カーネイジ・レコード

あばらい蘭世

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第1章 全ての始まりの記録

abyss:43 学芸会レベルの男

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真っ暗闇になった空間。そして男の声で話しかけてきた。

「ようやくここまで辿り着いたか、長年待ち続けたぞ!」


暗闇で何も見えない。
天井から一本のスポットライトがパッと床を照らした。
俺たちはそちらを向くが、照らされた場所は誰もいない。

スポットライトが消え、少し離れた別の場所に再度スポットライトが当たる。
ライトの中に黒いヘルメットにドットの点で表情を表した黒服の上に白衣を纏った男が立っていた。
ヘルメット男はオコなドット顔をして斜め上を見ながら
「イグニス! お前いまのわざと間違えただろ!」
と怒鳴り始めた。
「失礼。わたし本番に弱いんです」
イグニスと呼ばれた女性の声が言い訳を言う。
「クソが! 漫才じゃねーんだから一番いいところでボケるな!」
「スミマセンデシター(棒読み)」
イグニスと呼ばれた女性はドジっ子なのかそれともわざとなのか。
黒いヘルメットは笑顔に変わり俺たちに向き合う。
「ゴホン。夜春さっきぶりだね。闘っている姿はとても綺麗だったよ」

(ニチャァ)とどこからか効果音が入る。

「キモ! さっきエレベーターにいたのあなたよね? 主人と顔見知りぽいけど私とあなたは接点あったかしら?」
「くふふ。阿久津あくつ、といえばご理解いただけるかな?」
阿久津あくつ───!? 阿久津あくつ………うーーーん?」
母さんは両腕を組み頭を左右に振って思い出そうとしていた。

(チッチッチッチッチッ)今度は秒針を刻む効果音が流れる。

(なんの演出だ、ウザイ)
「…………主人の大昔の………部隊の生き残りにそんな名前がいたような? ああ…! もしかして、引きこもりの阿久津あくつ!」

「正解!!! その阿久津だ!! いや引きこもりは不正解だ! 私の部下たちは役立たずで───」
指をビシィ!と母さんに指したあと、その手をブンブンと振る。

(ででーーん!パラッパラー)効果音

阿久津が語り始めようとしたタイミングでまた効果音が入る。
「ウッソ! 阿久津あくつだから組織の名前が<AXアクス>? ダサいーミングね、ウケるんですけど~! くすくす」
と母さんがツッコミを入れ阿久津の話をぶった斬った。
「ち、違う! <AXアクス>というのは<へし折る>という意味で………!」
「それならSMASHスマッシュとかBREAKブレイクの方が良かったんじゃないの?」
「うるさい! 今さらそんなアドバイスいらん! 私が良いと思ってネーミングしたんだから否定するな!」
両手足をバタバタさせ怒っているが阿久津のヘルメットに表示される怒りの表情が (>ω<) になっていて、俺はリアクションをしていいのか困る。
きっと阿久津本人はこんな表示になっていることに気が付いていないのだろう。
というかさっきからなんだこのグダグダ感は。

阿久津あくつは空気を読まない母さんのペースに完全に飲まれてしまっている。
「あははは、ごめんごめん。私が主人と出会う前にあなたと付き合いがあったと聞いたことがあるから…………20年以上前の亡霊じゃない。
ずっと引きこもってろ。それとすぐに主人をかえしなさい」
「私がラスボスだ。まぁそう慌てるな、私の台本シナリオがあるのだ」
「めんどくさいやつ」
「うるさーーーい! お前こそ一言多いんだよ!」
「あなたのペースに合わせるつもりはないわ」
(子供のケンカか)
俺が口をはさめそうな余地がない。

「ふん、まあいい。おいイグニス、あのむすめを連れてこい!」
「え!? もう台本シナリオ無視ですか? 段取りがまだなのに気分で変更するのやめてもらえます?」
イグニスも阿久津あくつの急な指示出しに困惑している。
あの娘というのはティナ以外考えられないが、阿久津あくつとイグニスの一連のやりとりを見ていると他人と取り間違えて連れてきてしまうことも想像できてしまった。
イグニスはボソッと「やれやれですね」と悪態をついて黙り込んだ。

待っている間に俺たちと阿久津あくつの間に流れる沈黙。
俺は口を挟みにくいし余計なことを言ってティナが連れて来られないような悪い方向にならないとも限らないから黙ることにした。

・・・・・・
・・・・・・・・

沈黙が続く。

先に口を開いたのは阿久津あくつだった。
「おい何か話せよ! が持たんだろ!」
「やれやれですね」
と母さんはイグニスの口真似をした。
「じゃぁ教えて欲しいんだけど、こんなものを作って何をしようとしたの? あー先に言わせてもらうと世界征服とか人類抹殺とかそういう返答はもう十分間に合っているから言わないでね」
「ウグゥ・・・!!!・・・・・」
阿久津あくつうめき言葉を詰まらせた。
「そのまんまか!!!」
すかさず母さんがツッコミを入れた。

阿久津あくつはモジモジしながら
「理由? 理由ならあるよ─── ほら、アレだアレ」
急にしどろもどろし始め挙動が怪しくなった。
ヘルメットの顔もいろんな表情が交互に変わっていく。
俺は敵がこんなに間抜けなのかと思った。

映画やドラマでみた悪役は威厳があり非情で冷徹で、ちゃんと悪の信念を持っているのに阿久津あくつは、素人が無理してるだけにしか見えない。
これだけの建造物と科学技術はすごい。
だけど信念も中身もない<空っぽ>だ。

映画や漫画の想像の世界は作り物の虚構でしかなく、本当の現実はこんなものなのか。
チラリと母さんをみると口元に手をあて、頬に一筋の汗を垂らしている。
「あいつのノリが学芸会レベルでイレギュラーすぎて困るわ。私が壊滅させた中で一番レベルが底辺のボスよ」
(俺がハズレガチャを引いただけか)

阿久津あくつは俺たちに話しかけるのをやめ、自分一人で行ったり来たり歩き回っている。

「ねぇねぇ母さん。話が二人だけで進んでいるけどあいつ誰?」
「えっと、そうねぇ─── 私が阿久津あくつの名前をチラっと聞いたのは新婚当初だったかな。すごぉーくざっくり言うとお父さんの部隊にいた情報支援隊ISAのエース。私の過去の経験から推察するにお父さんに拘っているのは部隊壊滅のトラウマで悪事に走った─── という感じかしらねぇ」
「部隊?! 情報支援隊ISA?! 軍人?!」
父さんは軍隊にいたという過去から母さんの素性がいろいろと繋がってきた。
「いいリアクションね! 詳しくは端折るけどそういうこと。私の推察だから本当の動機は本人にしかわからないけど」
「母さんは阿久津あくつに会ったことないんでしょ? いつから父さんと接触していたんだろう」
「私たちずっとアメリカ生活だったから可能性が高いのは日本に返ってきた時かしら。お父さんに接触してきたなら、そうねうん。やっぱりそこしかないわ」

母さんの口から衝撃の一言を聞いた。

「覚えていないでしょうけど私たち爆心地の隣の街に住んでいたの」
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