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張り合うように
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ローランは拳を握り締め、わなわなと声を震わせる。
「……なんでそんな酷いことが出来るんだ……?」
「酷いこと?」
俺は肩を竦めて笑った。
「ああ、そうだ」
「話の邪魔をされたくないだけさ。後で外してやる。――それより、少し落ち着け」
「落ち着けるわけないだろッ!」
その怒声が、まるで刃のように路地を切り裂く。
ローランの中で燃えているのは、正義感か、それとも怒りか。
「俺はただ、このサーシャを連れて帰りたいだけだ。何、悪いようにはしない」
「——勝手なこと言うなッ! 僕が、見過ごせるわけないだろッ!」
「……面倒な奴だな」
思わず小さく笑いが漏れた。
――そういえば、こいつはいつだってこうだった。
困っている人間を放っておけず、誰かの涙一つで命を懸ける。
まっすぐで、正しくて、そして、どこまでも愚かだ。
大嫌いで——でも嫌いになりきれなくて、
そして——賞賛に値する主人公。
「いいから、その子を離せよッ! まずはそれからだ!」
「断る。逃げられても面倒だからな——」
俺は冷たく答える。
何故だろう、イラつく。
心がざわめいて落ち着かない。
こんなのは、いつもは冷静沈着な俺らしくない。
自分が自分じゃないみたいだ。
「——それに、なぜ俺が、お前の命令に従わなければならない? 俺に命じられるのはこの世界で俺一人だ」
「いいから、離してやれッ!」
「……サーシャもどうせ直ぐに俺に俺の良さを知って、尻尾を振るだろうさ。抵抗するのは今だけ。結果的には全て良い方向に行くんだ……」
(——こいつ——)
ローランの胸の奥で、ひとつの感情が静かにうねった。
言葉にすれば――嫌悪。
博愛主義者の彼が、感じたことのないドス黒い感情が湧き上がる。
まるで、世界が目の前の少年を敵だと教えているような気さえした。
「君は間違ってるよ——!」
ローランの声が震える。
その声に、俺の中の何かが微かに歪む。
「間違ってる、か……」
何故張り合ってしまうのだろうか、ここでコイツと敵対することになんのメリットも合理性もない。
なのに、
「生意気だぞローラン。主人公だからといって調子に乗るな」
「主人公……何を言ってるんだ……?」
「ふん。いや、こっちの話だ」
サーシャが小さく身じろぎした。
潤んだ瞳がこちらを見上げている。
その視線に、ほんの一瞬だけ――俺の中の何かが軋んだ。
「ふざけるなよ——ッ!」
「……今のお前と話しても無駄なようだな」
そう言って、俺はサーシャの方へ視線を戻した。
「悪いが、サーシャは連れて帰らせてもらう」
「待てよ——ッ!」
背を向けた俺に向かってローランが叫ぶ。
その時。
「……た、たすけてッ! た、たすけて、ローランさんッ!」
サーシャは拘束魔術の一部を外し、叫び声をあげた。
例え一部といえ、俺の拘束魔術を外すとは、彼女がそれほど優秀なのか、それは彼女の強い生存本能が見せた技か。
「……大丈夫ッ! 待ってて! 絶対に僕が君を助けてみせるから!」
「助けるか……そうか、お前がこいつを助けるというのか……」
サーシャの悲痛な叫びは、ローランの心に響いたようだ。
思わず滑稽そうに笑う。
何故なら、このサーシャというキャラクターは【ブレイヴ・ヒストリア】の世界において、ローランを庇い死亡するキャラクターだった。
彼女はローランのパーティーに加入する四人目の仲間だった。
サーシャの初登場時、自暴自棄にローラン一行を襲う。
そこをローラン達に捕まり、諭され、結果的にローランのパーティに加入するのだが。
最終局面においてローランを庇うために、彼をかばい命を落とす不遇キャラクターだった。
「(気にしないで……私は、ずっと死に場所が欲しかった……ようやく私の番がきた。やっと皆のところへ行ける)」
そう言って満足したように、安らかに息を引き取るのだ。
恐らくは、先ほど逃げていったサーシャの仲間達は、ストーリー開始前に全て死亡している。
想像に難くないことだった。
先程のように、全体を生かすために一部を切り捨てる。
そんな仲間の自己犠牲によってサーシャだけが生き残った。
自分だけが生き残った罪悪感に縛られ続けたサーシャは、最後に自分を犠牲にして他者を救うことによって罪悪感から解放されたかったのだろう。
「今のお前と話すだけ無駄なようだな。……どうせお前にサーシャは救えない。悪いが俺が連れて帰らせてもらう……」
「……やるしかないか…?」
ローランは腰の剣に手を伸ばす。
「……なんだやるのか?」
「君が、その子を放す気が無いなら……」
苦々しい顔のローラン。
「……俺に勝てると思ってるのか?」
「ずいぶん、自信があるみたいだけど、言っておくけど僕は強いよ。それに僕は剣を持っている、君は丸腰だ」
剣の柄を触るローラン。
「……そんなのハンデにすらならんぞ? 喧嘩を売るなら相手を選ぶことだな」
「た、助けてッ! ろ、ローランさんッ! この人に連れていかれたら……私ッ! 私ッ! か、体で……ッ!」
発言を遮り、悲痛な叫びをあげるサーシャ。
「……最後だ……本当にその子を放す気はないと?」
剣を抜くローラン。
「だから、なぜお前の指図に俺が従わなければならん? どうせお前は何もできやしないさ」
「……仕方がない。僕が、君を倒してその子を救う……」
「……仕方がない。お前が、俺の邪魔立てするなら……」
この世界の主人公と、悪役貴族。
最初の戦いが、静かに幕を開ける。
「……なんでそんな酷いことが出来るんだ……?」
「酷いこと?」
俺は肩を竦めて笑った。
「ああ、そうだ」
「話の邪魔をされたくないだけさ。後で外してやる。――それより、少し落ち着け」
「落ち着けるわけないだろッ!」
その怒声が、まるで刃のように路地を切り裂く。
ローランの中で燃えているのは、正義感か、それとも怒りか。
「俺はただ、このサーシャを連れて帰りたいだけだ。何、悪いようにはしない」
「——勝手なこと言うなッ! 僕が、見過ごせるわけないだろッ!」
「……面倒な奴だな」
思わず小さく笑いが漏れた。
――そういえば、こいつはいつだってこうだった。
困っている人間を放っておけず、誰かの涙一つで命を懸ける。
まっすぐで、正しくて、そして、どこまでも愚かだ。
大嫌いで——でも嫌いになりきれなくて、
そして——賞賛に値する主人公。
「いいから、その子を離せよッ! まずはそれからだ!」
「断る。逃げられても面倒だからな——」
俺は冷たく答える。
何故だろう、イラつく。
心がざわめいて落ち着かない。
こんなのは、いつもは冷静沈着な俺らしくない。
自分が自分じゃないみたいだ。
「——それに、なぜ俺が、お前の命令に従わなければならない? 俺に命じられるのはこの世界で俺一人だ」
「いいから、離してやれッ!」
「……サーシャもどうせ直ぐに俺に俺の良さを知って、尻尾を振るだろうさ。抵抗するのは今だけ。結果的には全て良い方向に行くんだ……」
(——こいつ——)
ローランの胸の奥で、ひとつの感情が静かにうねった。
言葉にすれば――嫌悪。
博愛主義者の彼が、感じたことのないドス黒い感情が湧き上がる。
まるで、世界が目の前の少年を敵だと教えているような気さえした。
「君は間違ってるよ——!」
ローランの声が震える。
その声に、俺の中の何かが微かに歪む。
「間違ってる、か……」
何故張り合ってしまうのだろうか、ここでコイツと敵対することになんのメリットも合理性もない。
なのに、
「生意気だぞローラン。主人公だからといって調子に乗るな」
「主人公……何を言ってるんだ……?」
「ふん。いや、こっちの話だ」
サーシャが小さく身じろぎした。
潤んだ瞳がこちらを見上げている。
その視線に、ほんの一瞬だけ――俺の中の何かが軋んだ。
「ふざけるなよ——ッ!」
「……今のお前と話しても無駄なようだな」
そう言って、俺はサーシャの方へ視線を戻した。
「悪いが、サーシャは連れて帰らせてもらう」
「待てよ——ッ!」
背を向けた俺に向かってローランが叫ぶ。
その時。
「……た、たすけてッ! た、たすけて、ローランさんッ!」
サーシャは拘束魔術の一部を外し、叫び声をあげた。
例え一部といえ、俺の拘束魔術を外すとは、彼女がそれほど優秀なのか、それは彼女の強い生存本能が見せた技か。
「……大丈夫ッ! 待ってて! 絶対に僕が君を助けてみせるから!」
「助けるか……そうか、お前がこいつを助けるというのか……」
サーシャの悲痛な叫びは、ローランの心に響いたようだ。
思わず滑稽そうに笑う。
何故なら、このサーシャというキャラクターは【ブレイヴ・ヒストリア】の世界において、ローランを庇い死亡するキャラクターだった。
彼女はローランのパーティーに加入する四人目の仲間だった。
サーシャの初登場時、自暴自棄にローラン一行を襲う。
そこをローラン達に捕まり、諭され、結果的にローランのパーティに加入するのだが。
最終局面においてローランを庇うために、彼をかばい命を落とす不遇キャラクターだった。
「(気にしないで……私は、ずっと死に場所が欲しかった……ようやく私の番がきた。やっと皆のところへ行ける)」
そう言って満足したように、安らかに息を引き取るのだ。
恐らくは、先ほど逃げていったサーシャの仲間達は、ストーリー開始前に全て死亡している。
想像に難くないことだった。
先程のように、全体を生かすために一部を切り捨てる。
そんな仲間の自己犠牲によってサーシャだけが生き残った。
自分だけが生き残った罪悪感に縛られ続けたサーシャは、最後に自分を犠牲にして他者を救うことによって罪悪感から解放されたかったのだろう。
「今のお前と話すだけ無駄なようだな。……どうせお前にサーシャは救えない。悪いが俺が連れて帰らせてもらう……」
「……やるしかないか…?」
ローランは腰の剣に手を伸ばす。
「……なんだやるのか?」
「君が、その子を放す気が無いなら……」
苦々しい顔のローラン。
「……俺に勝てると思ってるのか?」
「ずいぶん、自信があるみたいだけど、言っておくけど僕は強いよ。それに僕は剣を持っている、君は丸腰だ」
剣の柄を触るローラン。
「……そんなのハンデにすらならんぞ? 喧嘩を売るなら相手を選ぶことだな」
「た、助けてッ! ろ、ローランさんッ! この人に連れていかれたら……私ッ! 私ッ! か、体で……ッ!」
発言を遮り、悲痛な叫びをあげるサーシャ。
「……最後だ……本当にその子を放す気はないと?」
剣を抜くローラン。
「だから、なぜお前の指図に俺が従わなければならん? どうせお前は何もできやしないさ」
「……仕方がない。僕が、君を倒してその子を救う……」
「……仕方がない。お前が、俺の邪魔立てするなら……」
この世界の主人公と、悪役貴族。
最初の戦いが、静かに幕を開ける。
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