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長いかくれんぼ
1.ジューミーとアタクーとアンダチャー
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At Nishihara town, Okinawa; 2012 and 1985.
The narrator of this story is Rina Kochinda.
その日、あたしは親戚の純菜姉々と兄と三人であそんでいた。
純菜姉々は、母のいとこである山内元弥おじさんの長女。会うのは清明祭(旧暦三月のお墓参り)以来だ。一緒にシャボン玉を作って飛ばしたり、屋根に上ったり、近くの公園で追いかけっこをした。
「あい、ジューミーだ」
あたしは、木登りをしているそいつを捕まえて純菜姉々と兄に見せた。
「ね、かわいいでしょ?」
すると、純菜姉々も兄も逃げ出したのだ。なんで? こんなにかわいいのに?
あたしはそれを、おじぃおばぁの家に持ち帰ってきた。父に見せてみる。
「お父さん、ジューミーだよ」
父はそれを見て言った。
「理那、これはジューミー(アオカナヘビ)じゃないよ。アタクー(キノボリトカゲ)だよ」
「アタクー?」
「どうしたの?」
母までが、あたしの手の中をしげしげと覗き込んでいる。
「これはアンダチャー(トカゲ)じゃないの?」
「多恵子、これはアタクー。アンダチャーはもう少し小さいよ」
「そうかねー?」
沖縄には、いろいろな生き物がいる。地域によって呼び名も変わったりする。「どれ」が「どれ」かをはっきりさせるのは、専門家でないと難しいかもしれない。
「理那、お家に持ってきても、お友達もいないし、かわいそうだから元の場所へ戻しておいで」
「うん、お父さん、一緒に行こう?」
「お父さんはダメよー、足が悪いんだから。あとでお兄ちゃんと行きなさい」
母に言われて、あたしはがっかりする。はー、またお兄ちゃんか。だって、さっき、逃げたんだよ?
ずっと、疑問だった。
どうして、父は足が悪いのだろう? 父は医者なのに治せないのだろうか。
「理那が大きくなったらお医者さんになるから、きっと治してあげるよ。お父さん」
「そーだなー、理那に治してもらおうかな?」
父はそういって、いつもあたしの頭を撫でてくれた。
あたしは、父が大好きだった。あたしの顔はどちらかというと父に似ているそうだが、もっともっと同じになりたかった。髪の色も瞳の色も、なにもかも。
「理那は今が一番いいの。お母さんやみんなと同じ、黒い髪と黒い目が一番だよ」
どうして父がそういうのか、あたしにはわからなかった。金髪と白い肌が原因で父が「いじめ」というより「迫害」を受けていたことを知ったのは、つい最近のことだ。
父は今でもよほどのことが無い限り、糸満の実家へは顔を出そうとはしない。父が東風平を名乗った本当の理由は入り婿だからではなく、東風平のおじぃおばぁが父を本当に愛してくれていたからだ、と母から聞かされた。
結局、あたしは兄とアタクーを戻しにいった。ジーワ(クロイワツクツク)がズーガズーガと鳴いている。こいつが鳴くと夏も終わりだ。「図画、図画」と夏休みの宿題をせかすように聞こえて、悲しくなってくる。
「スイカがあるってよー!」
純菜姉々が遠くから呼んでいる。あたしたちは急いでおじぃの家へ戻った。
あたしたちは手洗いをうがいを済ませ、スイカにかぶりついた。やっぱり夏はスイカだ。
「甘いねー!」
「ほら、もっと切ってあるよ?」
おばぁがニコニコ笑いながら、残り半分のスイカをテーブルに運んできた。締め切った隣の稽古部屋から、サンシンの音が流れている。おじぃが父にサンシンを教えているのだ。
あたしも、いつか習おう。お父さんから、教えてもらおう。
The narrator of this story is Rina Kochinda.
その日、あたしは親戚の純菜姉々と兄と三人であそんでいた。
純菜姉々は、母のいとこである山内元弥おじさんの長女。会うのは清明祭(旧暦三月のお墓参り)以来だ。一緒にシャボン玉を作って飛ばしたり、屋根に上ったり、近くの公園で追いかけっこをした。
「あい、ジューミーだ」
あたしは、木登りをしているそいつを捕まえて純菜姉々と兄に見せた。
「ね、かわいいでしょ?」
すると、純菜姉々も兄も逃げ出したのだ。なんで? こんなにかわいいのに?
あたしはそれを、おじぃおばぁの家に持ち帰ってきた。父に見せてみる。
「お父さん、ジューミーだよ」
父はそれを見て言った。
「理那、これはジューミー(アオカナヘビ)じゃないよ。アタクー(キノボリトカゲ)だよ」
「アタクー?」
「どうしたの?」
母までが、あたしの手の中をしげしげと覗き込んでいる。
「これはアンダチャー(トカゲ)じゃないの?」
「多恵子、これはアタクー。アンダチャーはもう少し小さいよ」
「そうかねー?」
沖縄には、いろいろな生き物がいる。地域によって呼び名も変わったりする。「どれ」が「どれ」かをはっきりさせるのは、専門家でないと難しいかもしれない。
「理那、お家に持ってきても、お友達もいないし、かわいそうだから元の場所へ戻しておいで」
「うん、お父さん、一緒に行こう?」
「お父さんはダメよー、足が悪いんだから。あとでお兄ちゃんと行きなさい」
母に言われて、あたしはがっかりする。はー、またお兄ちゃんか。だって、さっき、逃げたんだよ?
ずっと、疑問だった。
どうして、父は足が悪いのだろう? 父は医者なのに治せないのだろうか。
「理那が大きくなったらお医者さんになるから、きっと治してあげるよ。お父さん」
「そーだなー、理那に治してもらおうかな?」
父はそういって、いつもあたしの頭を撫でてくれた。
あたしは、父が大好きだった。あたしの顔はどちらかというと父に似ているそうだが、もっともっと同じになりたかった。髪の色も瞳の色も、なにもかも。
「理那は今が一番いいの。お母さんやみんなと同じ、黒い髪と黒い目が一番だよ」
どうして父がそういうのか、あたしにはわからなかった。金髪と白い肌が原因で父が「いじめ」というより「迫害」を受けていたことを知ったのは、つい最近のことだ。
父は今でもよほどのことが無い限り、糸満の実家へは顔を出そうとはしない。父が東風平を名乗った本当の理由は入り婿だからではなく、東風平のおじぃおばぁが父を本当に愛してくれていたからだ、と母から聞かされた。
結局、あたしは兄とアタクーを戻しにいった。ジーワ(クロイワツクツク)がズーガズーガと鳴いている。こいつが鳴くと夏も終わりだ。「図画、図画」と夏休みの宿題をせかすように聞こえて、悲しくなってくる。
「スイカがあるってよー!」
純菜姉々が遠くから呼んでいる。あたしたちは急いでおじぃの家へ戻った。
あたしたちは手洗いをうがいを済ませ、スイカにかぶりついた。やっぱり夏はスイカだ。
「甘いねー!」
「ほら、もっと切ってあるよ?」
おばぁがニコニコ笑いながら、残り半分のスイカをテーブルに運んできた。締め切った隣の稽古部屋から、サンシンの音が流れている。おじぃが父にサンシンを教えているのだ。
あたしも、いつか習おう。お父さんから、教えてもらおう。
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