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プロローグ

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「初めまして、久しぶり、イヴ。さあ、俺と一緒に最高の旅をしよう!」

少年はそう言い放ち私の手を取った。私はイヴという名前ではないのだけれど。
 私は猫耳族の杏奈。弟の皐月と、おじさんの3人でこの村に住んでいた。しかし、狩りから帰ってきたら、村は燃え、何も何者も残っていなかった。
 燃えた村の中で私と少年は対峙している。
「悪いけど、誰かと間違ってない?」
私が答えると、少年は間違ってないと首を横に振る。
「君こそがイヴで、俺がずっと探していた。俺が君を間違うはずがないんだ」
「私はイヴという名ではないのだけれど。杏奈という名前で」
「おお、なんて可憐な名前なんだ。イヴ」
こいつは話が通じていないのか?
名乗ったのに、イヴと呼び続ける。そして、そろそろ手を離して欲しい。こんな所、過保護な皐月が見たら、怒るだろうなと考えた。
「だから、私は杏奈っていう名前なんだけど!」
声を大にして言ってやった。
「うんうん。イヴは、杏奈と呼んでほしいんだな。わかったよ、杏奈」
伝わったのか伝わってないのか、いやこれは伝わってない。イヴであることは、彼の中で決定事項らしい。私は呆れ果ててしまい、彼の手から自分の手を払った。
「私、急いでいるの。早くこの村から逃げないと。村を襲ったモンスターがいつやってくるかわからないから」
私はそう言って、地面に落ちた弓矢を拾った。彼から背中を見せないようにゆっくりと離れて、指をさしてやった。
「あなたも、命が惜しいなら、早く逃げることね」
「そうかそうか。それなら、一緒に行こう。いや、これからはずっと一緒だからね」
彼は、はははと笑い私の隣に付いた。
だから!話を聞けってば!
なんで一緒に行くの。あなたは誰なの。イヴって何?名前?もう何もかもがわからないし、村はモンスターに襲われたのであろう……家々は燃えているし、頭が混乱する。彼に言いたいことは山ほどあるが、とりあえず皐月と一緒に早く村から出ないと。
私は、この少年の問題を放っておいて、家に向かった皐月を迎えに行くことにした。
彼も一緒に。不本意だが。
その間にも彼は色々と話しかけてきた。
好きな物は何とか、誕生日はいつとか。今はどうでも良いし、答える義理もないので答えなかった。
「杏奈はシャイなんだね。まあ、もっと仲良くなったら、話してくれよ。時間はたっぷりあるしさ」
「あのさあ、やっぱり誰かと間違ってない?」
「間違ってないよ。杏奈。君こそが、俺の探していたイヴなんだよ」
「意味がわからない」
「そうか。意味がわからないのも無理ないね。こんな田舎じゃ、君の本質を誰も理解できない」
「悪かったわね。私の村は田舎で」
その言葉に、彼はハッとして、すまないと謝った。君の大切な村に申し訳ないと、付け足した。
「別にいいわよ。もう村はおしまい」
モンスターに焼かれて消える村は、この世に何百とあると聞いている。この村も同じ道を辿るだけ。防衛魔法もなく、防御設備も買えない田舎ではよくある事だ。悲しんではいけない。
 そろそろ家が見えてきた。皐月が呆然と立っている。
「姉さん!……と誰だ?」
家まで着いたのだ。皐月が、怪訝そうな顔でこちらを見ていた。
「やあやあやあ、俺はアキラ。君こそ誰だよ」
こいつの名前がようやくわかった。そういえば、散々人をイヴイヴイヴって言っておいて、名乗ってすらいなかった。皐月の言う通り誰なの?
「姉さん、こいつ誰なんだよ。怪しくないか。モンスターを手引きでもしたんじゃないのか」
「とんでもない!たまたま、イヴを探しに来て見てみたら、村が燃えていたんだよ」
「お前には聞いてねえよ。姉さん、こいつに何かされなかった?」
「大丈夫。少し話の通じない奴なだけ」
少しではないか。大分だ。
「皐月、家のもの何か残っていた?」
「いや、中には入れそうにないし、多分全部燃えてる。おじさんも……」
「そう。村の中もダメね。探してみたけれど、生きている人はいないわ」
私はため息をついた。おじさんも見当たらないのか。
幼い頃に両親をなくした私と皐月を育ててくれたおじさんは、死んでしまったのだろう。死体も何もわからないほど、燃えてしまったから。
「チィランおじさん……。ダメね。感傷に浸ってる場合ではないわ。皐月、村を出るわよ。早くしないと日が暮れる。今の時間からなら森の先の旅宿まで行けるわ」
「旅宿なら、ないぜ」
アキラが私の肩に手を乗せて、そう言った。
私と皐月がぽかんとしていると、続けた。
「俺が通った時には、燃え尽きてた。多分同じモンスターじゃないかな。生きてる奴もいなさそうだったし」
「そんな……!あそこは防衛魔法が!」
「こいつ嘘ついてるんじゃないか?信用できない」
「お前に信用されなくてもいいよ。杏奈、防衛魔法を破るモンスターもいるんだよ。旅宿の防衛魔法は簡素なものに見えたし、群れに襲われたらひとたまりもない」
肩に置いていた手を上へやり、手をヒラヒラと動かした。
「村を焼き尽くすほどのモンスターなんて、そうそういない。群れが来たんだよ」
「じゃあ、まだ近くにいたら!」
「姉さん!こいつの言うこと信じるのかよ」
「信じてるわけではないわ。でも、もし本当なら群れのモンスターから逃げないと」
群れのモンスターから、逃げ切れるのか?もう村の周りにいるのではないか?旅宿を襲ったモンスターと、村を襲ったモンスターが同じなら、生息域はかなり広い。1匹なら隠れてやり過ごしたり、狩ることは可能だとは思うけど。
「杏奈、一緒に行かないか?1人より2人。一緒に行けば怖くないさ。元よりそのつもりだったした」
「おい、今俺をカウントしなかっただろ。というか、怪しい奴と一緒に行動できるか!」
「お前、うるさいなあ。皐月……だっけ?俺は杏奈と一緒にいられれば、お前が着いてきても気にしないけど」
皐月とアキラがにらみ合っている。
「あー、もう、このアキラって男を信用するしないはどうでも良くて、何にしてもモンスターが近くにいる可能性は高いわ。日が暮れる前にどこか安全な所に行かないと。せめて、隠れられる森にいくとか」
2人はにらみ合いをやめて、お互い腕を組んで、そっぽを向いた。
アキラは私の方に向き直して、さすが杏奈は頭が切れるなと言っていた。
いや、あんたが私の何を知っているのよ。
私たち3人は、村を後にすることにした。弟の皐月と、よく分からない人間違いをしてるアキラと、私の3人で。
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