【完結】勇者一行の後遺症~勇者に振られた薬師、騎士の治療担当になる~

きなこもち

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三年ぶりの王宮

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 三年ぶりに到着した王宮は、以前と変わらず巨大に、そして華麗に佇んでいた。

 ここは魔物の巣窟だ。煌びやかだが、中には人の形をした化け物達が棲んでいる。
 イェリは小さく息を吐くと、王宮の敷地内へ一歩足を踏み出した。

 本宮の門番は、あの時イェリを門前払いした男だった。この三年間、昇進することも降格することもなく、この本宮の門番を任されているのだ。
 ある意味優秀な男なのだろう、イェリは尊敬の意を込めて、門番の男に一礼をした。
 門番はイェリを見るとぎょっとしたが、すぐにビシッと敬礼をしてきたので、イェリの方がたじろいでしまった。

 本宮の広間へ案内されると、そこには赤い髪の、イェリと同じくらいの年齢の女達がひしめき合っていた。

「うわ!こんなにライバルがいるのか·····?俺だけだと思っていたのに······イェリ様、あなた、勇者様と知り合いだと嘘はついていないでしょうね?」
 ドンパに怪しんだ目を向けられ、イェリは彼を睨み返した。
「嘘だと思うなら私を帰してくださいよ。あなたが付いてきてくれと言ったんですよ。」
 ドンパとイェリが言い合っていると、広間の大きな扉が開いた。

 入ってきたのは勇者ルイスだった。

 三年ぶりに見たルイスは常人とはかけ離れたオーラを放ち、神々しくさえ見えた。赤髪の女達はその姿に声も出ないようで、皆一様にぼーっと魂を奪われたように、ルイスに見惚れていた。

「うわぁ······勇者様、すごく格好いい方なんですね!」
 ユリアは男性にそもそも興味がないのか、見惚れることはなくミーハー的な感想を口にした。

 広間の中にざっと二百人程はいるだろうか。この様子では、イェリがこの場にいようと、ルイスはそもそもイェリに気が付かないかもしれない。

 髪も染めているし、あれから三年も経っているのだ。腑抜けのようになったイェリのことなど、ルイスは分からなくなっているかもしれない。見つけられたくないような、見つけてほしいような、相反する感情に支配されていた。

 ルイスから気付かれなければ、自分の勘違いだったかもしれないとドンパに謝り島に帰ろう、イェリはそう決めていた。

 ルイスはキョロキョロしながら人の合間を縫って歩き、女達の顔を確認しているが、表情は浮かなかった。

 今日も収穫なしか、そうとでも言うように顔を背けたルイスだったが、一瞬視界の端に映ったイェリの姿を見逃さなかった。

 素早く近付いてきたかと思うと、イェリは腕を取られルイスに顔を覗き込まれた。
「············イェリ?」
 イェリはルイスと目が合った瞬間、時が止まったような錯覚に陥った。
 ルイスの瞳の奥が揺れ、キリッとした他人を寄せ付けないような表情が崩れ眉尻が下がった。
「イェリ··········君をずっと探してたんだ。」
 ルイスの瞳と声が震えていた。
 そして、イェリの手をしっかりと掴んだまま、イェリ以外の全員を置き去りにして足早に広間を出ていってしまった。
「········え、え!?」
 ドンパとユリナは顔を見合わせ急な事態に驚いたが、すぐに手を取り喜び合った。

 ルイスに腕を掴まれたまま別室へ連れてこられたイェリは、部屋へ入るなりルイスに強く抱き締められた。

 ルイスは足りないとばかりに、イェリを抱き締める腕に何度も力を込めた。
「イェリ········!!すまなかった守ってやれず───ずっとずっと君を思ってたんだ。どうか信じてくれ。」
「········ル、ルイス、苦しいよ。」
 ルイスはイェリを一度解放した後、今度は深く唇を重ねてきた。

 強引なルイスの行動に驚いたイェリだったが、三年ぶりのルイスの体温を肌で感じ、懐かしさと恋しさが込み上げた。

 胸のわだかまりや、かつて味わった屈辱、自分を卑下する卑屈な心、全てがどうでもよくなってしまった。
 もはや抗う力はイェリには残されていなかった。

 イェリの心は、ルイスが王都に帰還を果たし歓喜したその時に帰っていた。

 欲しい。私だけのかわいいルイス。
 ずっと私だけの男だ。

 イェリの、心の奥底にしまいこんでいた灰暗い欲望に火が灯った。ずっと見ないふりをしていた嘘偽りない願望だった。

 イェリは、ルイスの唇の熱さを感じながら呟いた。
「ルイス。私もあなたを忘れたことなんてなかった。でも色んなことを考えると怖かったの·······本当は、あなたに会いたくて堪らなかった。」
「僕もだよ。君と一つになりたい。結婚しようイェリ········もう二度と離さない。」

 その日、イェリとルイスはようやく結ばれた。離れていた時間を埋めるように、二人は何度も互いの熱を確かめ合った。


 






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