉様の結婚式だから、心から祝う気持ちはある。 …でも笑おうとすると、かってに涙がこぼれそうになり、本当に困っていた。
「ハンカチを3枚はよぶんに、ポケットに入れておかないと… きっと後で足りなくなるわね」
ずっと前からクロード様への恋心を忘れようと、努力を続けてきたのにまったく意味がなかった。むしろ忘れようとすればするほど、胸の痛みが強くなって自分がどれだけ彼のことを好きなのか、自覚するばかり。
今もクロード様が大好きだ。記憶喪失にでもならないかぎり、恋心は消えることはない。
「でも… お姉様と結婚したら、私の愛は少しはうすれるかしら?」
ハァ──… とまた大きなため息が出てしまう。
結婚式に出席するために用意した、さわやかな水色のドレスに着替えて、姉の準備がととのうのを、一人さびしく居間で待っていると… 青い顔をしたお母様が、あわてて私のもとへやって来た。
「まぁ! ビオレータ、こんなところにいたのね? ちょっといらっしゃい!」
「どうしたのですか、お母様?」
「とにかく、いらっしゃい! ビオレータ!」
「はい…?」
さっきは『あなたはボンヤリしていて、邪魔になるから居間で待っていなさい』 …と、お姉様の準備を手伝おうとした私を、お母さまが追い出したのに。
(んんん? 何かしら……?)
こんな時でも、おっとりとした性格の私が首を傾げてゆっくり考えこんでいると……
「とにかく、早くいらっしゃい。ビオレータ!」
「ああ、はい…?」
お母様に腕をつかまれ、姉のマグノリアが花嫁の準備をしている客間へと、ものすごい力でグイグイと引っぱられて、私はつれて行かれた。
バタンッ!
…とお母様にしては乱暴に客間の扉を閉めると、私を急かした。
「さぁ、ビオレータ! 急いでそのドレスを脱ぎなさい!!」
「え?! お… お母様?! どうしたのですか?!」
「とにかく、早くドレスを脱いで! 時間が無いの!」
いつもは穏やかなお母様がまるで悪魔のような怖い顔で、私にドレスを脱げとせまってくる。
私はお母様の迫力に負けて、わけもわからずうなずいた。
「は… はい」
(なんだか怖いわ、お母様。いったい何がおきているの?)
私が水色のドレスをもじもじと脱ぎ始めると… お母様がチッ! と舌打ちをした。
「ちょっと、そこのあなた! 何をボンヤリしているの? 早くビオレータがドレスを脱ぐのを手伝いなさい!」
「は… はい、奥様!」
「急いでちょうだい!」
お母様は近くにいた使用人にイライラと命令する。
「あ… あの、お母様……? どうして私がドレスを脱ぐの?」
(私、こんなに恐ろしいお母様は初めて見たわ。いったい何が起きているの?)
私は背中のボタンを使用人に外してもらうあいだ、目が合ったお母様にたずねると、お母様は顔をしかめて口を開いた。
「ビオレータ… マグノリアが家出したの」
「……は?!」
「花嫁のドレスを着せて、髪も綺麗に結って、お化粧も終わって…… 婚姻の儀式をする神殿へ行く前に、少しだけ1人にしてほしいと、マグノリアが言うから。私たちはあの子を残してこの部屋を出たの」
「まぁ……」
(なんでお姉様は結婚式の直前になって、逃げ出したの?)
お母様は悔しそうに形の良い赤い唇を噛んだ。テーブルの上に置いてあった手紙を取って、私に手渡してくれる。
「私たちが部屋からいなくなったすきに、マグノリアはドレスを着替えて、窓から逃げ出したのよ」
「まぁ… なんてこと。いったい、お姉様は何を考えているの?」
お母様に渡された、姉が残した手紙を見ると… それは姉のマグノリアから私に宛てたものだった。
“ビオレータへ。
大切な用事があるから、私の代わりにクロードと結婚しておいて。
あなたの姉マグノリアより”
思わず私は首を傾げた。
「………自分の結婚式よりも大切なこととは、何かしら?」
マグノリアお姉様は、昔から気が強くて大胆なところがある人で… 私はそんなお姉様が羨ましかった。
私はお姉様とは違い、気が小さくて流されやすい性格で、決められたルールや常識の中でしか上手く生きられないから。
…だけど、こんな大きなことをやらかすなんて。ぼんやり気味の私でもさすがに呆れてしまう。
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