【完結】勇者一行の後遺症~勇者に振られた薬師、騎士の治療担当になる~

きなこもち

文字の大きさ
18 / 27

理不尽

しおりを挟む
 ルイスと別れた翌朝、王宮の薬剤部がある建物の周辺は異様な雰囲気に包まれていた。
 十数人の兵士が建物を取り囲み、イェリの上司は兵士にあれこれと質問されているようで、心底困り果て戸惑っている様子だった。

 イェリが恐る恐る近付くと、イェリに気付いた兵士達の目の色が変わり、兵士は突然イェリを取り囲んだ。
「な、何なんですか!?」
「薬師のイェリだな。王女様がお呼びだ。今すぐ抵抗せずについてこい。」
 兵士の低く脅すような声と表情に圧倒され、イェリは有無を言わさずついていくしかなかった。『抵抗せず』ということは、何かイェリに嫌疑がかけられているのだ。

 外には薬師の同僚達が揃っていて、兵士に連れていかれるイェリを心配そうに見ていた。皆が動揺する中で一人、イェリと唯一仲の良かったレイザだけは、驚きもせず、ただ少し気まずそうな、憐れむような目をイェリに向けてきた。
 その表情を見た時、イェリは何か不吉なことが起こる予感がしてならなかった。

 イェリが連れてこられたのは、本宮の中にある、王女が居住する宮殿の一室であった。
 イェリは何故か両脇を兵士から掴まれたまま床に膝をつかされ身動きが取れなかった。それだけで恐怖におののいたイェリであったが、すぐにその恐怖は絶望に変わった。
 王女と聖女サリーヤが、連れだって部屋に入ってきたのだ。

 王女は信仰深い人物だ。時にその信仰心は行き過ぎた面があり、神に背いた者は、例え盗みなどの軽い犯罪であっても、容赦なく拷問し殺されると聞いたことがある。
 その王女が、神の使者とされる聖女サリーヤと一緒にいる。
 サリーヤは今や国で最も尊い女性で、信仰の象徴とも呼ばれる存在だ。王女がサリーヤに傾倒していることは、誰の目にも明らかだった。

「あなたが薬師のイェリね。何故ここに連れてこられたか分かる?」
 王女は、まるでごみでも見るような目でイェリを見下ろしてきた。
「お、王女様················恐れながら、私には見当もつきません────!」
 イェリは震える声でなんとか言葉を振り絞った。
 王女は、はぁと呆れたように小さくため息をついた。
「まだとぼけるの?正直に言った方が身のためよ。サリーヤが教えてくれたの。あなた今、魔王討伐を果たした勇者ルイス、騎士アクレン、魔法使いエイデルに、『治療』と称して怪しげな薬を飲ませているでしょう。」
「··················!!!」
 イェリは目を見開いた。治療のことは、本人達と薬剤部の人間しか知りえないことだったからだ。誰かがサリーヤに密告したのだ。イェリを憐憫の目で見ていた、レイザの顔が浮かんだ。
「王女様!私が彼らに治療を行っていたことは事実です·······!しかし、怪しいものではなく適切なものでした。治療の効果も出ていましたし··········」
 王女は鼻で笑うと、挑むような目をイェリに向けてきた。
「へぇ。それはどんな治療だったの?隠さずに言ってみなさい。」
 イェリはちらりとサリーヤを見たが、サリーヤは無表情でイェリを見下ろしていた。
「ルイス様、アクレン様、エイデル様は、『魅了魔法』にかかってらっしゃいました。恋とはまた別の、サリーヤ様を異常に愛してしまう魔法です。その状態を治すよう依頼を受け、治療に当たっていました。」
「そう。では、その魅了魔法とやらはここにいる聖女サリーヤが彼らにかけたと?魔王討伐を果たした英雄が何故、そんな馬鹿げたことをすると思う?」
 イェリはたじろいでしまった。何故サリーヤがそんな狂気じみたことをしたかなど、イェリに分かるはずはなかった。
「恐れながら、それは、私にも分かりかねます········!で、ですが────魅了状態にあったことは事実です!ご本人方に聞いていただければ分かります!」
 その場に妙な沈黙が流れた。イェリはこの沈黙に耐えきれず胃の中のものを吐いてしまいそうだった。
「···········あなたのこと調べたの。」
 突如、王女がゆっくりと話し始めた。
「勇者ルイスとは同郷だそうね。故郷でも薬屋で働いていて、そこで売っていた薬はなんだったかしら。『恋愛が上手くいく薬』『寿命が伸びる薬』。フフッ怪しげなものばかりね。」
 当時働いていた薬屋の店主に、イェリにしかできない方法で薬を売れと言われ、苦肉の策で名付けた薬名だ。『恋愛が上手くいく』は、相手に気持ちを伝える勇気が出るよう気持ちを込めた薬だった。『寿命が伸びる薬』も、溌剌と元気に過ごせるよう願いを込めたものだ。どの薬も、皆お守りのような形で買っていくだけだ。それに評判も良かった。人を騙すために作ったものではない。
「ご、誤解です。詐欺のような形で薬を作っていたわけでは··········」
 そこまで言いかけた時、今まで黙っていたサリーヤが初めて口を開いた。
「ねぇ、イェリ。」
「···················!!」
「私ね、あなたが本当のことを言えば咎めるつもりはないのよ。あなた、ルイスが好きなんでしょう?王都にもついてきたそうじゃない。そして、私とルイスが愛し合っているのを見て激しく嫉妬した。私のことが気に入らないから、私に好意を寄せていたアクレンとエイデルのこともどうにかしたかった。だから、『魅了魔法を治療する』という名目で、彼らがあなたに魅了するような薬を飲ませたんじゃない?」

 イェリは目の前が真っ暗になった。
 サリーヤが魅了を使ったくせに、治療をしようとしたイェリが、彼らを騙したと貶めようとしているのだ。
「ち、違います!!誓って私はそんなことは············」
「あら。薬師のレイザが証言してくれたわよ。あなた、婚約者であるルイスに振られて自暴自棄になってたってね。そして、『治療』が始まってすぐに、アクレンが親しげにあなたに接していたと。エイデルも同様にね。だから彼らに証言を取ることに意味はないわよ。だって、彼らは今あなたに『魅了』されてるんだからね。」
 王女は忌々しいとばかりに舌打ちをし、吐き捨てるように言った。
「こともあろうに、魔王討伐を果たしたばかりの英雄達を誘惑しようとするとは·········この不届き者の魔女め!!!楽に死ねると思わないことね。」
 王女の言葉に、イェリは泣きながら顔を上げ懇願した。
「ど、どうかお慈悲を·········本当に身に覚えがないのです!!私は誠心誠意、治療に当たっていただけです!」
「まぁ、拷問すれば口を割るでしょう。連れていきなさい。」
 王女が合図をすると、兵士はイェリを乱暴に立たせ引きずっていった。
「王女様!!信じてください!!私は無実です!!」
 イェリの叫びは届かず、無情にも重い扉は閉められた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖女の任期終了後、婚活を始めてみたら六歳の可愛い男児が立候補してきた!

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
23歳のメルリラは、聖女の任期を終えたばかり。結婚適齢期を少し過ぎた彼女は、幸せな結婚を夢見て婚活に励むが、なかなか相手が見つからない。原因は「元聖女」という肩書にあった。聖女を務めた女性は慣例として専属聖騎士と結婚することが多く、メルリラもまた、かつての専属聖騎士フェイビアンと結ばれるものと世間から思われているのだ。しかし、メルリラとフェイビアンは口げんかが絶えない関係で、恋愛感情など皆無。彼を結婚相手として考えたことなどなかった。それでも世間の誤解は解けず、婚活は難航する。そんなある日、聖女を辞めて半年が経った頃、メルリラの婚活を知った公爵子息ハリソン(6歳)がやって来て――。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。

氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。 聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。 でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。 「婚約してほしい」 「いえ、責任を取らせるわけには」 守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。 元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。 小説家になろう様にも、投稿しています。

辺境伯聖女は城から追い出される~もう王子もこの国もどうでもいいわ~

サイコちゃん
恋愛
聖女エイリスは結界しか張れないため、辺境伯として国境沿いの城に住んでいた。しかし突如王子がやってきて、ある少女と勝負をしろという。その少女はエイリスとは違い、聖女の資質全てを備えていた。もし負けたら聖女の立場と爵位を剥奪すると言うが……あることが切欠で全力を発揮できるようになっていたエイリスはわざと負けることする。そして国は真の聖女を失う――

【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ

・めぐめぐ・
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。 アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。 『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに』 そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。 傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。 アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。 捨てられた主人公がパーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー長編版。 --注意-- こちらは、以前アップした同タイトル短編作品の長編版です。 一部設定が変更になっていますが、短編版の文章を流用してる部分が多分にあります。 二人の関わりを短編版よりも増しましたので(当社比)、ご興味あれば是非♪ ※色々とガバガバです。頭空っぽにしてお読みください。 ※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

【完結】偽物聖女は冷血騎士団長様と白い結婚をしたはずでした。

雨宮羽那
恋愛
 聖女補佐官であるレティノアは、補佐官であるにも関わらず、祈りをささげる日々を送っていた。  というのも、本来聖女であるはずの妹が、役目を放棄して遊び歩いていたからだ。  そんなある日、妹が「真実の愛に気づいたの」と言って恋人と駆け落ちしてしまう。  残されたのは、聖女の役目と――王命によって決められた聖騎士団長様との婚姻!?  レティノアは、妹の代わりとして聖女の立場と聖騎士団長との結婚を押し付けられることに。  相手のクラウスは、「血も涙もない冷血な悪魔」と噂される聖騎士団長。クラウスから「俺はあなたに触れるつもりはない」と言い放たれたレティノアは、「これは白い結婚なのだ」と理解する。  しかし、クラウスの態度は噂とは異なり、レティノアを愛しているようにしか思えなくて……?  これは、今まで妹の代わりの「偽物」として扱われてきた令嬢が「本物」として幸せをつかむ物語。 ◇◇◇◇ お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます! モチベになるので良ければ応援していただければ嬉しいです♪ ※いつも通りざまぁ要素は中盤以降。 ※完結まで執筆済み ※表紙はAIイラストです ※アルファポリス先行投稿(他投稿サイトにも掲載予定です)

捨てられた聖女、自棄になって誘拐されてみたら、なぜか皇太子に溺愛されています

h.h
恋愛
「偽物の聖女であるお前に用はない!」婚約者である王子は、隣に新しい聖女だという女を侍らせてリゼットを睨みつけた。呆然として何も言えず、着の身着のまま放り出されたリゼットは、その夜、謎の男に誘拐される。 自棄なって自ら誘拐犯の青年についていくことを決めたリゼットだったが。連れて行かれたのは、隣国の帝国だった。 しかもなぜか誘拐犯はやけに慕われていて、そのまま皇帝の元へ連れて行かれ━━? 「おかえりなさいませ、皇太子殿下」 「は? 皇太子? 誰が?」 「俺と婚約してほしいんだが」 「はい?」 なぜか皇太子に溺愛されることなったリゼットの運命は……。

処理中です...