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がーじゅーみやらび(我の強い美童)

2.ラウンジでの出来事

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 At Naha City, Okinawa; 1992.
 The narrator of this story is Rika Aguni.

さて、それは学校が再開し夏休みボケも治まった九月末のある日のこと。
あたしたちは日曜の当番に入った。昼間は目が回るくらい忙しかったのに、夜になると雨が降り出してヒマになった。
あたしが夕食を済ませて勤務に戻り、ほとんど入れ違いに多恵子が食事に出かけて、二十分くらい経った頃かな。
誰もいないラウンジにお客様が来た。金髪で背の高い男性だ。
外国人? どうしよう? 主任はたまたまマネージャーに呼び出されていた。一緒の当番だったサカモトさんと相談していたとき、多恵子が戻ってきた。
「どうしたの?」
「あ、おかえり多恵子。あのさ、外国人のお客様みたいなのよ」
「外国人?」
「ほら、あそこ」
あたしは9番テーブルを指した。すると多恵子が口を開いた。
「あたし、オーダー取ってきます」
え、多恵子? あんた、大丈夫なの?
「多恵子、英語しゃべれるの?」
「主任に任せたほうがいいんじゃない?」
あたしとサカモトさんが止めるのも聞かずに、
「いいよ、あたし、行く」
多恵子はメニューを片手にカウンターを飛び出した。

多恵子はしばらく9番テーブルのお客様と話をしているようだったが、戻ってくると、
「ホットです」
とカウンターのあたしに告げた。
「多恵子、あんた、大丈夫だったの?」
彼女はかぶりを振った。
「あれ、知り合いだから」
「知り合いって?」
「幼馴染だよ。あれでも日本人だからさ」
「日本人なの?」
嘘? どうみても白人さんだよ?
「クォーターって言うのかな。おじいちゃんがアメリカ人だったらしいよ」
多恵子は平然と答えると、出来上がったコーヒーを持っていった。が、しばらくして、プリプリ怒りながら空のトレーを持って帰ってきた。
「カッコイイね、多恵子さんの彼氏?」
主任がにこにこしながら多恵子に尋ねたが、彼女はしっかり首を横に振った。
「知り合いです、ただの」
「へえ、仲良さそうだったけど?」
「何でもないです!」
多恵子は大声をあげ、あわてて自身の口を塞いだ。
「え、彼氏じゃないんだ?」
「もったいなーい!」
「……何がよ?」
何故か、多恵子はとても怒っている。何があったんだろ?



十分くらい経って、その男性がレジに現れた。
「多恵子さんの彼氏だったら、お会計はいいですよー」
主任は笑って彼に告げている。
「ご馳走様でした」
あ、本当だ。日本語しゃべってる。
「またコーヒー飲みにいらしてくださいね」
あたしが声を掛けると、にっこり笑顔を返してくれた。眼鏡の奥の茶色の瞳が輝いている。
ハンサムだなー。背も高いし。左頬の赤あざがなければ、モデルになれそうなくらいカッコイイ。それに優しそうだし。あたし、タイプかも。
密かにそう思っているあたしの横で、多恵子はずっとプリプリ怒っていた。
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