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第1章 全ての始まりの記録
abyss:45 4つの選択肢
しおりを挟む強烈な悪臭を放つ阿久津に対して母さんは
「すでに死んでいるんじゃないの?」と言った。
─── これは死臭…………?
「何をバカなことを!私はこうしてちゃんと生きているぞ!」
「そうだよ母さん、ゾンビ映画じゃあるまいし非科学的だよ」
すでに俺の前にある現実がSF世界みたいだけど。
「うっとおしい小娘だ、まずは貴様からコロし―――」
「どおりゃぁああああっ!」
「ガハァッ!!!」
両足は自由だったティナが頭を下にして屈んでからの後ろ回し蹴りが阿久津の顔側頭部に綺麗にヒットした。
誰もがティナが攻撃をするなんて予想していなかった。無防備だった阿久津も同じでモロに蹴りを食らい、棒人形のように身体を吹き飛ばされ床に転がった。
蹴りを入れながら体を捻ったティナは身体と手に巻き付けるように鎖を引っ張って手繰り寄せた。
引っ張られた鎖は阿久津の緩んだ手から簡単に引き抜かれた。
ティナは黒い布を被った女の動きを警戒して身構えたが、相手に動く様子がないと判断し鎖を引きずりながら俺たちのところに駆け寄ってきた。
「ティナ!!!!」
「ハルキィーーー!!!」
駆け寄ってきたティナをギュッと抱きしめる。可愛い顔は安堵で笑顔を浮かべ細くて柔らかい身体の余韻に浸っていたいが、先に両手の手枷をぶっ壊し、もう一度抱きしめ無事だった喜びを味わう。
「ティナ、無事でよかった。 何もされなかったか?」
「会いたかったよぉ~! うん、何もされていないよぉ!」
「あーはっはっはっ! 傑作! なにこれ最高なんだけど! アメーイジングゥ!」
母さんはティナが阿久津に蹴りを入れて逃げ出したことに腹を抱えて大笑いしていた。
このとき夜春の脳裏に学生時代、将暉と出会った頃彼に同じように下段からの回転回し蹴りを喰らわした記憶がフラッシュバックしていた。その時は夜春の回し蹴りは彼にあっさり受け止められてしまったわけだが今でも鮮やかな思い出として残っている。
「プクク。自力で逃げ出すヒロイン! 私、ティナちゃんのこともっと好きになっちゃった!」
(息子が初めて異性として興味を持った理由がよーくわかったわ)
母さんはティナが気に入ったのかニンマリむふー!な表情を浮かべてニヤニヤ俺たちを見てくる。
「ほんとにアイツ臭すぎ! 服に臭い染み付いてたら最悪!」
「今のティナちゃんの蹴りで全部が終わっていたらありがたいんだけどなぁ~」
倒れた阿久津を見ると、ダメージを受けていないかのようにムクリと平然と上半身だけを起こした。
「おーーー、いててて」
よっこらせと立ち、頭を押さえて首を左右に振った。
阿久津の背後に立っていた女は肩が小刻みに震えていた。
あれは笑っているのか?
表情が見えないからこそ阿久津よりもあっちの方がなんだか得体が知れない怖さがある。
阿久津は俺たちにティナがいること、両手に鎖がないことを確認すると
「逃げられたか…………台本通り!」
と言い放った。
さっきティナを殺すとか言っていたから絶対にウソだな。
「ここまでも茶番だったけど、さらに茶番になったわね。まだ何かあるの?
今度はお決まりの悪事の全貌を語らせてあげればいいの?」
「私がそんな悪巧みをこれ見よがしに語るような愚かな男にみえるかね。ふん、でもまぁ、どうしてもというなら教えてやってもいいぞ!」
「興味ない。早く私の旦那を返してよ」
(ガガーーーン!阿久津、ざんねーん!)と効果音が鳴った。
「さっきからなんだこの音は! イグニスやめろ! 私は悔しくないぞ!」
上に向かって叫ぶ阿久津。
「チッ!余裕があるのか、ただ馬鹿にされているのか怒りが込み上げてきたんですけど」
母さんの顔が険しくなり舌打ちする。
これまでの襲撃された過酷な状況の中にも茶番があったがいま起きていることはまさに茶番でしかない。
最後の最後にこんな茶番を見せられるためにティナは攫われ、母さんは13年間父さんを探し続けてきたならいい加減にしてほしい。
「夜春、そろそろ私の台本に戻してもいいかな?」
阿久津が自分勝手に台本を書き換えたんだろう。俺も母さんもティナも心で思っても誰もツッコミを入れようとはしない。
「君の旦那で私の親友だった将暉を無事に返すにあたって選択肢をあげよう! これは人間特有の愛とかいう感情を揺さぶる究極の選択肢だ!
理由も一緒に答えたまえ!」
「めんど。だいぶ拗らせてるわね~」
俺たちの事情はお構いなしに質問を投げかけてくる。
「それでは…………
選択肢1:君自身の命と引き換えに旦那を返すと言ったらどうする?」
「却下。──── あー理由だっけ、めんどいなぁ。私がいなくなったらあの人も死ぬから。はい次!」
母さんも面倒くさそうに適当に答えてあげる。
「ふむ、そうきたか。まぁわからんでもない。
選択肢2:旦那が死ねばお前たち3人は生かしてやる」
「却下。くだらない質問しかないの? 助けに来たのに死なせるわけないじゃない」
「まぁそうだよな」
うんうんと頷く阿久津。
(質問した側なのになに納得してるのお前?)
「選択肢3:そこにいる息子を殺せば愛しの旦那は大人しく返してやる」
「却下! お前冗談でもそんなこというなよ、いい加減──── 殺すぞ!」
くだらない質問に母さんはますます顔が険しくなり怒りがこみあげている。
「おー、こわ。次で最後だ」
阿久津はブルブル震える仕草でおどけた。
「選択肢4:そこにいる小娘を殺せばお前たち家族は無事に帰してやる」
母さんはちらっとティナを見た。
「…………」
沈黙した母さんは手に持っていたナイフをギュッと握りしめる動作をした。
母さんと再会した時の全身についていた返り血が脳裏を過る。
「母さん待ってくれ!」
母さんに限ってティナを殺す選択は無いとは思うが俺が止めにはいる。
「お、どうした? さっきみたいに即答しないのか! その娘は血が繋がっていないまったくの他人だ! 赤の他人が犠牲になって家族が一緒になれるならベストな選択だろう!」
阿久津の選択、人間の弱さに付け込んだ実に嫌な質問だった。最初は家族だから殺せないという否定をさせておいて最後に無関係なティナを選択肢にもってきた。
俺はティナをギュッと抱きしめ母を見る。
母の形相が殺意で一気に変わっていく。
殺意を隠すことなくドス黒いオーラのようなものが見えた。
「阿久津!!!! 私の選択は、お前を殺す! 一択のみ だ!!!!!」
ナイフを構えた母の姿が一瞬で消えた。
母さんと阿久津の距離が一気に詰まっていく。
阿久津まであと10メートルほどの位置で母さんの視界の真上に母さんをすっぽり隠すだけの大きな丸い影が入り込んだ。
何が落ちてくるのかわからないが影の大きさと質量はヤバいと進行方向を曲げ回避した。
天井から滝のように水柱が床に降り注いだ。
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