8 / 77
第8話 オーディン、登場する
しおりを挟む
「まさかね」
杏奈は応接室のソファに深く座り直した。
「ダメだったか?」
「ううん。私は伊吹を助けるって決めたし、付き合うよ」
俺は、その三を選んだ。面倒臭い人らしいが、すぐ会えるのなら、すぐ帰れる可能性も高まるだろうと考えた。
「じゃあ、早速呼びましょうか」
「呼ぶ?」
俺と杏奈が話している間、ノジャは呑気にハーブティーをおかわりしている。
杏奈はすくっと立ち上がり、手を前にかざした。
すると、手首のピンクの輪が光り始めた。
「ちびっ子オーディン召喚!」
カッと周りが光に包まれた。
「簡単に呼び出しおって」
杏奈がいる方から、しわがれた声がした。
光がおさまると、杏奈の手の上に、ぬいぐるみのようなものが立っていた。ぬいぐるみにしては、気味が悪いが。
オレンジ色の一つ目、瞳孔はぐるぐると渦を巻いている。鼻はなく、唇もない。唇があったであろう所に歯茎とギザギザしたすきっ歯が見えた。頭は禿げていて、全体的に真っ白な肌だった。
元は真っ白な服だったのだろう。黄ばんだ白いマントを体に巻き付けている。腕は棒のようで、右に三本、左にも三本生えている。腕はあるが、手がない。足も棒のようで、足の甲や足の指は見当たらなかった。
面倒臭いやつ、と杏奈は形容していたが、面倒臭いというより気味が悪いがピッタリ合う。
「オーディン。聞いてほしいことがあるの」
「興味ないな」
「そう言わないで!」
オーディンと呼ばれたぬいぐるみの背から、白い羽の翼が生えてきた。オーディンは宙に浮かび、杏奈の手から離れた。
ギョロっとした目で俺とノジャを見てから、にたぁっと口に弧を描いて笑った。
「吾輩、暇ではないのでな。他所を当たれ」
「話だけでも聞きなさいよ」
俺は置いてけぼりをくらっている。これは……何なんだ? ぬいぐるみが喋るわけはないし、だとしても人間にも見えない。
「えっと、杏奈。この人は」
「あ! こいつは、オーディン。目玉だけで、本体は別の所にあるの。それで……神様」
「神様!」
俺は神様に向かって、気味が悪いって思ってしまったのか。神様って、こんな感じなのか。
「吾輩はオーディンだ。異世界の放浪者には興味はもう特にない」
俺はツッコミを入れそうになって、やめた。神様に逆らう訳にはいかない。
「いつもは食いついていたじゃない」
杏奈はムッとむくれて、オーディン様を指さした。
「杏奈。神様なんだろ。もっと丁重に扱った方がいいんじゃないか?」
「良いのよ。神って言っても、人間と大して変わらないわよ。ね、オーディン」
「他の神はな。吾輩まで一緒にするな」
オーディン様は浮きながら、ノジャの方に寄って行った。
「何なのじゃ」
ノジャはオーディン様を睨みつける。そんな不敬なことしないでくれよ!
「何でもないが? 杏奈。用はこれだけなら、帰るぞ」
「ちょっと待ってよ! 話くらい聞きなさいよ」
「では、一年」
オーディンは右腕を一本だけ上げた。
「一年、吾輩の命令をずっと聞く。どうだ?」
「はあ?」
杏奈は眉間に皺を寄せた。
オーディン様は楽しげに笑う。むき出しの歯茎が震えている。
「駒になってくれると助かるんだがなあ」
「嫌だけど」
「それなら、帰るぞ」
「待って、待って!」
杏奈はオーディン様の胴体を丸ごと掴んだ。
「ギルドの者も巻き込んで良いぞ。お前にその権利はないだろうが」
「ううっ。他の条件にしてよ」
「なし、だ」
オーディン様がそう言うと、杏奈の手をするりと抜けて、消えてしまった。
「あー!……ダメだったか」
杏奈は俺の方を向いた。
「ごめん。伊吹」
「いや、いいよ。杏奈が一年も命令を聞くことになったら、悪いしさ」
「そう言ってくれて、ありがとう」
杏奈は応接室のソファに深く座り直した。
「ダメだったか?」
「ううん。私は伊吹を助けるって決めたし、付き合うよ」
俺は、その三を選んだ。面倒臭い人らしいが、すぐ会えるのなら、すぐ帰れる可能性も高まるだろうと考えた。
「じゃあ、早速呼びましょうか」
「呼ぶ?」
俺と杏奈が話している間、ノジャは呑気にハーブティーをおかわりしている。
杏奈はすくっと立ち上がり、手を前にかざした。
すると、手首のピンクの輪が光り始めた。
「ちびっ子オーディン召喚!」
カッと周りが光に包まれた。
「簡単に呼び出しおって」
杏奈がいる方から、しわがれた声がした。
光がおさまると、杏奈の手の上に、ぬいぐるみのようなものが立っていた。ぬいぐるみにしては、気味が悪いが。
オレンジ色の一つ目、瞳孔はぐるぐると渦を巻いている。鼻はなく、唇もない。唇があったであろう所に歯茎とギザギザしたすきっ歯が見えた。頭は禿げていて、全体的に真っ白な肌だった。
元は真っ白な服だったのだろう。黄ばんだ白いマントを体に巻き付けている。腕は棒のようで、右に三本、左にも三本生えている。腕はあるが、手がない。足も棒のようで、足の甲や足の指は見当たらなかった。
面倒臭いやつ、と杏奈は形容していたが、面倒臭いというより気味が悪いがピッタリ合う。
「オーディン。聞いてほしいことがあるの」
「興味ないな」
「そう言わないで!」
オーディンと呼ばれたぬいぐるみの背から、白い羽の翼が生えてきた。オーディンは宙に浮かび、杏奈の手から離れた。
ギョロっとした目で俺とノジャを見てから、にたぁっと口に弧を描いて笑った。
「吾輩、暇ではないのでな。他所を当たれ」
「話だけでも聞きなさいよ」
俺は置いてけぼりをくらっている。これは……何なんだ? ぬいぐるみが喋るわけはないし、だとしても人間にも見えない。
「えっと、杏奈。この人は」
「あ! こいつは、オーディン。目玉だけで、本体は別の所にあるの。それで……神様」
「神様!」
俺は神様に向かって、気味が悪いって思ってしまったのか。神様って、こんな感じなのか。
「吾輩はオーディンだ。異世界の放浪者には興味はもう特にない」
俺はツッコミを入れそうになって、やめた。神様に逆らう訳にはいかない。
「いつもは食いついていたじゃない」
杏奈はムッとむくれて、オーディン様を指さした。
「杏奈。神様なんだろ。もっと丁重に扱った方がいいんじゃないか?」
「良いのよ。神って言っても、人間と大して変わらないわよ。ね、オーディン」
「他の神はな。吾輩まで一緒にするな」
オーディン様は浮きながら、ノジャの方に寄って行った。
「何なのじゃ」
ノジャはオーディン様を睨みつける。そんな不敬なことしないでくれよ!
「何でもないが? 杏奈。用はこれだけなら、帰るぞ」
「ちょっと待ってよ! 話くらい聞きなさいよ」
「では、一年」
オーディンは右腕を一本だけ上げた。
「一年、吾輩の命令をずっと聞く。どうだ?」
「はあ?」
杏奈は眉間に皺を寄せた。
オーディン様は楽しげに笑う。むき出しの歯茎が震えている。
「駒になってくれると助かるんだがなあ」
「嫌だけど」
「それなら、帰るぞ」
「待って、待って!」
杏奈はオーディン様の胴体を丸ごと掴んだ。
「ギルドの者も巻き込んで良いぞ。お前にその権利はないだろうが」
「ううっ。他の条件にしてよ」
「なし、だ」
オーディン様がそう言うと、杏奈の手をするりと抜けて、消えてしまった。
「あー!……ダメだったか」
杏奈は俺の方を向いた。
「ごめん。伊吹」
「いや、いいよ。杏奈が一年も命令を聞くことになったら、悪いしさ」
「そう言ってくれて、ありがとう」
0
あなたにおすすめの小説
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?
くまの香
ファンタジー
いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
氷弾の魔術師
カタナヅキ
ファンタジー
――上級魔法なんか必要ない、下級魔法一つだけで魔導士を目指す少年の物語――
平民でありながら魔法が扱う才能がある事が判明した少年「コオリ」は魔法学園に入学する事が決まった。彼の国では魔法の適性がある人間は魔法学園に入学する決まりがあり、急遽コオリは魔法学園が存在する王都へ向かう事になった。しかし、王都に辿り着く前に彼は自分と同世代の魔術師と比べて圧倒的に魔力量が少ない事が発覚した。
しかし、魔力が少ないからこそ利点がある事を知ったコオリは決意した。他の者は一日でも早く上級魔法の習得に励む中、コオリは自分が扱える下級魔法だけを極め、一流の魔術師の証である「魔導士」の称号を得る事を誓う。そして他の魔術師は少年が強くなる事で気づかされていく。魔力が少ないというのは欠点とは限らず、むしろ優れた才能になり得る事を――
※旧作「下級魔導士と呼ばれた少年」のリメイクとなりますが、設定と物語の内容が大きく変わります。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
『辺境伯一家の領地繁栄記』スキル育成記~最強双子、成長中~
鈴白理人
ファンタジー
ラザナキア王国の国民は【スキルツリー】という女神の加護を持つ。
そんな国の北に住むアクアオッジ辺境伯一家も例外ではなく、父は【掴みスキル】母は【育成スキル】の持ち主。
母のスキルのせいか、一家の子供たちは生まれたころから、派生スキルがポコポコ枝分かれし、スキルレベルもぐんぐん上がっていった。
双子で生まれた末っ子、兄のウィルフレッドの【精霊スキル】、妹のメリルの【魔法スキル】も例外なくレベルアップし、十五歳となった今、学園入学の秒読み段階を迎えていた──
前作→『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる