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お久しぶりね!私の【   】さん☆

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 人間は生きている限り、《娯楽》が必要である。例えば……、


「…………うそでしょッ?マリリンが無い……!?」


 ある晴れた平日の午後。
 暦ではもうすぐ冬なのに雨が降る前振れなのか異常な高気圧で、薄らと汗が出てしまう暑さである。空気の乾燥で喉を痛め易くなった現在。

 そんな中、シゴトの呼び出しで某都会の片隅にある人気の無い静かな路地裏にて、コツコツ……、とヒール音が木霊となり響き渡る。
 一歩ずつ歩く度、空気に溶け込むように冷たく消える無機質な音。
 同時に翠に近い焦茶色の髪の色。左上に緩い大きめなお団子ヘアに、ゆらりと長めの後れ毛が歩く速度に合わせて緩やかに揺れる。
 色気のある吊り目に唇の左下の黒子は、色気を感じさせる。
 この裏道だけは、日が通らない場所の為涼しさが広がっている。が、場所が場所の為、空気はあまり良ろしくない。
 なのに、懐かしい気持ちが蘇る。

……あの頃に、帰りたい、と不思議に思ってしまう程に。

 だが、これからシゴトの打ち合わせだと、無理矢理気持ちを切り替える。

 先日職場先であるイタリアで購入したお気に入りのビジネススーツ。
 身に纏う姿はスレンダーな身体付きにピッタリと似合う。オマケに背筋がピンッ!とした立ち姿をしている為、より人物のスタイルの良さと綺麗さが映える。


◇◇◇

 先程の懐かしい雰囲気のついでに三年前を、私はふと思い出していた。

(……TELで社長に呼び出されて、久々に日本に帰って来たんだけど……相変わらず変わってないわね、此処は)

 目に入った風化しつつのコンクリートの外壁、活気盛んだった飲食店達の古びた看板を見ると本当に、数年前と変わらない路地裏。
 まるで此処だけが現代に置いていけぼりをされたような空気と空間内。
 妙に好きだった時代を思い出してしまう記憶の一部。
 久々に、母国の地に歩いているんだ!という喜びを噛み締める。

 ただ一つだけ変わった事がある。
 前はよく日本でのシゴトを終わらせた後、毎回この近くの居酒屋〈マリリン〉で日本酒を呑んでプライベートを楽しんでいた。
 その店に来ていた常連のオッサン……では無く、昔のお兄様達と下らない話をしたり聞いたりして奢ってくれた事が多々あった。

 だが、今はその店が無くなっている。

 錆びついたシャッターに去年の夏の末日に閉店した事が記載されたポスターが寂しく張られている。
 この不況と流行性の強力なウイルスの影響で、営業するのが厳しくなったのだろう……。
 その埃まみれと雨風の影響で萎れたポスターが時代の勝負に負けた哀愁感が物語っているのだ。
 そんな状態を悲しくも目の当たりにして、無意識に呟いてしまう。

「最後に飲みたかったなぁ……。……《伯鈴》」

ーー そう本当だったら、あの時は飲めるはずだったのだ! ーー


 飲む前に、ほのかに鼻腔に擽る柔らかみのある甘い米の香り。
 次に一口含んだ瞬間に広がる、滑らかな舌触り。
 舌の上で転がせば転がす程、ピリっときて深く浸透するように喉にスゥ……ッと消える飲みやすさ。最後に残る優しい後味。
 私の大好きなお酒!お気に入りの日本酒!!
 ーー そう!三年前は飲めるはずだったッッ!! ーー
 でも、飲める機会が無くなったのだ……。

 あの糞ガキのせいでッッ!!!!

 私、羊谷 耀(ひつじたに よう)は、ある五歳年下の糞ガキのせいで飛ばされた。
 今の職場であるイタリアへ。
 これから会う社長を言いくるめやがってッ!……じゃなくて、海外に行かせるように仕向けたのよね。
 お陰様で、社長から
「実はね、今回のシゴトで推薦があったんだよ。
『ぜひ、耀さんをオススメします!イタリア語だけでは無く、色んな言語を話せますからね。
そんな凄い人は日本にいるのは勿体無いと常日頃から思っていたんです……。
社長!お願いです!!
耀さんの才能を今より発揮できるように手配して下さいッッ!!このままだと……耀さんが不憫で………。
それに……僕、耀さんを尊敬しているんです!!(嘘)』
と……あの子から、熱のある推薦を聞いてね。是非、お願いできるかな?……耀」

 事務所の応接室で突然言われた三年前の一番糞暑い夏頃。
 話しが出た瞬間、私の頭の中は季節と正反対に一気に真冬を通り越して氷河期に変わったのだ。
 でも、そんな事を知らない社長。
「良かったね、耀。君の頑張りを、ちゃんと見てくれて君の為に推薦してくれる人って中々いないよ?
良い友人を持ったね、耀」
と、心から嬉しそうな声色で言ってくる社長。言いたい……すんごく、言いたい!!
(……社長ッ!貴方、アイツに騙されてますよーーッッ!!って)
 そんな流れで断れる訳は無く、直ぐに異動先に飛ばされた。糞ガキ……、


 【神龍時 宇宙(しんりゅうじ そら)】のせいでッッ!!

 というか、尊敬してるなんて嘘でしょッッ!!
 こちとら、アンタの考えなんて分かってるわよ!!あの腹黒がッッッッー!!
 人が良さそうなタレ目に、社交性の高い弁舌さわやかな人と周りに認識されている腹黒のア・イ・ツ!!
 確か最後に会ったのが……、私が異動先へ向かう為に飛行機に乗ろうとしたニ時間前。
 ラウンジで、〈なんとかなるさ精神〉でいつもと同じように、ゆっくりとしていた時だ。
 アイツが現れた。


 「あれー?耀さん、奇遇ですね~!」

 右隣からいきなり、穏やかな口調に場の雰囲気を和ませるアルト調の声色。
(………ッッッ!!神龍時 宇宙!!?)
 偶然だとしても、会いたくなかった。
 せっかく、前向きになってきた気持ちがドン底に落とされ、負の感情が蘇ってくる。
 ダメだ!相手は五歳年下だから、大人の対応をしないと!と私は思考を無理やり切り替えた。

「……そうね。お久しぶりね。
何年ぶりかしら?兄弟の皆んなは元気??」

「はい、おかげさまで元気ですよー☆」

「そうなの。今日はどうしたの?旅行か何かで??」

「……ん?僕ですか?僕はですね、取材に行くんですよ~。
次回作の小説のストーリーで必要になりましてね。と言っても、西日本方面ですけどね。
あ!もしかして……今から〈イタリアへ異動〉ですかぁ~?耀さん」

 その言葉で、時が止まった。
 正確には、私の中でだ。
 嫌でも確信を得てしまった今。

 コイツ……、ワザと此処に………!

 ここに来たのは、偶然じゃない!!
 こちらに合わせて来たんだ。態々、コレを言うためにッ……!!
 そう結論出た瞬間、私の中に無理矢理閉じ込めていた【黒い何か】が一気に身体中を駆け巡った。
 ふと数年前アイスランド で見た火山のマグマが、乾いた土地に新しい亀裂を入れて所々に噴火爆発した光景を思い出す。 あの時は、
(まるで普段怒らない人間が、一気に怒りを爆発をしたような光景と似ているなぁ……。
あれって、けっこう周りを驚かせる行動よね。
でもさ……、そんな感情ってビジネスには良い結果を生まないのよね……)
と他人事のように冷めた感情で、目の前の自然発生を静かに傍観していた。
 それが、現在進行形の私だと自分自身に対して鼻で笑ってしまう。今の私の表情は、ちゃんとビジネス用の顔つきになっているのか分からない。
 そりゃ、そうだろう……!コイツの一言から始まった海外への異動。 国内にいる友人と数年別れなければならなくなったのだ。
 しかも、海外へ一人でだ。
 そう思えば思うほど、私の中で生まれた【黒い何か】が、濃くなっていき、理性では抑えきれない程溢れてくる一方だ。

 自分でも、分かる。この感情は!

 自分でも抑えきれない湧き上がってくる殺気が周りの空気を痛めつけて、
  ーー ピシ……ピシ…ッッ!! ーー
と悲鳴をあげさせる。
 鎮めなきゃいけないのに止まらない感情……。
「やっと…………。
ちゃんと、僕だけを見てくれましたね。耀さん」
 先程より、無邪気な少年のように心底嬉しそうな笑顔で、一筋涙をする相手。
 スッ……と目の前に差し出された彼の小さな手鏡に驚愕する。
 そこに映し出されたのは、感情のまま理性のカケラなんて一粒も残っていない有機物がいた。闘争心と殺意が入り混じった恨みの表情の女が一人。
 プライベートモードの私が、そこにいたのだ。
 目の当たりにし直ぐに、ビジネスモードに戻る。
 こんな、失態を犯すとは情けないが反省会は後だ!簡単な挨拶をしてその場を去る事に切り替えた。

「……私、そろそろ行かないと。それじゃ、元気でね。
ご兄弟の皆んなに宜しくお伝え下さい。」

「……………〈また〉ですか、ソレ……。
まぁ……、良いですよ今回は。とりあえず。それじゃ、また」

 先程から意味の分からない事を返答する相手に不思議に思ったが、一秒でも早く立ち去りたかった私は大人の対応でこの場を去った。
 この件は三年後になった今でも、ーーその意味が分からないままだ。


◇◇◇

 十二支の一文字が入っている【厄除師】は、十二支の末裔である。
 例えば、
 丑→丑崎 猿→猿堂 羊→羊谷
など……厄除師の中では名家であり、本家である。その下には各分家が枝分かれのように広まっている。
 これは、世間では知られてはいけないルール。
 昔からの約束事。何故なら……、彼らは、世間の空想物語で言う《 異能者 》だからだ。
 それは十二支家系、全員ができるというわけでは無い。
 糸引き飴のように当たりとハズレがある。
 耀は、生まれた時から偶然受け継いでしまった。ただ、それだけだ。
 彼らは、裏の業務でいう〈厄物処理厄祓い〉を業務委託で処理をしている。業務委託……という事は報酬額も内容によって変わってくる。
 よって、報酬額が高いシゴトの取り合いという事になるのだ。
 そうなると……、自分のところへシゴトが〈自然と〉回ってくるように、仕掛けてくる輩が出てくるのが世の中であって。
 それが、この結果である。
 今日までの出来事を現在、走馬灯のように駆け巡った記憶の中。
 再度耀の怒りのバロメーターが、ギュンッッッ!!と爆上がりをし、限界を超えて震えが出る。
 体内の血液が沸騰したように熱くなり、無意識に左手に握り拳が出来上がってしまう。
 爪が閉じられた掌の中に徐々に食い込み、終いにはヌルリとした感触が広がった。
 そこで、我に返る彼女。
 掌を広げると自分で作った傷口から、錆びた金物のような匂いがほのかに香る。各爪の先端に血液が付着してしまった現状。
 先日国内に帰国した時に、今日の為に気合い入れてネイルサロンで綺麗にして貰った爪が、台無しになってしまったのである。
(やッば……!打ち合わせ前に、ヤッてしまった……)

ーーとにかく、精神的に落ち着かせなくては……!

 周りには誰もいない、音も全く無い空間内。
 直ぐ横に空いているスペースがあるのを発見した彼女はニンマリと口元に弧を描く。
 そして、先程の傷口に《気》を集中させる。
 数秒後に、植物の種が一粒が小さく出てきた、ソレをアスファルトの地面へ静かに落とす。
 種が地面へ、ーカッツー……ン、と無機質な音を立てた瞬間、ソレはパキッ!と弾ける軽快な音に変わり罅割れた。

 ーー ビキッッッッ!!

 卵から雛が誕生するような乾いた音が響いた直後、無数の孔雀色の蔦が四方八方と勢いよく飛び出す。
 このままだと、コンクリートでできた古びた外壁を傷をつける流れになってしまう。かと思いきや、蔦はUターンし地面の真ん中一箇所に集まる。
 それぞれ一本ずつ意思があるかのように、シュルシュル……、と巻き戻しテープのような無機質な音を出しながら素早くバランスボールのような形に纏まる。
 最後に、静かになった孔雀色の蔦は見事な一人分が座れる、丸みのあるホールクッションに生まれ変わった。
 触ると肌触りが滑らかで程良い弾力だ。

「……うん!今回も完璧な仕上がりね。
ふぅ……!これに座って、心を落ち着かせよっかな……。
打ち合わせまで、まだ時間あるし♬」

 独り言を呟きながら、ゆっくりと腰を下ろし座る。
 慎ましい胸の谷間に忍ばせている植物のウツボカヅラを取り出し、親指と人差し指を静かに中に突っ込む。
 〈何か〉を探すように、掻き混ぜる仕草をする耀に合わせて、その植物から《ギィ……ギィ……》と鈍い金切り声が耳にこびりつく。
 そして、中から取り出したドリンクボトルの封を開ける。
 開けた瞬間に、香ばしい豆の香りが湯気と共に鼻腔を擽り無意識に目を細める。
 宿泊させて貰っている彼氏の家から淹れてきた、大好物の温かい黒豆茶に先程の殺意的な気持ちが解れて溶けるように消える。
 ボトル口に桜色の唇を合わせて一口含むと、黒豆の香りがふんわりと優しく広がった。後味の甘味がほんのりと残る。
 心が満たされ自然と柔らかい笑みが溢れる彼女。

 ーーこの静かで何も個性が無くなってしまった路地裏内にて。
 耀の周りの空気だけ、実家に帰ってきた時の穏やかな雰囲気に変わっていた。



◇◇◇

 私は、彼氏が淹れてくれた黒豆茶をゆっくりと味わいながら、再びふと思い出す。
 あの女の事を。


 数年前の、この時期。
 女子大学に通っていた私は、友人に恵まれていた。
「卒業したら、皆んな新生活で忙しくなるから冬休みに行かない?」
という話しになり、皆んなで計画を立てて京都に行く事になった。
 当日、京都に到着した私達は初日に嵐山方面へ電車で向かった。電車から眺める景色は、真っ白な景色で太陽に光で反射した雪達は別世界ではないかと思う程、幻想的で傷ついた心が洗われるくらい綺麗だった。
 駅へ到着し、目的地へ行くまでに昔ながらの精肉店を通った時だ。
 女子高校生らしき会話が耳に入る。それに、口の中を頬張って美味しく食べている笑顔の彼女達が視界に入った。

「このコロッケ、数量限定の幻のじゃがいもを使ってるんだってね!私達、お寺へ行く途中で偶然通りかかったけどラッキーだったね!!」


(………数量限定のじゃがいもを使った……コロッケッッ!!?)


 その魔法の言葉が私の食欲の湧き水をより多く湧いてしまった瞬間である。
 「ただいま、数量限定のじゃがいもを使ったコロッケが、あと一つで終了しまーす!」
 離れた場所からテイクアウト用のコロッケを作っている活気のある女性スタッフ声。それを聞いた私は、無意識にダッシュをしていた。
 後ろから「ちょっと!どこに行くの!?耀!!」という友人の声が聞こえたが、それどころでは無かった。
 走って!
 走って!!ーー走ったッッッッ!!
 あと少し……。今誰もいないブースに、やっとの思いで辿り着ける。
 心の中で、力強くガッツポーズした!

「コロッケのお買い上げ、ありがとうございまーす!」

「ありがとうございますぅ~♬
いやー!最後の一個食べられるなんて、あたしってラッキー♪」



………………………は?

……え?


……ハァァァぁぁぁァァァぁぁぁあああッッッ!!?



 目の前に突然と現れたショートカットの後ろ姿の女。
 背丈は、中肉中背の外見で後ろからだと何も特徴は無い。一言で言うなら無害モブだ。
 でも何故だろうか……。この媚び売るような甘ったるいソプラノ調の声は癪に障る。
 横入りして、最後の戦利品を奪った目の前の女に何もできず、呆然としていた私に相手はこちらを振り返った。
 すると、薄紫色の三白眼の瞳孔が見開き驚愕をしている顔をするではないか。
 右半分だけの前下がりボブヘアーがさらりと揺れ、お互いの時が止まった。
 唖然としてしまったのだ。まさかの出来事に。

(…………【犬塚 咲(いぬづか さき)】ッッッ!!!?)

 ここで十二支の関連の人に会うとは誰が思うものだろうか!
 コイツとは、昔馴染みだがソリが合わないのだ。でも、相手にしなければ無害に等しい。そんな考えを露知らずの相手は。
「ごッッめんね~~!最後の一個を買っちゃって☆
でもぉ、。耀ちゃん」

 うん。前言撤回。
 コイツ、有害だわ。マジで殺そッ。主にメンタル面を。

 悪びれる様子が無いどころかウインクしてくる三白眼女。
 コイツの頰のそばかすがチャームポイントとか世の中の野郎は言うが、今すぐに眼科行ってこいよ!と言いたくなる。
 寧ろこの状況で、かわい子ぶりっこしてて見てて疲れる。脳みそに虫でも湧いてんじゃないの?と軽蔑の目で見たくなくても見てしまう。
 そんな考えをしている間に、この女は言いたい事を言って満足したのか何事を無かったように言葉を続ける。

「耀ちゃん、なんだかごめんねぇ~。
あ!ほら、他のメニューがあるよ?」

「ん~!コレ美味しーぃ♡買って正解だわぁ。
話し分かってくれてありがと!耀ちゃん。やっぱ、私達【親友】だね!!」

(親友じゃねぇーよッッッ!!何を言ってんの!?コイツッッ!!)

 そして悪気なく目の前で無邪気に食べ始める駄犬女。
 見るに見かねたスタッフも、気を使って言葉にする。
「あの……、こちらのお友達さん?の仰る通りに他にもございますので……いかがでしょうかね?」
 怒りを通り越して、言葉が出ないとはこの事だ。
 しかも、こんな媚び売り駄犬と勝手に【お友達認定】をされてしまった屈辱感が重くのし掛かる。

 ダメだ……!その先は私のメンタル面が危ういから、もう思い出したくない!!
 悪夢の思い出話しは、ここまでにして。
 今から今回の目的場所へ行こうと私は静かに立ち上がった。


◇◇◇


「よく来たね、耀。
悪かったね……イタリアから此処まで来てくれて。
疲れただろう、紅茶を飲んでゆっくりしていきなさい」

 ただいま、目的地である事務所のソファーに座っている最中。用意された温かい紅茶を口につけながら私は笑顔で社交辞令をする。

「とんでもない、社長。ちょうど、日本へ用事があったので大丈夫です!あの……、さっそくなんですが今回の《シゴト》の件のお話を……」

「うん、ちょっと待ってて貰って良いかな?、来るからね」

(……もう一人?……って事は、今回のシゴトは単独行動じゃないのッッッ!!?)

 社長の言葉から汲み取った内容を即座に分析した私は、(日本へ戻れるチャンスが……。)と内心落胆としていた。もちろん、表情は笑顔もといポーカーフェイスのままだ。
 そんなこちらの考えを読み取ったのか。

「大丈夫だよ。今回のシゴトは〈君のお友達〉と一緒だからね。安心なさい」

 穏やかな声色で丸みのある話し方をする社長に、私は何故そんな事を言うのか不思議に思った。質問をしようとしたその時。
「……あぁ、ほら。もうすぐ来るよ」
と遮られ、口から出かかった質問を飲み込む。
 同時に、背中に悪寒が走ったのだ。
 この部屋が寒い訳では無い。
 上手く言えないが……嫌な予感がする。と言う言葉が的確だろう。
 主に、私の真後ろにある事務所の玄関ドアからだ。
 しかも徐々に大きくなっていく、性格が滲み出ているヒール音。私様わたしさま専用のランウェイの如く、こちらを見な!と言わんばかりに近づいて来るのが分かるくらいに。
 そんな自己主張が強いヒール音が、止まった。
 年季の入った無機質な音が響く中、完全にドアが開かれる。


「社長、お久しぶりですぅ~~♪」


 その声を耳にした瞬間、落胆していた気持ちが更にドン底へ突き落とされる。
 この独特なイラつく喋り方と媚を売るような甘ったるいソプラノ調の声色。

「遅くなって、すみませーん。今回も宜しくお願いしますぅ~!」

 そんな相手は、私に気づいてないのか今だに猫撫で声を出したままだ。
「待ってたよ、咲。さぁ、こっちへおいで。
今日は、君のお友達も一緒だからね。こっち事は気にしなくて良いから、ゆっくり話しに華を咲かせてもかまわないからね」
 こちらの事情を知らない社長は、呑気に犬塚に伝えながらこちらへ誘導をする。
 だが、私の中で疑問が増えた。

ーー何故?社長は私と犬塚が友達だと思ったのだろう……?


「え?おと……もだち……ですか?」
ほら!犬塚も同じ事を思った。一緒にされたく無いが。そんな考えに没頭している中、隣に来たアイツ。
 お互いに時が止まった瞬間である。

「………ゲッ!下品羊」

 私にしか聴こえない低い声。絶望感が出ている表情と本性を見れて、心の中で大爆笑をしてやった。
 二度と顔を合わせたく無かったのは、私だけでは無かったようだ。まぁ……、とりあえず。

【お久しぶりね!私のお友達(仮)ライバルさん



 この後、社長から神龍時 宇宙のせいで〈お友達設定〉をされた事を聞かされた私達。この話しは別の機会に★
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