桜空

彼との出会い

「インバウンド需要でこんな山奥の温泉地にもかなり多くのお客様が足を運んで来て下さるんだけどね、人手が足りなくてね。そんな話しをいろはさんから聞いて、是非ここで働かせてくださいと頼み込んだ。
蓮さんは仕事終わりに毎日様子を見に来てくれる。
「忙しいのに毎日わざわざ見に来なくても桜空ちゃん頑張ってるわよ。若いのに一生懸命働いてくれるから助かるわ」
「桜空は病み上がりなんだから」
「いちいち言われなくても分かってます」
蓮さんといろはさんははたから見ても微笑ましいくらい仲がいい。いろはさんのご主人の社長は寡黙なひとでいつも二人の話しを黙って聞いている。そんな感じの人だった。うちの主人ね、とっつきにくい、怖い人だと思われがちでね。でも反対だから。話し掛けると意外と話しやすい人だから頑張って声を掛けてね。そういろはさんに言われたものの声を掛ける勇気がなかなか出なくて。タイミングを見計らっていたら、
「桜空さんは甘いものが好きかな？」
社長のほうから声を掛けられたから吃驚した。
「上の娘二人はワ―キングホリデーで海外に行ってて、末の娘は桜空さんがいた町で働いているんだ。この前来たときに持ってきた焼き菓子。良かったらどうぞ」
クッキーを差し出されありがとうございますとお礼を言って受け取ると、恥ずかしそうにごほんと咳払いして、
「あ～～忙しい、忙しい」
と言いながらフロントのほうへとスタスタと歩いていった。もしかして気遣ってくれたのかな？見た目と違い本当は優しい人なのかもしれない。