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二回目の治療
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その日、イェリがアクレンの屋敷へ向かう途中、エイデルとばったり会ったので雑談しながら一緒に向かうことにした。
エイデルは先日よりもさらに機嫌が良さそうで安心した。エイデルはルイスやアクレンよりも遥かにおしゃべりで、魔王討伐の旅の話を面白おかしく話してくれた。
初めてその話を聞いたイェリはとても興味深く、エイデルの話しに聞き入ってしまった。
アクレンの屋敷に到着してからも、エイデルは変わらず喋り続けた。イェリは笑って相槌をうちながらアクレンとルイスの待つ部屋に入った。
「イェリ!エイデル!久しぶり。····って、二人ともいつの間にそんなに仲良くなったんだ?イェリ、エイデルはずっとしゃべり続けるから、適当に聞き流さないと疲れるぞ。」
アクレンが冗談を言ったので、その場の雰囲気が和んだ。イェリは内心ほっとしながら、アクレンの横に立っているルイスに目をやった。
ルイスは一見すると、少し痩せはしたが、なんら不自然な様子はなかった。固い表情でイェリを見ている。
「ルイス様は、調子はいかがですか?顔色は悪くないように見えます。」
イェリはできるだけ自然に、にこやかにそう尋ねた。
ルイスとは、他人かのような態度を取らざるをえなかった。今はあくまで患者と薬師という立場だし、アクレンやエイデルのいる前でプライベートな顔を見せるのはおかしいからだ。また、この絡みあった関係性の中で、以前のように彼に接するのは到底難しかった。
イェリの問いかけに反応したルイスは、固い表情のまま、
「体調は悪くない。イェリの薬のおかげだ。ありがとう。」
と小さな声で言った。
イェリは微笑むと、ルイスとエイデルを座らせ、体調についていくつか質問をした。
「薬の処方に関わる質問なので、偽らず正直に答えてくださいね。今は、相手の方のことをどの程度考えますか?頻度とか時間とか、詳しく教えてください。」
この質問に対し、すぐさまエイデルが流暢に話し始めた。
「私は、今は一日にニ~三回程度だな。ふとした時に、サリーヤの仕草や表情を思い出し、顔を見たいなと思うことがある。しかし、すぐに他のことで気が紛れ、長くは考えなくなった。夜も眠れる。」
「分かりました。いい兆候ですね!それでは、ルイス様は?」
ルイスは目線を外し、言いにくそうにしていた。
「ルイス様、何も気にせず仰ってください。」
イェリが優しい声でそう言うと、ルイスは言葉を選ぶように答え始めた。
「僕は、常にその人のことを考えてはいる······ただ、考えない時間は増えてきて、一日に数時間は他のことを、──他の人のことを考えている。物に当たったり自分を傷付けたり、そういう暴力的な衝動はなくなった。」
ルイスはわざとサリーヤの名前を出さなかったのだろう。『他の人』というのが誰のことなのかは、イェリはあえて触れなかった。
「そうですか。ルイス様は、一番何をしている時にその人のことを思い出すんです?夜は眠れますか?」
「──────一番思い出すのは、寝る前と、朝起きた時·········かな。夜はあまり眠れない。」
その時、黙って聞いていたエイデルが皮肉も込めてなのか、かなり余計なことを口走った。
「ああ、ルイスはサリーヤと四六時中ヤッてたもんな。そりゃあベッドで彼女のことを思い出すさ。朝起きたら隣にいないしな。」
アクレンは眉をひそめ、失言したエイデルを一喝した。
「おい、エイデル、これは治療なんだぞ。余計なことを言うな!」
エイデルは「おお怖い。すまないな。」と肩を竦めた。
イェリは内心チクりと心が痛んだが、気を取り直して言葉を続けた。
「···········お二人ともありがとうございます。それでは、エイデル様は解毒剤を量を減らし処方しますね。ルイス様は·····前回と同じ量を三回分と、眠りやすいように睡眠導入薬も出します。」
そうして二回目の治療は終わり、イェリはエイデルと共に退室しようとした。部屋を出る直前、ルイスに腕を掴まれ呼び止められた。
「イェリ!············」
イェリは驚き振り向いたが、すぐにアクレンが間に割って入った。
「イェリ、薬剤部まで送るよ。ルイスは部屋で安静にしてろ。寝てないだろ?」
なんでお前までついてくるんだとエイデルは文句を言いながら、アクレンとイェリ、エイデルは連れ出って屋敷を後にした。
部屋を出た後、イェリがちらっとルイスの方を振り向くと、一人部屋に残されたルイスが、イェリの背中に回されたアクレンの腕を執拗に見ていた。
エイデルは先日よりもさらに機嫌が良さそうで安心した。エイデルはルイスやアクレンよりも遥かにおしゃべりで、魔王討伐の旅の話を面白おかしく話してくれた。
初めてその話を聞いたイェリはとても興味深く、エイデルの話しに聞き入ってしまった。
アクレンの屋敷に到着してからも、エイデルは変わらず喋り続けた。イェリは笑って相槌をうちながらアクレンとルイスの待つ部屋に入った。
「イェリ!エイデル!久しぶり。····って、二人ともいつの間にそんなに仲良くなったんだ?イェリ、エイデルはずっとしゃべり続けるから、適当に聞き流さないと疲れるぞ。」
アクレンが冗談を言ったので、その場の雰囲気が和んだ。イェリは内心ほっとしながら、アクレンの横に立っているルイスに目をやった。
ルイスは一見すると、少し痩せはしたが、なんら不自然な様子はなかった。固い表情でイェリを見ている。
「ルイス様は、調子はいかがですか?顔色は悪くないように見えます。」
イェリはできるだけ自然に、にこやかにそう尋ねた。
ルイスとは、他人かのような態度を取らざるをえなかった。今はあくまで患者と薬師という立場だし、アクレンやエイデルのいる前でプライベートな顔を見せるのはおかしいからだ。また、この絡みあった関係性の中で、以前のように彼に接するのは到底難しかった。
イェリの問いかけに反応したルイスは、固い表情のまま、
「体調は悪くない。イェリの薬のおかげだ。ありがとう。」
と小さな声で言った。
イェリは微笑むと、ルイスとエイデルを座らせ、体調についていくつか質問をした。
「薬の処方に関わる質問なので、偽らず正直に答えてくださいね。今は、相手の方のことをどの程度考えますか?頻度とか時間とか、詳しく教えてください。」
この質問に対し、すぐさまエイデルが流暢に話し始めた。
「私は、今は一日にニ~三回程度だな。ふとした時に、サリーヤの仕草や表情を思い出し、顔を見たいなと思うことがある。しかし、すぐに他のことで気が紛れ、長くは考えなくなった。夜も眠れる。」
「分かりました。いい兆候ですね!それでは、ルイス様は?」
ルイスは目線を外し、言いにくそうにしていた。
「ルイス様、何も気にせず仰ってください。」
イェリが優しい声でそう言うと、ルイスは言葉を選ぶように答え始めた。
「僕は、常にその人のことを考えてはいる······ただ、考えない時間は増えてきて、一日に数時間は他のことを、──他の人のことを考えている。物に当たったり自分を傷付けたり、そういう暴力的な衝動はなくなった。」
ルイスはわざとサリーヤの名前を出さなかったのだろう。『他の人』というのが誰のことなのかは、イェリはあえて触れなかった。
「そうですか。ルイス様は、一番何をしている時にその人のことを思い出すんです?夜は眠れますか?」
「──────一番思い出すのは、寝る前と、朝起きた時·········かな。夜はあまり眠れない。」
その時、黙って聞いていたエイデルが皮肉も込めてなのか、かなり余計なことを口走った。
「ああ、ルイスはサリーヤと四六時中ヤッてたもんな。そりゃあベッドで彼女のことを思い出すさ。朝起きたら隣にいないしな。」
アクレンは眉をひそめ、失言したエイデルを一喝した。
「おい、エイデル、これは治療なんだぞ。余計なことを言うな!」
エイデルは「おお怖い。すまないな。」と肩を竦めた。
イェリは内心チクりと心が痛んだが、気を取り直して言葉を続けた。
「···········お二人ともありがとうございます。それでは、エイデル様は解毒剤を量を減らし処方しますね。ルイス様は·····前回と同じ量を三回分と、眠りやすいように睡眠導入薬も出します。」
そうして二回目の治療は終わり、イェリはエイデルと共に退室しようとした。部屋を出る直前、ルイスに腕を掴まれ呼び止められた。
「イェリ!············」
イェリは驚き振り向いたが、すぐにアクレンが間に割って入った。
「イェリ、薬剤部まで送るよ。ルイスは部屋で安静にしてろ。寝てないだろ?」
なんでお前までついてくるんだとエイデルは文句を言いながら、アクレンとイェリ、エイデルは連れ出って屋敷を後にした。
部屋を出た後、イェリがちらっとルイスの方を振り向くと、一人部屋に残されたルイスが、イェリの背中に回されたアクレンの腕を執拗に見ていた。
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