25歳の誕生日のプレゼントは場末の地下物件でした

シンリーベクトル

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団体客と個人客

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店内の灯りが少し落ち、スポットライト代わりの小さなランプが高橋を照らす。
ギターを抱え、静かに爪弾き始めたのは、優里の「ドライフラワー」。

白鳥がグラスを傾けながら、眉をひそめた。
「ロック一辺倒のお前にしては、ずいぶん珍しい選曲だな。」

高橋は演奏を止めずに、ちらりと客席を見やる。
「……反応を見ながら、いろいろ挑戦してんだよ。」

武田が腕を組んで唸る。
「ほう、最近の曲か?」

理沙が即座に笑いながら突っ込んだ。
「武田さん、それもう五年前の曲ですよ!」

武田は目を丸くして苦笑する。
「歳を取ると、時間の流れが早いもんだな……。」

そのやり取りに、西村が静かに理屈を添える。
「それはもしかして、ラーニンの取捨選択が洗練されていくからじゃないかしら。
 若い頃は全部拾うけど、大人になると必要な情報しか拾わない。
 だから体感時間がどんどん圧縮されるのよ。」

場が一瞬しんと静まり、また高橋の弦の音が響いた。
音楽と哲学が、居酒屋の空気に溶けていく。



演奏が一段落すると、理沙が腕を組んで首をかしげた。
「ねえ、なんでこの店、もっと団体客を狙わないの?
 大人数の方が売上も伸びるじゃん。」

すると涼子が、グラスを置いてすぐさま解説モードに入る。
「店のコンセプトを忘れないで。ここは“ランクを満たす店”。
 団体で来る人たちは、もうその仲間内でランクを補完し合ってる。
 承認もツッコミも拍手も、全部グループの中で完結してるのよ。」

白鳥が頷きながら割って入る。
「つまり、うちが入り込む余地がないってことか。
 団体相手にドヤ顔で『承認差し上げます』って言っても、
 『いや、俺たちで足りてますから』って顔されるわけだな。」

西村がグラスを持ち直し、理知的に続ける。
「それに団体客ってね、半分くらいは“自分で選んだ店”じゃなくて、ただ“連れてこられただけ”。
 そういう場合は、体験を自分のものとして感じにくいの。
 逆に、自分で選んで来た人は『ここを選んだ自分』というランクも得ているから、
 満足度が上がるし――リピートにもつながるのよ。」

理沙はまだ納得しきれず、ぽつりとつぶやく。
「じゃあ私は……団体を呼ぶ係にはなれないってこと?」

高橋がギターの弦を鳴らして肩をすくめる。
「お前は一人でも十分団体っぽいから、それでいいんじゃね?」

店内が笑いに包まれた――その時。



カウンターでウイスキーの山崎をちびちびやっていた甲斐の前に、理沙がひょこっと顔を出す。
「ねえ、それってパン屋さんのお酒なの?」

「……ぶっ!」
甲斐は思わず吹き出し、グラスを慌てて押さえた。
「お、お前……“ヤマザキパン”と一緒にすんなよ!」

笑い声が再び店内を包み、空気が一層和んだ。



その夜、広中社長が部長二人を連れて「彩」の暖簾をくぐった。
三人並んで席につくと、店内がわずかにざわめく。

理沙が目を丸くして小声で囁く。
「えっ、あれって団体客扱いになるの?」

西村がすぐに首を横に振る。
「違うわ。“団体”と“紹介”は似てるようで全然違うの。」

白鳥が腕を組み、皮肉っぽく笑う。
「なるほど。団体は『俺たちで完結してるから外の承認いらない』って連中。
 でも紹介は『この店いいぞ』って誰かのランクが媒介してるから、最初から店に借りがあるわけだ。」

涼子もグラスを置いて補足する。
「そう。紹介されて来た人は、“選ばれた客”というランクも感じているの。
 だから、リピートの確率が団体よりずっと高いのよ。」

理沙はまだ首をかしげたまま。
「ふーん……でも、三人並んで来てるのは見た目は団体だよね?」

高橋がギターを軽く鳴らして笑う。
「まあな。でも、“社長に連れられてきた俺たち”って肩書きごと来てるから、
 パン屋の山崎と本物の山崎くらい違うわけだ。」

カウンターの甲斐が思わず吹き出しかけて、急いでグラスを押さえた。
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