侍女と愛しの魔法使い【旧題:幼馴染の最強魔法使いは、「運命の番」を見つけたようです。邪魔者の私は消え去るとしましょう。】

きなこもち

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私と最愛の魔法使い~王女様、私の夫に惚れられても困ります!~

閉じ込められた仲間

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 やっとのことで、ナタリーとアラン王子は『赤い塔』の中に入った。塔の中は大きな螺旋階段があり、人のうめき声のような音や、風の音が反響しているのかゴォォッというような不気味な音がした。
 ナタリーは怖くてたまらず、アラン王子の腕にピッタリとくっつき、螺旋階段を一段一段と登っていった。王子は慣れているのか、平然とした顔をしている。

 大分登った頃だろうか、アラン王子が、
「たしか、この辺りの独房に入れられているのを見たんだけどな····」
 と呟いた。見ると、いくつも部屋が続いている。夜中なので、牢屋の中の人々はほとんどが眠っているようだ。
 ナタリーは静かに近付き、手前の牢屋の中にいる人物を覗き見た。
「───·······ケイリー?」
 寝台に寝ている赤い髪に見覚えがあった。ナタリーが魔法塔で働いていたときに、同僚だった魔法使いの女性ケイリーだ。
「······嘘でしょ!?ケイリーー!!」
 ナタリーは、小声でケイリーを呼んだ。すると、少ししてからケイリーはナタリーに気づいた。
「え?······ナタリーなの?夢じゃない?···」
 ケイリーはふらりと鉄格子に近付き、顔を寄せてきた。閉じ込められているのだから、当たり前だが身なりもボロボロで、顔中汚れている。ナタリーだと分かると、ケイリーは涙を流した。
「信じられない·····本当にナタリーだわ。」
「どうしてここにいるの?ケイリー。」
「2週間前くらいに、連れてこられたのよ。イースが先に裏切って、人間側についたみたい。あいつは魔力の痕跡が辿れるから、弱い魔法使い達はみんな掴まった。逃げる為に魔法を使おうとした人がいたんだけど、この変な首輪のせいで、魔力を奪われ死んだのを見たわ。ねぇ、ナタリー、私達どうなるの!?ここで死ぬのなんて絶対に嫌·····!!!」
 ケイリーは泣きながらうずくまった。
 1ヶ月後、王女がウィルと結婚式をあげるまでに、他の魔法使いを処刑すると言っていたが、とてもじゃないがそのことをケイリーに伝えることはできなかった。
「ケイリー、私がどうにか逃げる方法を探すわ!!今すぐには無理だけど、必ず方法を見つける·····だから待ってて。ウィルやジークリートもいるの。皆で協力して、生きて出られる道を探す····!」
「·······ええ、あなたは逃げるのは得意だものね。信じてるわ。それに、この寒くて暗い独房の中で、頭がおかしくなりそうだった。あなたに会えて、少しだけ希望が出てきたわ。私も、もうちょっとだけ、頑張ってみる·····でも、長くはもたないわ。」
 ナタリーとケイリーは、お互い涙を流しながら、格子越しに手を取り合った。ケイリーの指先は凍えるほど冷たくて、ナタリーはケイリーがすぐにでも死んでしまうのではないかと、手を離すことができなくなった。

 後ろにいたアラン王子は、黙ってナタリー達の様子を見ていた。
「ナタリー、そろそろいかないと、見張りが来ちゃうかも。」
 アラン王子に呼び掛けられ、ナタリーは後ろ髪を引かれる思いで、独房を後にし、階段を降りていった。
「·······さっきの人、ナタリーの大切な人?」
「──はい、殿下。私の友人で、大切な人です。」
「そっか。それなら、僕にとっても彼女は友達だね。
「··········え?」
「ナタリーと僕は、友達だろ?ナタリーは僕に擦り寄って利用しようとはしないし、僕を知能が遅れてるってバカにしない。今までの人たちとは違う。遊びにも、夜の肝試しにも付き合ってくれる大切な友達だよ。友達の友達は、僕の大切な人なんだ。」
「───殿下、ありがとうございます。私、彼女達を助けたいんです。でも、方法をまだ見つけられなくて。」
「そっか。じゃあ、明日からは僕も一緒に方法を探す!ギースも仲間に入れよう。口うるさいけど、たまに役に立つんだ!」
 ナタリーは、こう言ってくれるアラン王子がすごく心強かった。最初は手がかかる人だと思ったが、心が幼いながらに勇気があり、一本芯が通っている不思議な青年だ。
 国王になるのはアレクシア王女ではなく、アラン王子がふさわしいのにとナタリーは思ったのだった。
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