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17.あきお君のひとりごと
あけみさん、サーコの英文を添削する~あけみさん、双方とラインする
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このエピソードはリャオ=金城明生のモノローグでお届けします。
6月23日・慰霊の日は沖縄県および市町村機関はお休みですが、一般企業は営業しているところもあります。そんな日の夕刻、彼(彼女?)がテレワークを終え牧志にあるKNJ商事の事務所で玄関を開けるシーンからスタート。
サーコと朝以外あまり顔を合わさない日が続いている。彼女、小禄にある大型量販店のレジ係のバイト入れました。トモへ小包を送るために資金が必要なのだと。
6月23日 慰霊の日の午後。
テレワーク終えて玄関見たら、キレイに洗ったお弁当箱と一緒にミミガージャーキーと手紙が入っていた。ミミガージャーキーとは、豚耳をジャーキーに加工したもの。観光客向け定番土産品になってる。ビールとの相性がいいんだよね。
手紙の宛名は金城あけみ様。漢字にしてないのは、“あきお君”でなく“あけみ”にってことだ。
ジャーキー入っているから夕食後、メイクは落としましたがムームー着用で、ビール片手に封を切ってみた。
――金城あけみ様
お世話になっています。おいしいお弁当をいつもありがとうございます。
本日はミミガージャーキーをお届けする理由を説明したく、お手紙しました。
このジャーキーはトモへの小包に入れるとき、ひとつ箱からこぼれてしまったものです。
なんだ、おこぼれか。たいした理由じゃないじゃん。
――トモは訓練所を出たとき、変なラインをよこしてきました。
訓練所を出ると5時間くらいは自分の携帯を手にすることが出来ます。
(そのあと取り上げられ、新しい配属先で再度渡されるそうですが、いつになるか不明です。)
彼はひたすら、I want you, I need you. と書いてます。
もう少し激しい言葉があったのですが今回は自粛します。
読んでて気色悪いというか、腹が立ちました。
サーコ、気持ちはわかるけど。
普通の成人男子が男臭い軍隊に閉じ込められて女性の姿を全く見ない日が二ヶ月も続いたら、そりゃおかしくなるだろうよ。
手紙は続く。
――そこで、ラインでこんなお返事を返しました:
新しい配属先を、(トモのお姉さんの)ミヨリさんに教わったので小包を送ります。
トモの誕生日あたりに届くと思います。今回のプレゼントは本にしました。
愛の形は人それぞれあるそうなので、夏らしい愛をお届けします。ではまた。
はあ。そうですか。
――そして、さきほど彼に小包を送りました。ミミガージャーキーとモンスターマンチと本数冊と手紙です。
送ってしまった後で申し訳ないですが、手紙のコピーがあります。後学のため、お手すきのおりに添削をお願いします。
添削? 英文ってこと?
二枚目をめくってみる。うん。英語だ。しかも筆記体! サーコ筆記体書けるんだ? へえ、見直したよ。
え? 私ですか? もちろん読み書きできます。貿易商社の副社長が筆記体の読み書きできなかったら、シャレにならないでしょう。
それにしてもサーコ、頑張ったな。ほめてやらないと。
ということで、読者のみなさまにもご紹介します。こんな手紙です。
---
Dear JinGoo
I think you should take some time to relax.
You tell me you want me. That’s fine.
So, I will tell you how I want you.
I want all of you.
I want everything from you.
Yeah, I want to peel your skin.
And, I want to chop your body into pieces.
I want to cook and eat all of your body parts.
Do you know that one of an Okinawan lullaby?
大村御殿の 角なかい
At the corner of the Ufumura residence
耳切坊主が 立っちょんど
The monks called Mimichiri stand there.
幾体、いくたい 立っちょが
How many stand there?
三体、四体立っちょんど
I can see three or four monks.
泣ちゅる 童 耳ぐすぐす
They may cut children's ears off if they cry, you can hear the sound of cutting an ear “gu-su-gu-su”.
ヘイヨ~ヘイヨ~ 泣くなよ
Hey children, don't cry.
I’ll give you a Mimiga Jerky.
You know they are made from pigs ears because you have eaten them several times.
I will cook your ears and skin like them.
I can’t wait, honey!
I also sent you an Okinawan ghost story.
Read for a chilling experience.
My love, with frozen zeal;
Asako
サーコ、こ、怖い! 添削どころじゃないわ!
……お、三枚目があるのか。日本語に戻ってる。やれやれ。
――いかがでしょう。私もかなり暑さで頭がやられているようです。
申し訳ありませんが、どうか、あけみさんからトモへなぐさめの取りなしをお願いします。
おやすみなさい。良い夢を。 麻子より
――追伸 あきおさんには黙っていて下さいね。
---
「無理だよ!」
一人叫んで気がついた。“あけみ”で読み始めたのに、途中から私は無意識に“あきお”になっていた。
サーコと会ってから二年、もう自分が“あけみ”か“あきお”か判然としなくなってきている。アイデンティティの境界線がめちゃくちゃ。
少々悩んだが、手紙をPDFにしてトモのラインへ送ることにした。
“Tomo, How's going? Akemi got a letter from Asako. I’ll send you the PDF file to read.”
お、既読になった。ということは、新しい配属先で慣れてきたのかな。
PDFを読み終えたのだろう。続いて「ぴえん」と「ぱおん」のスタンプが来た。それ、えらい古いな?
いちおう、フォローしておこう。
“I guess this is her sort of kindness. It might be hot this summer. She thinks you need to chill out. And she asks me that I comfort and encourage you.”
既読になる。
“Are you Akemi?”
“Yes. I can give you an air kiss if you want. Shall I send a photo?”
“Knock it off!”
トモ、そんな露骨に驚かなくたっていいじゃないか。せっかくあけみで書いてるのに。
“Tomo, you'll have survival training this summer for military service, won't you?”
“Yes, I will in two weeks. We'll be in the north area of the base. It is said that there are many ghosts there. But, now I'm more scared of Asako than the ghosts.”
おいおい、それが宣教師のセリフか? ギャグマンガじゃあるまいし。
“I'm curious. What did you say to Asako?”
“Liao, sorry, I can't tell you.”
私はイラッときてしまった。あ、そう。じゃ、もう知らない。
“O.K. I won't get involved in this problem. The two of you need to solve it. Bye. ”
そして私はトモとのラインを終えた。えーい、ついでだ。サーコにラインしてやる。
――サーコ、あけみです。手紙読みました」
お、既読になった。
――あけみさんですか? いつもお弁当ありがとうございます。手紙、あれで良かったでしょうか?」
そうそう、筆記体のこと誉めてやらないと。
――サーコが筆記体書けるの知らなかった。すごいね。英語も今回は添削必要ないです」
――そうですか。ホッとしたというか、うーん」
――トモにPDFしといたよ。そしたら、麻子は基地のお化けより怖いって」
――そうですか。ああ、いい気味」
……おいおい、ちょっと雲行き怪しくないか? ならば、こっちのことも書くか。
――あけみはトモにまた振られました。投げキッス拒否られた」
サーコに号泣しているスタンプを送る。慰めの言葉が戻ってくる。
――おお、よしよし。トモはあけみさんのこと何もわかってないんだね?」
――そうよ、あんたの彼氏は私のことなんか構ってもくれないわよ。あんたと何があったかも教えてくれないし」
――彼、最近、紳士じゃないんです。あの人、むっつりスケベかもしれない」
おいトモ、どうするよ。このままだとサーコに嫌われるよ? フォローしといてやろうか?
――軍隊ってすごいところだから。あきお君なら気が狂うよ。あんな男臭い空間、生きていけないって言ってる。トモは息をしているだけ偉いって」
しばし沈黙。ややあって返事が来た。
――あたしの知っているトモはどっか行っちゃったんだと思います」
あー、トモ。こりゃ重傷だぞ。
さあ、どうする。自分の中のあきお君が顔を出す。「別れちゃえ」って言うかな。でも。
――トモは今、自分と戦っているんだと思います。彼ほど誠実な奴はいません。信じてやってください」
送信して、落ち込む。私は何を書いているのだろう。
既読になる。サーコが返事を書いた。
――あけみさん、ありがとう。手紙の件、あきおさんには黙っててね? おやすみなさい」
サーコ、だから、それは無理だってば! ここでこうして読んでるし。
スマートフォンをベッドの上に放り投げる。ビールは全部飲み干した。
歯磨きをしながら鏡に映る自分自身を見る。化粧を落とした、あきおの顔。
サーコはあきお君なんて眼中にないはず。ずっと、あけみのことばかり。
そうだよね。出会った頃から、私、あけみだもんね。
あけみだと思ってくれているから、一緒にいるんだもんね?
あきお君、二回、君の頬にキスしているんだけど。そうか、それで逆に警戒されてるのかも。
明日は金曜日だ。このクソ暑いのに午後から会議ですか。スーツで出勤だよ。そして背中にまた吹き出物が湧き出るんだろう。
サーコ、最近、バイト忙しいもんな。背中に薬、塗ってくれそうもないや。あきらめよう。
私は電気を消すと、さっさとベッドへ潜り込んだ。
6月23日・慰霊の日は沖縄県および市町村機関はお休みですが、一般企業は営業しているところもあります。そんな日の夕刻、彼(彼女?)がテレワークを終え牧志にあるKNJ商事の事務所で玄関を開けるシーンからスタート。
サーコと朝以外あまり顔を合わさない日が続いている。彼女、小禄にある大型量販店のレジ係のバイト入れました。トモへ小包を送るために資金が必要なのだと。
6月23日 慰霊の日の午後。
テレワーク終えて玄関見たら、キレイに洗ったお弁当箱と一緒にミミガージャーキーと手紙が入っていた。ミミガージャーキーとは、豚耳をジャーキーに加工したもの。観光客向け定番土産品になってる。ビールとの相性がいいんだよね。
手紙の宛名は金城あけみ様。漢字にしてないのは、“あきお君”でなく“あけみ”にってことだ。
ジャーキー入っているから夕食後、メイクは落としましたがムームー着用で、ビール片手に封を切ってみた。
――金城あけみ様
お世話になっています。おいしいお弁当をいつもありがとうございます。
本日はミミガージャーキーをお届けする理由を説明したく、お手紙しました。
このジャーキーはトモへの小包に入れるとき、ひとつ箱からこぼれてしまったものです。
なんだ、おこぼれか。たいした理由じゃないじゃん。
――トモは訓練所を出たとき、変なラインをよこしてきました。
訓練所を出ると5時間くらいは自分の携帯を手にすることが出来ます。
(そのあと取り上げられ、新しい配属先で再度渡されるそうですが、いつになるか不明です。)
彼はひたすら、I want you, I need you. と書いてます。
もう少し激しい言葉があったのですが今回は自粛します。
読んでて気色悪いというか、腹が立ちました。
サーコ、気持ちはわかるけど。
普通の成人男子が男臭い軍隊に閉じ込められて女性の姿を全く見ない日が二ヶ月も続いたら、そりゃおかしくなるだろうよ。
手紙は続く。
――そこで、ラインでこんなお返事を返しました:
新しい配属先を、(トモのお姉さんの)ミヨリさんに教わったので小包を送ります。
トモの誕生日あたりに届くと思います。今回のプレゼントは本にしました。
愛の形は人それぞれあるそうなので、夏らしい愛をお届けします。ではまた。
はあ。そうですか。
――そして、さきほど彼に小包を送りました。ミミガージャーキーとモンスターマンチと本数冊と手紙です。
送ってしまった後で申し訳ないですが、手紙のコピーがあります。後学のため、お手すきのおりに添削をお願いします。
添削? 英文ってこと?
二枚目をめくってみる。うん。英語だ。しかも筆記体! サーコ筆記体書けるんだ? へえ、見直したよ。
え? 私ですか? もちろん読み書きできます。貿易商社の副社長が筆記体の読み書きできなかったら、シャレにならないでしょう。
それにしてもサーコ、頑張ったな。ほめてやらないと。
ということで、読者のみなさまにもご紹介します。こんな手紙です。
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Dear JinGoo
I think you should take some time to relax.
You tell me you want me. That’s fine.
So, I will tell you how I want you.
I want all of you.
I want everything from you.
Yeah, I want to peel your skin.
And, I want to chop your body into pieces.
I want to cook and eat all of your body parts.
Do you know that one of an Okinawan lullaby?
大村御殿の 角なかい
At the corner of the Ufumura residence
耳切坊主が 立っちょんど
The monks called Mimichiri stand there.
幾体、いくたい 立っちょが
How many stand there?
三体、四体立っちょんど
I can see three or four monks.
泣ちゅる 童 耳ぐすぐす
They may cut children's ears off if they cry, you can hear the sound of cutting an ear “gu-su-gu-su”.
ヘイヨ~ヘイヨ~ 泣くなよ
Hey children, don't cry.
I’ll give you a Mimiga Jerky.
You know they are made from pigs ears because you have eaten them several times.
I will cook your ears and skin like them.
I can’t wait, honey!
I also sent you an Okinawan ghost story.
Read for a chilling experience.
My love, with frozen zeal;
Asako
サーコ、こ、怖い! 添削どころじゃないわ!
……お、三枚目があるのか。日本語に戻ってる。やれやれ。
――いかがでしょう。私もかなり暑さで頭がやられているようです。
申し訳ありませんが、どうか、あけみさんからトモへなぐさめの取りなしをお願いします。
おやすみなさい。良い夢を。 麻子より
――追伸 あきおさんには黙っていて下さいね。
---
「無理だよ!」
一人叫んで気がついた。“あけみ”で読み始めたのに、途中から私は無意識に“あきお”になっていた。
サーコと会ってから二年、もう自分が“あけみ”か“あきお”か判然としなくなってきている。アイデンティティの境界線がめちゃくちゃ。
少々悩んだが、手紙をPDFにしてトモのラインへ送ることにした。
“Tomo, How's going? Akemi got a letter from Asako. I’ll send you the PDF file to read.”
お、既読になった。ということは、新しい配属先で慣れてきたのかな。
PDFを読み終えたのだろう。続いて「ぴえん」と「ぱおん」のスタンプが来た。それ、えらい古いな?
いちおう、フォローしておこう。
“I guess this is her sort of kindness. It might be hot this summer. She thinks you need to chill out. And she asks me that I comfort and encourage you.”
既読になる。
“Are you Akemi?”
“Yes. I can give you an air kiss if you want. Shall I send a photo?”
“Knock it off!”
トモ、そんな露骨に驚かなくたっていいじゃないか。せっかくあけみで書いてるのに。
“Tomo, you'll have survival training this summer for military service, won't you?”
“Yes, I will in two weeks. We'll be in the north area of the base. It is said that there are many ghosts there. But, now I'm more scared of Asako than the ghosts.”
おいおい、それが宣教師のセリフか? ギャグマンガじゃあるまいし。
“I'm curious. What did you say to Asako?”
“Liao, sorry, I can't tell you.”
私はイラッときてしまった。あ、そう。じゃ、もう知らない。
“O.K. I won't get involved in this problem. The two of you need to solve it. Bye. ”
そして私はトモとのラインを終えた。えーい、ついでだ。サーコにラインしてやる。
――サーコ、あけみです。手紙読みました」
お、既読になった。
――あけみさんですか? いつもお弁当ありがとうございます。手紙、あれで良かったでしょうか?」
そうそう、筆記体のこと誉めてやらないと。
――サーコが筆記体書けるの知らなかった。すごいね。英語も今回は添削必要ないです」
――そうですか。ホッとしたというか、うーん」
――トモにPDFしといたよ。そしたら、麻子は基地のお化けより怖いって」
――そうですか。ああ、いい気味」
……おいおい、ちょっと雲行き怪しくないか? ならば、こっちのことも書くか。
――あけみはトモにまた振られました。投げキッス拒否られた」
サーコに号泣しているスタンプを送る。慰めの言葉が戻ってくる。
――おお、よしよし。トモはあけみさんのこと何もわかってないんだね?」
――そうよ、あんたの彼氏は私のことなんか構ってもくれないわよ。あんたと何があったかも教えてくれないし」
――彼、最近、紳士じゃないんです。あの人、むっつりスケベかもしれない」
おいトモ、どうするよ。このままだとサーコに嫌われるよ? フォローしといてやろうか?
――軍隊ってすごいところだから。あきお君なら気が狂うよ。あんな男臭い空間、生きていけないって言ってる。トモは息をしているだけ偉いって」
しばし沈黙。ややあって返事が来た。
――あたしの知っているトモはどっか行っちゃったんだと思います」
あー、トモ。こりゃ重傷だぞ。
さあ、どうする。自分の中のあきお君が顔を出す。「別れちゃえ」って言うかな。でも。
――トモは今、自分と戦っているんだと思います。彼ほど誠実な奴はいません。信じてやってください」
送信して、落ち込む。私は何を書いているのだろう。
既読になる。サーコが返事を書いた。
――あけみさん、ありがとう。手紙の件、あきおさんには黙っててね? おやすみなさい」
サーコ、だから、それは無理だってば! ここでこうして読んでるし。
スマートフォンをベッドの上に放り投げる。ビールは全部飲み干した。
歯磨きをしながら鏡に映る自分自身を見る。化粧を落とした、あきおの顔。
サーコはあきお君なんて眼中にないはず。ずっと、あけみのことばかり。
そうだよね。出会った頃から、私、あけみだもんね。
あけみだと思ってくれているから、一緒にいるんだもんね?
あきお君、二回、君の頬にキスしているんだけど。そうか、それで逆に警戒されてるのかも。
明日は金曜日だ。このクソ暑いのに午後から会議ですか。スーツで出勤だよ。そして背中にまた吹き出物が湧き出るんだろう。
サーコ、最近、バイト忙しいもんな。背中に薬、塗ってくれそうもないや。あきらめよう。
私は電気を消すと、さっさとベッドへ潜り込んだ。
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