侍女と愛しの魔法使い【旧題:幼馴染の最強魔法使いは、「運命の番」を見つけたようです。邪魔者の私は消え去るとしましょう。】

私と幼馴染の最強魔法使い～幼馴染に運命の恋人が現れた！？～

故郷へ

　アッシュは、ジークリートを通じて、ピエニ町のシスター長と連絡を取った。

　ナタリーの母親と名乗るアネッサは、今もピエニ町に住んでいて、雑貨店で働いているということだった。ジークリートが、ナタリーから会いたいとの伝言を伝えに訪ねた際、アネッサはひどく驚いた様子で、感激して涙を流していたそうだ。

　１週間後、アッシュとナタリーの故郷、ピエニ町でアネッサと会うことになった。

　ナタリーがピエニ町に行くと決まると、アッシュも一緒に行くと言い出した。

「あなたは来なくていいわよ。暇じゃないでしょ？安心して、逃げ出したりしない。話がしたいだけ。ジークリート様がついてるし、大丈夫よ。」

　ナタリーはアッシュが付いてくることを断ったが、頑として一緒に行くと譲らなかった。ピエニ町は、ナタリーにとってもアッシュにとっても産まれ育った場所だ。アッシュにも、この機会に故郷を懐かしみたいという気持ちがあるのかもしれないと思い、同行することを承諾した。

　当日、アッシュ、ナタリー、ジークリートの３人で移動魔法を使い、ピエニ町へ飛んだ。着いた先は、慣れ親しんだ教会だった。アッシュとナタリーが子どもの頃さらわれ、初めて移動魔法で教会に戻ってきたときの安心と感動を思い出した。

　この場所は何も変わっていない。ナタリーはひどく懐かしくなった。

　教会の外にはシスター長含む、シスター達がナタリーやアッシュを出迎えていた。

「シスター長様！！」

　ナタリーがシスター長の元へ走っていき、熱い抱擁を交わした。

「ナタリー····綺麗になったわ。あなたがいなくなったと聞いたとき、どれほど心配したか。無事で本当に良かった。」

　ナタリーがウィルと逃走した際、故郷に戻る可能性もあるとして、シスター長に連絡がいったのだった。

「心配かけてごめんなさい。私はなんとかやっています。」

「あなたが辛い思いをしたのは、私のせいね。子どもだったあなたに重い責任を追わせてしまった。でも、今はいい顔してるわ。あの人相手に、上手くやっているようね。」

　シスター長はイタズラっぽく笑った。後ろに立っていたアッシュに気付き、

「まぁ、ご立派になられて····」

　と言葉を失っている様子だった。

　挨拶もそこそこに、アネッサが住んでいる雑貨店へ行くことになった。さすがに、魔法使い２人を引き連れて訪ねるのは驚かせると思い、ナタリー1人で訪ねることになった。

　雑貨店の呼び鈴がチリンとなり、中に入ると、1人の女性が待っていた。会った瞬間、ナタリーはこの女性が自分の母親だと分かった。

　ナタリーと同じ艶のある黒髪に、焦げ茶の瞳をした彼女は、ナタリーを見たとたん、涙を目にいっぱいためてゆっくりと近付いてきた。40代くらいの上品な女性だった。

「こんにちは。あなたがナタリーね。初めまして。あなたの生みの親、アネッサといいます。」