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十章 嫉妬
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月曜日に登校すると、新(あらた)の席には智美が遊びに来ていて、なにやら楽しげに会話をしていた。
友里は新を一瞥した後、自分の席に座り、期末試験の勉強でもしようかとテキストを取り出した。
新に気が合ったであろう何人かの女子達は、仲の良さげなカップルを非常に面白くなさそうな顔で見ていた。
(俺もこの女子の一員だな。)
未練がましい自分に苦笑していると、壮一から声をかけられた。
「冴木、おはよ。」
「おはよ。あれ、名前で呼ばないんだ?」
「うん。あれは、二人の時だけでいい。」
「そっか。分かったよ横山。」
友里が微笑むと、壮一も照れたように笑顔を見せた。
なんだか馬鹿な恋人同士の会話みたいだなとニヤついていると、遠くから視線を感じた。新がこちらを不思議そうに見ていた。
目が合ってしまったので、友里は慌てて視線を反らし、壮一に話しかけた。
新は彼女優先にすると言っていたし、友里も新とは距離を置こうと思っていた。
新は自分のような底辺とは関わらない方がいい、友里はそう考えるようになった。
好きだと伝えなくて本当に良かった。
汚れた自分が、優しくされたことを勘違いし、新のことを好きだなどとおこがましいにも程がある。
グルグルと色んなことを考えていると、壮一に「冴木、一限目体育だよ。」と声をかけられた。
「体育!?あー········俺無理だな。先生に言ってくる。」
まだ痛むところがあったし、何より、着替える時に身体を見られたくなかった。跡が消えていなかったからだ。
教室を出て職員室に向かっていると、廊下で新から呼び止められた。
「友里!」
友里が振り向くと、新はどこか気まずそうな顔をして近寄ってきた。
「どこ行くん?」
「職員室。体育見学しようと思って。」
「また?お前顔色悪いな。大丈夫?······それよりさ、一昨日、電話で何か言おうとしてた?」
新が気にしていたことが意外だった。友里は、「何だっけ。忘れちゃった。」と軽く笑い飛ばし、新を残して職員室へ向かった。
見学したいと伝えると、体育教師は大きなため息をつき、呆れたように友里を睨んだ。
「冴木。お前また見学か?そんなんじゃ評価つけれないぞ。それとな········冴木、学校の外で変なことはしてないよな?」
変なことという言い方が気になった。アルバイトのことなのか、外泊のことなのか、友里には分からなかった。
「コンビニのアルバイトですか?それは前に先生に怒られて、もう辞めました。」
「じゃなくてな、信じ難いような噂を聞いたんだよ。とにかく、放課後生徒指導室にきなさい。」
一体何だというのだろう。たまたま耳にした噂など放っておけばいいのに。面倒くさいことになったと、友里は舌打ちをした。
昼休みになり、智美は新の席へやってきて弁当を広げていた。
友里はできるだけ新達を気にしないよう席を立ち、壮一と連れ立って中庭にやってきた。
「お昼、一緒に食べるの初めてじゃない?」
「うん。本当はずっと声かけたかった。」
壮一が照れながら言うので、友里はからかいたくなり、壮一の肩を組んだ。
「そうは俺のこと大好きじゃん!」
壮一は余計に顔を赤くし、「え、うん、そうだよ。」と言った。
友里と壮一が笑いながら雑談していると、二階の校舎から声が聞こえた。
「冴木くーん!」
智美が手を振っている。友里とは一度話しただけなのに愛想良くしてくれるなんて、すごく性格がいい子なのだろう。隣には新もいて、顎に肘をつきこちらを見下ろしていた。
「あっ冴木君、手振り返してくれた!冴木君ってさぁ、不思議な魅力あるよね。」
智美は無邪気に喜んだ後、椅子に座り直し、途中だった友達の彼氏の話を再開した。
新は窓から中庭をぼんやりと見つめたまま、智美の話に相槌を打っていた。
「···········って、新、話聞いてる?」
「うん。聞いてるよ。」
「それ、クセなの?」
智美は、新の机の上に置かれた手を指さした。新が机の上で、指をトントンと鳴らすことを指摘した。
「イライラしてるように見えるし、忙しないから止めたほうがいいよ。そのクセ。」
「ああ、悪い。」
新は机の上から手を下ろし、膝の上で組んだ。智美の話を聞きながらも、イライラすることは止められなかった。
友里は新を一瞥した後、自分の席に座り、期末試験の勉強でもしようかとテキストを取り出した。
新に気が合ったであろう何人かの女子達は、仲の良さげなカップルを非常に面白くなさそうな顔で見ていた。
(俺もこの女子の一員だな。)
未練がましい自分に苦笑していると、壮一から声をかけられた。
「冴木、おはよ。」
「おはよ。あれ、名前で呼ばないんだ?」
「うん。あれは、二人の時だけでいい。」
「そっか。分かったよ横山。」
友里が微笑むと、壮一も照れたように笑顔を見せた。
なんだか馬鹿な恋人同士の会話みたいだなとニヤついていると、遠くから視線を感じた。新がこちらを不思議そうに見ていた。
目が合ってしまったので、友里は慌てて視線を反らし、壮一に話しかけた。
新は彼女優先にすると言っていたし、友里も新とは距離を置こうと思っていた。
新は自分のような底辺とは関わらない方がいい、友里はそう考えるようになった。
好きだと伝えなくて本当に良かった。
汚れた自分が、優しくされたことを勘違いし、新のことを好きだなどとおこがましいにも程がある。
グルグルと色んなことを考えていると、壮一に「冴木、一限目体育だよ。」と声をかけられた。
「体育!?あー········俺無理だな。先生に言ってくる。」
まだ痛むところがあったし、何より、着替える時に身体を見られたくなかった。跡が消えていなかったからだ。
教室を出て職員室に向かっていると、廊下で新から呼び止められた。
「友里!」
友里が振り向くと、新はどこか気まずそうな顔をして近寄ってきた。
「どこ行くん?」
「職員室。体育見学しようと思って。」
「また?お前顔色悪いな。大丈夫?······それよりさ、一昨日、電話で何か言おうとしてた?」
新が気にしていたことが意外だった。友里は、「何だっけ。忘れちゃった。」と軽く笑い飛ばし、新を残して職員室へ向かった。
見学したいと伝えると、体育教師は大きなため息をつき、呆れたように友里を睨んだ。
「冴木。お前また見学か?そんなんじゃ評価つけれないぞ。それとな········冴木、学校の外で変なことはしてないよな?」
変なことという言い方が気になった。アルバイトのことなのか、外泊のことなのか、友里には分からなかった。
「コンビニのアルバイトですか?それは前に先生に怒られて、もう辞めました。」
「じゃなくてな、信じ難いような噂を聞いたんだよ。とにかく、放課後生徒指導室にきなさい。」
一体何だというのだろう。たまたま耳にした噂など放っておけばいいのに。面倒くさいことになったと、友里は舌打ちをした。
昼休みになり、智美は新の席へやってきて弁当を広げていた。
友里はできるだけ新達を気にしないよう席を立ち、壮一と連れ立って中庭にやってきた。
「お昼、一緒に食べるの初めてじゃない?」
「うん。本当はずっと声かけたかった。」
壮一が照れながら言うので、友里はからかいたくなり、壮一の肩を組んだ。
「そうは俺のこと大好きじゃん!」
壮一は余計に顔を赤くし、「え、うん、そうだよ。」と言った。
友里と壮一が笑いながら雑談していると、二階の校舎から声が聞こえた。
「冴木くーん!」
智美が手を振っている。友里とは一度話しただけなのに愛想良くしてくれるなんて、すごく性格がいい子なのだろう。隣には新もいて、顎に肘をつきこちらを見下ろしていた。
「あっ冴木君、手振り返してくれた!冴木君ってさぁ、不思議な魅力あるよね。」
智美は無邪気に喜んだ後、椅子に座り直し、途中だった友達の彼氏の話を再開した。
新は窓から中庭をぼんやりと見つめたまま、智美の話に相槌を打っていた。
「···········って、新、話聞いてる?」
「うん。聞いてるよ。」
「それ、クセなの?」
智美は、新の机の上に置かれた手を指さした。新が机の上で、指をトントンと鳴らすことを指摘した。
「イライラしてるように見えるし、忙しないから止めたほうがいいよ。そのクセ。」
「ああ、悪い。」
新は机の上から手を下ろし、膝の上で組んだ。智美の話を聞きながらも、イライラすることは止められなかった。
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