逃亡者ゲーム

宇梶 純生

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駐車場

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病院を囲む
鬱蒼とした
木々

病院の場所を
確認し
駐車場近辺を
流す

ぎっしりと
並ぶ
車の列

警備員の姿は
正面口以外
駐車場には
いない

…駐車場

駐車するには
やはり
駐車券が
発行される

……無理か

病院内
診察を待つ
病人と
付添人

そして
……見舞い人

入院患者は
テレビを見てる
確率が 高い

そして
擦れ違う人を
意味なく
眺める

医師や看護士
……事務員

……やめておこう

並木に沿って
駐車場を
通り過ぎ


また
前の車を
追う

道路から
眺める
風景に

生い茂る
木々を
探した

民営でも
市営でもいい

何処か
広い敷地の
駐車場が
あれば
いい


【市営球場】


道路脇に
書かれた
看板を見つけ

しばらくすると
巨大なライトが
森林の中から
姿を現した

とにかく
行くしかない

駐車場の
入口に
ゲートは なく

日蔭になる
駐車場スペースに

間隔を開けて
数台の車が
止まっている

営業マンの
休憩所として
仮眠している
可能性に賭けた

市営球場の
管理事務所から
離れた場所

数日
放置でも
しない限り

わざわざ
車の確認は
しないだろう

間隔を開け
止めにくい
駐車スペースに
車を停めた


冷めた
弁当を開け
蓋から流れる
水滴を零さぬよう
助手席に置いた

箸を付けた
煮物を
口に運ぶ

味など
わからない

朝から
何も
口には
してないが

空腹感は
まるで
なかった

神経が
そこまで
回らないのだろう

無意識に
運ぶ食材を
ただ
飲み込んでいた

弁当を
烏龍茶で
流し込み

気がつくと
箸が
止まっている

残った
おかずを
箸で いじり
蓋をした

食欲が
ない


煙草を吸い
缶珈琲を
飲むと

微かに
珈琲の味が
する

重苦しい
溜息を吐き

シートを
倒した

充満してくる
煙草の煙りに
窓を開け

揺れ広がる
煙りを
眺める

………
何故 こんな事に
なったのだろう


煙草を消し
シートに寝転び
車情報雑誌を
開いて
顔の上に
伏せた

塞がれた視界に
目を閉じる

………
無断欠勤…か…


会社は
どうなって
いるのだろう

……容疑者

会社は
容疑者として
処理するのだろうか

報道陣が
会社に押し寄せ
社員に
マイクを向けたら

社員は
何と答えるのだろう

………
借金まみれの
……容疑者

……そう
答える

……だろう


雑誌の隙間から
停車していた
車が
動き出すのを
感じ

耳を澄まし
数台止まる
車の発進音を
聞いていた

長居は
出来ない

残り一台に
なる前に
移動させなければ


時々
犬を連れた
飼い主と

散歩を兼ねて
ウォーキングする
年輩者が
車の前を
横切る

滅多に
車内を覗く
人など
いない


陽射しも
陰り始めた頃

自転車に乗った
少年野球の
子供達が

連なって
通り過ぎた

…時刻は
午後4時

何もせずに
一日が
終わる

顎に
生えた髭だけが
経過を 伝えていた

……髭剃り
何処で
購入すべきだろうか

…電気屋か

電気屋…
髭剃り以外の
必要性がある
商品は
あるだろうか


…オール商品が
手に入る
総合デパート

……髭剃りと
………毛布

後……コートを
一着…

とりあえず

とりあえず
それだけを
購入しよう


休憩していた
営業車と
入れ違いに
数台の車が
停まる

少年野球チームの
保護者だろうか

薄暗くなり
夕日が空を
赤く染め始める


……あと少し
日が 落ちたら
移動しよう

夕方過ぎれば
仕事帰りに
立ち寄った
男性客として

デパートを
ふらついても
目立つ事は
ない気がしたからだ


見知らぬ土地

少し広めの
道路を辿れば
必ず
道路沿いに
デパートの看板が
ある

聞き慣れた
大手デパートなら

間違いなく
立体駐車場が
あるだろう


そう
願う事しか
出来なかった


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