カーネイジ・レコード

あばらい蘭世

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第1章 全ての始まりの記録

abyss:34 廃墟区戦闘(ダストバトル)⑤

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こずえはどう足掻あがいても勝算が見えないし、戦況がひっくり返せそうな機転が思いつかず観念した。いま援軍が来ようものなら私が呼び寄せたと思われて真っ先に私が殺されるだろう。早くこの状況から解放され、仲間を手当する最善策は情報提供リークしてしまうことだ。

「わかりました。知っていることは何でも答えます」
その言葉を聞いて夜春は刀を抜きこずえの上から退いた。
「口を割らない人には拷問しちゃうから素直で助かったわ~。私が拷問するとみんな激痛で泣きわめき散らしながら最終的に話してくれるの、うふふ」
夜春が残酷で不敵な笑みを浮かべる。
(この主婦、拷問のプロですわ)

「1つ目、私を襲ってきた目的は?」
ボスからは生きてればどんな状態でもいいから連れてこいとだけ命令オーダーされました」
「ワォ、すんごいざっくりした命令オーダーね。詳しい内容は知らされていないの?」
「正直、あなたの情報も<ただの主婦>ということ以外何も知りません。こんなにあなたが強いと知っていたら。いえ、事前に知っていてもおそらく勝てませんでしたわ」
「襲う相手のこと何も知らされないなんてことある!? そりゃご愁傷様、わたしの経歴しらないで喧嘩を売ってくるなんて自殺行為よ」
「あなた、本当は何者ですか?」
「私? 私はよ、ぷくくく」
夜春は少し目を細めてそれ以上は聞くな、という目をした。
「私のことはいいから、組織名と所属を教えなさい。こんな適当な命令オーダーのくせに科学力だけはズバ抜けているってどんな組織?」

「── 組織名はAXアクス。私たちは戦闘員ギヴン≫と呼ばれる肉体強化された改造人間です。9人の精鋭がいますがあなたを女子トイレで襲った男はすでに退場処刑されています」
「GIVEN? <与えられた者>って意味かしら。力を貰ってこんな命がけのことをするくらいだから何かしら代償を払ったんでしょ?」
「そんなところですわ」
「その9人、8人か。残りの5人はいまどこで何をしているの?」
「3人はあなたの息子を襲撃しましたが、音信不通になったので負けて退場処刑されているかと思います」

「いつかこんな日が来ると想定して私の技術と知識を叩きこんでおいたことが息子の命を繋いくれるなんて嬉しいわね!」
「こんな日を想定するってどんな教育ですか!?」
こずえは次の情報を伝えるか迷った。これを伝えたら最悪殺される可能性がある。
黙ってしまったこずえに夜春が問いかける。
「残りの2人は誰に行ったの?」
やっぱり来た!とこずえはごくりと唾をのみこむ。
恐る恐る口を開く。
「──残り2人はティナという娘を誘拐しましたわ。1人はティナに負けたことで退場処刑され、残りの1人がティナを私たちの基地コフィン連れ去りましたわ」
「ありゃりゃ、そうきたか~! そうよね、そうよね! わたしが敵だったら人質とるもん」
殺されかねない情報だったが夜春の反応がこずえの予想外だった。

「だいたい状況はわかったわ。次、ボスの名前おしえなさい」
「黒いヘルメットで顔を隠した男がボスと名乗っていました。ボス以外は本当に名前は知らないですわ」
「ふぅーーーん。自分の組織のボスの素性を知らないなんてことがあるんだ」
こずえは嘘をついていなかった。
夜春の情報が雑にしか共有されていなかったことを考えると知らなくてもおかしくはないと考えた。
素直にティナの情報を吐いたことでこれ以上は問い詰めないことにした。

「私が知りたいのはそんなことじゃないし、ボスなんてどこの誰でもいいの」
と夜春はスマホを取り出し操作した画面をこずえに向けた。
「この男、知ってる? 見かけた?」
黒髪の男前が遊園地でキャラクターカチューシャをつけ赤ん坊と笑顔で写っている写真だった。
「あらかわいいですわ、じゃなくて。うーん? 見たこと・・・ないですわ」
こずえは思い当たる人がいないという表情をする。
「こっちは?」
今度は陰影が入った怖い顔をしたさっきの男前の写真だった。
「素敵! じゃないですわね・・・この顔も見たことはないですわね」
「じゃあこれは?」
髪の毛がボサボサに伸びて、髭もボーボーに伸びている写真だった。
「あ、あああこのきたならしい男、本拠地コフィンで何度か見かけましたわ!」
深い闇の目をしていた夜春の目が一瞬でキラキラした乙女の目になった。

「やーん! こずえちゃーん、詳しく聞かせて! 彼は生きているのね!?」
夜春の反応と態度が柔らかくなったことにこずえはビックリしていた。
「三ヶ月くらい前に拘束型移動式ベッドに寝かされて人体改造室に運ばれていました」
「めっちゃ最近じゃない! 元気そうだった?」
「表情は分かりませんが呼吸はしていました。私は誘拐されてから5年間本拠地コフィンで過ごしていましたが初めて見た顔ですわ。知り合いですか?」
「彼はね、13年前に行方不明になった私の主人よ、うふふ!」
「あんなところに13年も!?」
「強運すぎて殺しても死なない人なのよ、やっぱり生きていた最高! スキスキ大スキィ!」
夜春は地面を両足でバタバタ踏みながら大喜びしている。

梢は自分の生殺与奪が夜春に握られていることを思い出した。
夜春がおかしなテンションになっているが早く解放されることが何よりの望みだ。
「─── それで他に聞きたいことはありますか?」
「最後の質問。本拠地コフィンはどこにあるの? 入口教えて」
こずえの予想通りの質問だった。
「これをお渡しするのが早いですわ」
梢はポケットからスマホを取り出し夜春に渡した。
「ここをタップすると入口までのルートが表示されます。スマホを持って入口に近づけば自動で中に入れます」

夜春は渡されたスマホを操作して
「地下?! まさかの灯台下暗しだった!!!
ちょっと何よこの大きさ、めちゃくちゃ巨大じゃない!
ローグはどうして見つけられなかったの!!!」
スマホのマッピング画面で本拠地コフィンまでの全体を見ることができた。
本拠地コフィンがある中枢までのルートはほぼまっすぐな通路の入り組んでいないシンプルな構造だった。
「なんで? 施設の防衛対策おかしいでしょ。簡単に中枢まで来させないための複雑な通路、挟撃きょうげき用の隠し通路すらないじゃない!」
「詳しくは分かりませんが侵入したところで即迎撃しますし、侵入者が来ないという想定で建設されたらしいです」
「造った奴の思考が読めない…………。これまで闘ったことがないたぐいの思考している」
「私たちもボスが何を考えているか分かりません。我々を誘拐して改造したものの実験ばかりで何年間も閉じ込めたままでしたわ。
今回の命令オーダーで初めて外に出られましたの」
「隠れるのが上手いのね、これだけ潜伏されたら主人の手がかりがないわけだ」
夜春はスマホを触って情報を全て頭の中に叩き込んだ。

入口は今いる廃墟区ダストと工場区しかない。
どちらからもほぼまっすぐ進むと本拠地コフィンと呼ばれる広い空間がある。
夜春の位置から一番の近道は廃墟区から潜入すること。
「本当に行くのですか? 戦闘員ギヴンほどの高い戦闘力はありませんが数百名の人体改造された人間が警備で配置されます。彼らは感情を消され痛覚もない殺人人形キリングマシーンですよ」
それを聞いた夜春からズゾゾゾゾゾゾゾッと禍々しい異様な気配が漂い始める。
「主人を見つけるためにこれまでたくさんの地獄を踏み越えてきたの、邪魔をするなら相手が誰だろうと排除するだけ」

夜春の尋問もそろそろ終わりが近くなった。
「梢の刀、貰ってもいい? もういらないでしょ?」
「構いませんわ。かっこよくてなんとなく選んだ武器ですし、刃はあなたの方が何倍も使いこなしてくれそうですわ」
「ありがと。最後に何か言っておきたいことある?」
「敵対した私が言うことではないですが、私たちは任務失敗で退場処刑させられます。
もし私たちが退場処刑させられるより先にあなたが勝っていただければわたしたちは自由を手に入れることが出来ますわ。
どうかご武運をお祈りします」
「あなたのために闘うつもりはないけど、主人を助けたら結果的にこずえたちが助かるのね、頭の片隅に入れておくわ」

夜春はこずえの前から立ち去りスマホを見ながら廃墟区ダストの闇の中にサァーーーーと消えていった。


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