悪役転生〜主人公に全てを奪われて追放される踏み台悪役貴族に転生した〜

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廊下にて

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 ミリアムを引き連れて、俺は廊下を歩いた。
 公爵邸の廊下は、相変わらず威厳に満ちていた。
 磨き上げられた大理石の床の上には、深紅の絨毯がまっすぐに敷かれている。
 まるで血の川だ。
 実際に血が流れたとしても、この色なら目立たないだろう。
 天井は高く、二階分はあるだろうか。壁には金の額縁に収められた絵画が飾られていた。
 朝日が差し込む窓ガラスは磨き上げられ、俺の麗しき顔が映るほどに澄んでいた。
 今朝もいい顔だ。

「いいかミリアムよ。これから俺の格好いいところを見せてやる。しっかりと、その目に焼き付けておくんだぞ?」

 少し遅れて歩くミリアムにそう告げる。
 汚名というのは常に返上されなければならない。
 名誉というのは常に回復されなければならない。
 自ら犯した失態は、自らの行動によって晴らす——それが俺のポリシーだ。
 彼女もきっと、そんな俺に期待しているのだろう。

「あ、はい……そうですね……」
(——この人、朝から何を言ってるんだろう——)

 ミリアムの胸の奥に広がっているのは圧倒的なだった。
 昨日の惨敗を思い出すだけで胃が痛かった。
 彼女の主人と言える少年は今はすこぶる機嫌が良い。
 だからこそ逆に怖かった。
 まるで嵐のような静けさ。

——昨日までの俺のイメージは悪かった。

 積み重ねた行動の結果とも言える。
 正確に言えば、積み重ねたのは、俺ではないとも言えるが。
 このままでは悪役という不名誉な称号を押し付けられる未来が待っているのだ。
 そんな事を考えていると、向こうから歩いてくるメイドが、俺に会釈してきた。
 見知った顔のメイドだ。
 ミリアムもそうだが、この世界のメイドというのは皆、見目が麗しいのか、貴族というのが美しいメイドを揃えたがるのだろうか。

 だが、それは俺の顔が整いすぎている事に比べれば些細な問題だった。

「おはようございます、レクス様」
「うむ。おはよう」

 俺は最高のキメ顔で返す。今までは無視していた。だが、挨拶は大切だ。

「———ッ!」

 そんな俺のキメ顔挨拶にメイドは目を見開いた。
 横を通り過ぎる時には振り返って俺の顔を見ていた。
 いい女というのは男を振り返らせると言う。
 それは、いい男というのも同様だ。
 当然の結果だ。

——さぁ、もう一押しするか……。

 イメージ回復のための最初の一歩ファースト・ステップはうまくいった。
 俺は廊下の向こうに、いつも挨拶をしてくる馴染みのメイドを発見した。ちょうどいい。

 人の評価というのは、第一印象で決まるという。
 正確には初対面ではない。
 だが、第一印象が肝心だ。生まれ変わった俺の株を一気に上げるチャンスだ。

「何かないか……ああ、そうだ……あれをやるか。ふふ」

 思考を巡らせていくうちにアイディアを思いつく。
 立ち止まった俺をミリアムが見上げていた。期待に満ち溢れた瞳だ。

「やるか……」

 俺は、注意深くタイミングを見計らう。

「……おはようございます、レクスさま……」 

 と、挨拶をしようとしたメイドに向かって、すれ違いざま、俺は一気に距離を詰め、右手を壁に叩きつけた。

 ドンッ——!

 鈍い音が公爵邸の廊下に響く。

「ああ、おはよう」

 そして、続け様の最高のキメ顔スマイルでの挨拶。

「———ッ!」

 メイドは一瞬、目を見開くとまるで石像のように固まった。

 ――決まった。

 壁ドン――。
 それは、鈴木守の世界に置いて、一躍ブームさえ引き起こした行為だ。
 男からすれば理解するのが非常に非常に困難な事だ。
 しかし、巷の女性たちは、容姿の良い男性、即ちイケメンから、壁ドンをされる事にときめいてしまうらしい。
 壁ドンカフェなる金銭を払ってまで壁ドンをやってもらいたがる女性も存在したらしい。

 ――そう、つまり容姿の良い男性。すなわちイケメンの俺から壁ドンをされる事は、女にとっての喜び。

 俺は異世界の知識をすぐさま行動に移した。

「な……(な、何やってるのこの人……!?)」

 ミリアムもあんぐりと口を開いて見ている。

「どうだ?」

 俺はすかさずメイドに問いかける。

「えっ……あ、は、はい?」
「俺は良かったのかと聞いてる」
「えっ……あ、は、はい?」
「なるほどな」
「「……」」
「ああ、すまんな。邪魔をした。行っていいぞ」

 俺がメイドにそう告げるが、彼女はしばらく固まったまま俺の事を見ていた。
 横を通り過ぎる時には、彼女の視線は俺に釘付けになっていた。

「やはり、女というのは世界が変わっても同じということか」
(何言ってるのこの人)

 それはミリアムも同様のようだった。
 先ほどから、彼女の視線も釘付けにしてしまっていた。
 確認は取れた。法則性も見つかった。
 だから俺は止まらない。

 勢いに乗った俺は廊下ですれ違うメイド全員に――

 ドンッ!
 ドンッ!
 ドンッ!

 三連続。
 俺は壁ドンのハット・トリックを決めた。
 一人は「きゃあ」と悲鳴を上げて叫び、一人は失神してしまったようだ。
 些か俺の壁ドンは刺激が強すぎるらしい。

「ふっ……ああそうか。ミリアムよ、今のはと言ってな。女というものは俺のようなイケメンにあれをされると心がときめいてしまうらしい。たまには、俺はみんなの労をねぎらってやらねばと思ってな」

 ミリアムにそう説明する。

「は、はぁ……?」
「なんだ……お前もして欲しいか?」
「い、いえ! 大丈夫です!!」

 俺の申し出にミリアムは少しだけ恐縮した様子だった。
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