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9話 家出の理由
それまで黙りこんでいたお母様が、クロード様とお姉様の言い争いを止めようと、話に割って入った。
「まぁ… まぁ… クロード様、少し落ち着いて下さい。まずは仲良くお茶でも飲みましょう。たくさんお話しをしたから喉がかわいてしまったのではないかしら?」
「おおっ、そうだ! クロード卿、そうしよう!」
クロード様が静かに激怒するオーラを感じたお母様は、必死でなだめようとお茶をすすめはじめる。お父様も頬をヒクヒクとさせながら、お母様に賛同する。
「ありがとうございます。デントン夫人、オルランド卿。 …ですが今はマグノリアとこのくだらない話を終わらせたいので、後ほどお付き合い下さると嬉しいです」
礼儀正しくクロード様はお茶を断り苦笑した。
明らかにお姉様に対する態度とは違い、クロード様の瞳に冷たさは無く、やわらかく和ませている。
クロード様と両親のやり取りを見て、お姉様は自分への態度との違いに感情的になり、癇癪を爆発させた。
ローテーブルに置かれたティーカップを、カチャンッ! と鳴らすほど勢いよく立ちあがり、お姉様は拳を振って怒鳴り散らす。
「…そうやって! クロードはいつも私以外の人には礼儀正しいのに。“妹のビオレータのように淑女になれ” …とお説教をしたり。子供扱いをしてバカにしたり。どうして私にだけ意地悪なの?」
「お… お姉様、落ち着いて」
私はなだめようと、手をのばしてお姉様の手に触れようとしたら、パシッ! …と振り払われてしまう。
腹を立てるお姉様の姿を見て、クロード様がハァ──… とため息をつき、お姉様の問いかけに答えた。
「マグノリア、それは君がいつも子供っぽい我がままで僕を困らせるからだよ」
「何ですって?」
「ビオレータは今の君のように、大声で怒鳴るような無作法なことはしない」
「それはクロードが私を侮辱するからよ!」
顔を真っ赤にして怒鳴るお姉様から、クロード様はうんざりしたようすで視線を外す。
隣にいる私と目が合うと、クロード様はニコリとほほ笑む。そしてすぐに冷ややかな目でお姉様へ視線を戻した。
「僕が説教をするから? そんな理由で君は、自分の結婚式から逃げ出したのか?」
私に対するクロード様の優し気な態度を見て、ますますお姉様は腹をたてる。
「いつもクロードがビオレータを淑女だと褒めているから! 結婚式だけあなたのために代わってあげたのよ! 満足したでしょう? あなたが大好きな淑女と、結婚式が出来たのよ?」
お姉様のこの言い方にはさすがにカチンッときて、私も冷静ではいられず声をあげた。
「『代わってあげた』 …ですって? お姉様はどれだけ残酷なの!」
(クロード様がどれだけお姉様のことを、愛しているのか知らないの? 知っていてもこんなことを言っているの?)
「そうよ、ビオレータ。私はクロードに罰をあたえたの! …だからクロード! あなたもこれに懲りたら、ビオレータばかり褒めるのはやめてちょうだい! これからは私を妻として尊重して!」
「………」
「………」
呆れすぎて開いた口が塞がらない。クロード様も私も思わず黙りこんだ。
それにお姉様の口から『私を妻として…』と聞き驚いた。
自分の結婚式から逃げ出したお姉様が、クロード様と結婚する気でいたとは思わなかったから。
何となくクロード様と結婚したくないから、マグノリアお姉様は逃げ出したと思っていた。
「マグノリア… あなたはビオレータに嫉妬して… 身代わりをさせたの?」
デントン婦人が静かにたずねた。
「そうよ、お母様! クロードは私のことは子供のように軽くあつかうのに! ビオレータと話す時は、いつも礼儀正しくしているのよ? こんなのおかしいし、不公平だわ!」
お姉様は怒鳴りながらジロリッ… とクロード様と私を悔しそうに睨んだ。
「私に嫉妬していた? そんな… お姉様が私のことをそんなふうに思っていたなんて」
(知らなかったわ)
私はいつもお姉様とクロード様が子供のころのように、口ゲンカをしたり揶揄いあっているのが羨ましくて、嫉妬していたのに…
「お母様、婚約者は私なのにクロードは少しも私を大切にしようとしないの。だから少しあわてさせれば、ビオレータよりも私がどれだけ大切な存在なのか、クロードも気づくと思ったの」
「マグノリア… それで家出したの?」
「ええ、そうよ!」
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