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Part4 Starting Over
Chapter_01.Air Mail(3)多恵子、手紙を受け取る
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At Nishihara Town, Okinawa; 3:00PM JST January 24, 2001.
Since this time, the narrator changes from Tsutomu Uema into Taeko Kochinda.
多恵子さんのモノローグへ切り替わります。
あれから三週間たった、二〇〇一年一月二十四日、旧正月。
あたしは、今までのあたしに戻りつつあった。看護師としての誇りと自覚を取り戻し、再び英会話教室へも通うようになった。その日はレッスンを終えて、深夜勤にそなえてシャワーでも浴びようかと思っていた。
「ただいまー」
「多恵子、手紙来てるよ。」
お母があたしを呼び止めた。
「誰から?」
「わからんよ。外国からみたいさー」
「外国?」
「うり」
そこには、赤と青のストライプで縁取られたエアメールがあった。宛名は確かにあたしだけど、差出人の名前はどこにも書かれてない。何、これ?
消印はロサンゼルス。微かな不安を感じながら、あたしは、はさみで封を切った。と、居間のテーブルの上に写真が落ちた。拾い上げ、思わず叫んだ。
「勉?!」
次の瞬間、あたしは、その写真に収められた彼の姿にひたすら爆笑していた。
「勉? だー、見せてごらん」
あたしは、お母に写真を渡した。彼女もすぐに笑い転げた。だって、すごい写真だったんだもの! New Year Partyでもしたのだろうか? 彼はアメリカの星条旗を思わせる派手なストライプ柄の山高帽をかぶってて、黒ぶちの、いかにも作り物ですといった感じのメガネを掛け、ピエロみたいな真っ赤な丸い鼻をつけていた。その上、これまた紅白柄のへんてこな背広を着ていた。まるで大阪の道頓堀にある「くいだおれ人形」そのもの、いや、金髪頭で白人そっくりな分、人形以上に笑える。ただ、小太鼓を叩いている人形とは違い、車椅子に乗って本物のサンシンを弾いていた。
「ひどい格好!」
「でも元気そうだねー」
あたしたち二人の笑い声を聞きつけ、お父が奥座敷からやってきた。旧正月だから開店休業を決め込んだらしい。個人タクシーは気楽な稼業だ。うらやましい。
「何やが? 二人揃てぃ、うさきーなー高笑れーっし?」
「お父さん、まず、写真見て、写真!」
「写真?」
お母がお父に写真を差し出した。お父は写真を一瞥して、呆れたように言葉を発した。
「勉どぅやるい? はっさ。うれー、いへー(多少)、違とーっさー」
「事故で頭がおかしくなったんじゃないの?」
あたしの相槌にお母が笑いながら首を振る。
「多恵子、頭がおかしかったら、沖縄まで手紙は出しゆーさんよー」
そうか。そりゃ、そーだね。
「でぃ、手紙んかいや、何んち書かっとーたが?」
あたしは封筒から手紙をひっぱり出した。が、一枚ずつめくりながら愕然とした。そこには一面びっしり、アルファベットが並んでいたのだ。
「うっそ、これ全部英語! すぐには読めんよー」
「あんたが読みきれんで、誰が読むね?」
お母の言葉には答えず、あたしは手紙を片手に立ち上がった。
「部屋で辞書引きながら読むわ。時間かかるはず」
あたしは階段を上って自分の部屋を目指した。居間に残ったお父とお母が勉の写真に見入りながら、こんな会話を交わしてるのも知らずに。
「……幸恵」
「ふー?」
「此ぬ勉よー、右ぬ足、病まちょーしが」
「あい、やいびーんやーたい」
「うれー、歩かりーがやー? マシないねー、済むしが、やー?」 ((4)へつづく)
Since this time, the narrator changes from Tsutomu Uema into Taeko Kochinda.
多恵子さんのモノローグへ切り替わります。
あれから三週間たった、二〇〇一年一月二十四日、旧正月。
あたしは、今までのあたしに戻りつつあった。看護師としての誇りと自覚を取り戻し、再び英会話教室へも通うようになった。その日はレッスンを終えて、深夜勤にそなえてシャワーでも浴びようかと思っていた。
「ただいまー」
「多恵子、手紙来てるよ。」
お母があたしを呼び止めた。
「誰から?」
「わからんよ。外国からみたいさー」
「外国?」
「うり」
そこには、赤と青のストライプで縁取られたエアメールがあった。宛名は確かにあたしだけど、差出人の名前はどこにも書かれてない。何、これ?
消印はロサンゼルス。微かな不安を感じながら、あたしは、はさみで封を切った。と、居間のテーブルの上に写真が落ちた。拾い上げ、思わず叫んだ。
「勉?!」
次の瞬間、あたしは、その写真に収められた彼の姿にひたすら爆笑していた。
「勉? だー、見せてごらん」
あたしは、お母に写真を渡した。彼女もすぐに笑い転げた。だって、すごい写真だったんだもの! New Year Partyでもしたのだろうか? 彼はアメリカの星条旗を思わせる派手なストライプ柄の山高帽をかぶってて、黒ぶちの、いかにも作り物ですといった感じのメガネを掛け、ピエロみたいな真っ赤な丸い鼻をつけていた。その上、これまた紅白柄のへんてこな背広を着ていた。まるで大阪の道頓堀にある「くいだおれ人形」そのもの、いや、金髪頭で白人そっくりな分、人形以上に笑える。ただ、小太鼓を叩いている人形とは違い、車椅子に乗って本物のサンシンを弾いていた。
「ひどい格好!」
「でも元気そうだねー」
あたしたち二人の笑い声を聞きつけ、お父が奥座敷からやってきた。旧正月だから開店休業を決め込んだらしい。個人タクシーは気楽な稼業だ。うらやましい。
「何やが? 二人揃てぃ、うさきーなー高笑れーっし?」
「お父さん、まず、写真見て、写真!」
「写真?」
お母がお父に写真を差し出した。お父は写真を一瞥して、呆れたように言葉を発した。
「勉どぅやるい? はっさ。うれー、いへー(多少)、違とーっさー」
「事故で頭がおかしくなったんじゃないの?」
あたしの相槌にお母が笑いながら首を振る。
「多恵子、頭がおかしかったら、沖縄まで手紙は出しゆーさんよー」
そうか。そりゃ、そーだね。
「でぃ、手紙んかいや、何んち書かっとーたが?」
あたしは封筒から手紙をひっぱり出した。が、一枚ずつめくりながら愕然とした。そこには一面びっしり、アルファベットが並んでいたのだ。
「うっそ、これ全部英語! すぐには読めんよー」
「あんたが読みきれんで、誰が読むね?」
お母の言葉には答えず、あたしは手紙を片手に立ち上がった。
「部屋で辞書引きながら読むわ。時間かかるはず」
あたしは階段を上って自分の部屋を目指した。居間に残ったお父とお母が勉の写真に見入りながら、こんな会話を交わしてるのも知らずに。
「……幸恵」
「ふー?」
「此ぬ勉よー、右ぬ足、病まちょーしが」
「あい、やいびーんやーたい」
「うれー、歩かりーがやー? マシないねー、済むしが、やー?」 ((4)へつづく)
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