桜空

彼との出会い

藤堂さんのことは忘れて蓮さんと生きていくんだ。そう決めたものの、自分が思うよりも心に受けた傷は深かった。
お腹の子のために下ばかり向かず、前を向いて歩こう。僕は一人じゃない。過去は過去、これから先の未来を生きていこう。そう誓った。

それから三ヶ月半後――。
一ヶ月健診を終えたその足で蓮さんと一緒に旅館に向かった。
「姉さんたちには事情を話してあるから。なんの心配もいらないよ」
大広間の前で立ち止まっていたら蓮さんにそう声を掛けられた。
蓮さんのお姉さんたちは今、一時帰国している。しばらくしたらオ―ストラリアとは違う国に行くみたいだった。
一ヶ月に産まれた蒼《あおい》が蓮さんの腕のなかですやすやと眠っていた。
何事も最初が肝心だもの。緊張をほぐすためにひとつ深呼吸をしてから襖を開けた。
「はじめまして……うわぁ～～！」
襖の前で待ち構えていたひなのさんたちにぎゅっと抱き締められたから驚いた。
「堅苦しい挨拶は抜きよ。長女のあやかよ。やっと会えた！」
「写真で見るより可愛いんですけど。次女のかのんよ」
「もしかして双子なんですか？顔がそっくりなので」
「よく言われるけど違うのよ。三人とも年子なのよ。一才違いなの」
フフフとひなのさんが愉しそうに笑った。