【完結】婚約破棄された悪役令嬢は、元婚約者を諦められない

作戦

　アリオンが言うには、イオはクロエに安心してるから、安心させなければいいと言った。

「それって、具体的に私は何をすればいいの？」

　クロエが聞くと、アリオンはシンプルに答えた。

「簡単だよ。クロエは、ただ僕としゃべったり、お昼を一緒に食べたりしてくれればいい。」

　クロエはにわかに信じられないような顔をして、

「それだけ？でも、それでイオは嫉妬してくれるかしら。そっちと仲良くするんだったら、俺はもういいや～ってならない？」

「多分だけど、ならないと思う。クロエが離れていきそうになって、焦らない男はいないよ。」

　アリオンはそう言ったが、クロエは半信半疑だった。イオはセリーナに夢中のはずだから、クロエのことなど気にも留めていないのではないかと思った。

　翌日から、アリオンと一緒に登校してみた。

　作戦とはいえ、２人で登校するなど久しぶりだったし、色んな話ができて楽しかった。

　アリオンは以前ほど、完璧な人間ではなくなっていた。冗談も言うし、意外と情けないことも言う。

　クロエは、婚約者だった頃のアリオンより、今の方が魅力的だなと思った。

　昼休み、教室から出た時に、イオによびとめられた。

「クロエ・・・！！」

　クロエはびっくりした。久しぶりにイオから話しかけられた。

「あら、イオ。久しぶりね。」

　クロエはにっこり微笑んだ。

「この前は、約束破ってごめん。埋め合わせしたいんだ。今日の放課後あの場所に来れる？」

　イオに聞かれ、クロエは内心嬉しかった。

　しかし、ここで行くと言ってしまえば、クロエは安心枠に収まるだけで、きっとまた、イオはセリーナを優先するようになるだろう。

「ごめんなさい、今日は約束があるから、私行けない。それに、イオはセリーナに付いてた方がいいんじゃない？きっとまた寂しがるわよ。体調も不安定みたいだったし。」

　嫌味だっただろうか？だが、クロエは嫌味の１つでも言ってやりたい気持ちだった。

　そして、作戦ではなく、クロエの本音をはっきりと伝えた。

「私、あなたを待つのはもう辞める。イオは戻ってきてくれるかなって思ってたけど、わたしの勘違いだったみたい。私は、私のことを一番に考えてくれる人がいいの。イオは好きにしたらいいわ。」

　クロエがそう言った後、ちょうどのタイミングでアリオンが迎えに来た。昼食を一緒に食べる予定だった。

「クロエ、行こうか。」

　アリオンはイオをチラッと見て、何も言わずにクロエの背中に手を当て、連れていった。

　クロエは一瞬イオを見たが、後ろ姿で表情までは分からなかった。

　◇

　食堂のテーブルには、突っ伏して動かなくなったイオがいた。

　リナリーとラリーはめんどくさそうな顔をして顔を見合わせた。

「アリオンかぁ。。。寝た子を起こしちゃったねぇ。」

　とラリーが呟いた。

　その時、食堂の入り口で、セリーナが手を振りながら近づいて来るのが見えた。イオを探しにきたらしい。

　リナリーが

「うーわ。噂の姫が騎士様を探しに来たよ。」

　とイオをからかった。

　その時、セリーナの少し奥に、一人の女子生徒が見えた。何か光るものを手に持っている。

　周りの生徒の「きゃー！！！」という悲鳴が、食堂に響き渡った。

　ルイの婚約者メアリが、ナイフを手に持って立っていた。