逃亡者ゲーム

宇梶 純生

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確証

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めくられる
アルバムの中
学生時代の
限られた時間が
埋め込まれている

想い出の一場面を
切り取った写真
笑う宮内の顔が
素晴らしい時を
過ごした証なのだろう

スナップ写真の中に
根本が 持っていた
写真も並んでいた

二人で写る写真は
その一枚だけで
仲間が 根本の為に
無理矢理 カメラの前へ
追いやったのだろう

緊張し強張る根本の
照れを隠す表情が
アルバムの中で
違和感なく
混ざり合っていた

「根本君だと
はっきり
わかる写真は
これ かしら」

ファイルから
取り出した
一枚の集合写真

仲間と肩を並べ
背筋を伸ばす
根本の写真が
堂々と胸を張る

部活動の試合後
弓道の袴を履き
記念撮影をした
写真なのだろう

根本と宮内を
繋ぐ絆は
共に戦い抜いた
弓道部の同志として
厚く結ばれて
いる気がした

差し出された
写真を受け取り
部員達の顔を
一人づつ
見ていると
ある人物の顔に
目が止まる

見覚えのある顔が
そこに あった


「……五十嵐……」


聡美と宮内が
視線を上げ
互いの顔を
見つめ
聡美が振り返る

「…知ってる人?」

写真を宮内の前へ
差し出し
一人の男の顔を
指差した

写真を覗き込む
宮内が 
指差す人物の
顔を眺め
呟く

「…五十嵐君よ」

愕然となる

………五十嵐
顔も見たくない
人物だ

何故なら
共同出資で設立した
会社代表取締役

倒産し
巨額な負債を
残して
行方をくらました男だ

根本と五十嵐の
接点が 此処にある

そして
俺と根本は
五十嵐で 繋がった


立ちくらみが
する


根本は 五十嵐に
騙されたのか

そして
五十嵐を庇い
命を絶ったと
言うのか

憎い五十嵐の顔が
脳裏に浮かび
憎しみのまま
言葉を吐き出す


「糞!」


込み上げ怒りで
煮え繰り返る

この感情は
根本が 消えた時と
同一の痛みとなり
鎮火し始めた種火が
燃え盛る火柱と
化した


卒業アルバムで
五十嵐を探し
住所を書き出した
聡美が 写真を持ち
宮内に頭を下げ

「写真 お借りします

…根本さん
必ず 救い出します

宮内さんも
辛いのに…
協力して頂いた事
無駄には しません」

一筋の綺麗な涙が
宮内の頬を 伝い
胸の前で 包み込む
根本の写真に
流れ落ちた


玄関先まで
見送りに出向いた
宮内に 深く
お辞儀をし

車の鍵を
差し込むと
聡美が 手を握り
首を 振る

「私が 運転する」

そのまま
ドアを開け
運転席へ
滑り込んだ

怒りで朦朧とした
意識の中

「乗って」

聡美の声に
背中を押され
車の後ろを回り
助手席へ乗り込んだ


……午後10時を回る

暗闇が 続く
国道へ出るまでの
細い道

対向車もなく
ヘッドライトに
照らされた
白い光りが
闇を切り裂き

轍の上を
辿る車内には
タイヤの振動だけが
鳴り響いていた

「これから
どうするの?」

ハンドルを握り
前を見ている聡美が
呟いた

窓硝子に
映り込む聡美の
姿を 眺め
深い溜息を
ついた

「……わからん」

聡美の口元が
微かに上がり

「そうね
わからないわね

とりあえず
ご飯食べに行かない?

お腹すいたわ

腹ごしらえ
しなきゃね」


顔を向けて
優しく静かに
微笑んだ
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