辺境の賢者バルルーフ

sho

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【1章】

【第十一話】最期

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私が転位してから数年の時が経った。
私は初級魔法が扱える程度に成長した。
しかしバルルーフの教えを守り、滅多めったなことでは魔法は使っていない。
異界に転位して、ファンタジーの世界に溶け込むかと思えば、実際は農夫として生きている。
それでも心身ともに健康だ。

ところが不幸は急に訪れる。
バルルーフが病に倒れた。
「魔法で治らないのか?」
「魔法は万能ではないのだよ。」
「賢者でも死ぬのか?」
私は後ろに座っているマルコに殴られるのを覚悟して、思い浮かんだ疑問を病人に投げかけ続けた。
「私は長い時間を好きに生きさせてもらった。もう十分だ。」
「生き過ぎたのは私だ。」
カルティアが言った。
「陛下には生き続けてもらわなければなりません。」
「生きて償い続けることが私に課せられた罰か。」
「いや、もっとするべき使命がある。」
「その使命は何なのだ、教えてくれバルルーフ!」
「それは私が教えることではない。」
カルティアの犯した罪と果たすべき使命について、私は知りたかった。

しばらく沈黙が続いた後、バルルーフは話始めた。
「私は私の理想を体現することはできなかったが、自らの使命を果たしたと思う。」
死期を悟ったかのような発言を聞いて、マルコは首を横に振る。
「時には政治に足を踏み入れて奔走ほんそうしたこともあった。しかしあれほど時間をかけたにもかかわらず、振り返ると一瞬の出来事に感じてしまう。きっと千年生きようが万年生きようが、振り返った時に強く思い浮かぶのは、真に充実したひと時だ。私はすでにそのひと時を経験できた。思い残すことは無い。」
人生を総括するバルルーフに私は慌てて質問をする。
「なぜ私を召喚した?」
その質問はこれまで聞かないでいた、いや聞けないでいたことだった。
私は答えを聞くのが恐ろしかった。
自分に大きな役目が課せられているのではないか、それによってひどい目に合わされるのではないかと不安に思っていたからだ。
「それを最期さいごの質問に選んだか。」
バルルーフは目を閉じながらにっこりと微笑ほほんだ。
「私はわがままなのだよ。」
バルルーフはそれ以上教えてくれなかった。
私はカルティアと同じように、自分で考えろということだと受け取った。
「ではとっておきの魔法を残して去ることにしよう。」
バルルーフはそういって呪文を唱えた後、幸せそうに永い眠りについた。
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