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翌日、俺は引き出しの奥から引っ張り出してきた帽子を被り、忍び足で部屋から出た。

(……よし、今のうちに!)

前方、後方、左右確認。

ヤツがいない事を確認し、急ぎ足で駅へ向かう。

(会いませんように……!)

ただひたすら、それだけを祈る。

帽子を目深に被り、ひたすら歩みを進めていく……と。

(……っ!)

視界が悪かったせいで、道端に落ちていた小石に躓くという、なんともダサい展開に巻き込まれてしまった。

「っぶね……」

幸い、転ばなかったのだけれど、それを見ていた人物がいた。

「君、大丈夫?」

(こ、この声は……!!)

これはもはや、ホラーである。

背後から聞こえた声に、振り返る事も出来ない。

(って、まぁ、そこまで怖がるような相手でもないんだけどさ)

ただちょっとしつこいだけで、話してみればなんてことない相手だとは思うのだが、また”恋愛サークル”だのなんだの言われても面倒くさい。

俺は帽子の鍔を手で押さえながら顔を伏せ、相手と目を合わせないように、いつもより低い声で返事をした。

「大丈夫です。じゃ」

「……陽斗君?」

「……っ」

バレてるし……!

いやでも、顔はまだ見られていないはず。

まだ逃げられると踏んで、俺は東条の前からすり抜けるように、その場を離れようとした。

が、その瞬間。

(あれ……?)

視界がグラリと揺れ、全身から力が抜けていく。

「……っ陽斗君!」

東条の声が遠くに聞こえる。

(やべ……)

そういえば、昨日の夜は東条の事ばかり考えたり対策を練ったりしていて、ろくに食べていないのだった。

たからおそらく、単なるエネルギー切れを起こしたのだろう。

(あー……何やってんだろ自分……)

俺は自分に呆れつつ、そのまま意識を失った。


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