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陰の努力
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「ふッ! ふッ!」
俺は剣を振る。
ひたすらに剣を振る。
馬車の中からアリシアが見ているのには気づいている。
――見ているな? 見ているな? 隠れた努力をしている、この俺の姿を見ているな……?
俺は、アリシアの前で、隠れた努力をしてますアピールをしたくなった。
さも、たいした努力なんてしていませんという風を装いながらも、影で必死に努力をしている姿、それは大変格好良いものである。
確かに、隠れた努力をしている姿は格好良い。
だが、しかし――隠れた努力だからこそ、通常では他人の目にはその努力をしている姿は見られない。
今こそ、この機会を逃す術はない。
練習や訓練の基本は反復練習だ。
幼い頃から教え込まれたサセックス家独自の剣術の型は体がしっかりと覚えている。
大して頭で考えなくても、無意識に型通りの動きが出来る。
だが、同じ動作を繰り返し反復したところで能力は向上するとは限らない。
これが、ゲームの世界であれば、反復的に延々と同じ魔物を倒し続けて経験値を稼ぎ、レベルを上げたり、スキルを習得して強くなるという事もできたであろう。
だが、ゲームの世界が現実となった今、同じ事を繰り返すだけの努力では成長の限界に達してしまう。
努力するにしても、その努力の有効性や効率性や、技術の応用方法を考えなければならない。
無意味な反復や、積み重ねは無駄な努力となってしまう事もある。
そこで必要となるのが、工夫だ。
レクスは、一つ一つの動作に、改善点を見つけて動作の改良を図っている。
レクス・サセックスとして今まで、使ってきた剣術をベースに鈴木守が用いていた古武術の動作を応用、融合していく。
この世界にも、前世の世界にも存在しない、新しい剣術を作り上げていると言って良い。
それは単に強いだけでは無く美しさも重視した剣術だ。
その創造性は芸術の領域にあると言っても良いだろう。
求めるのは、実用性と見栄えのバランス、即ち機能美だ。
――見ているか……。アリシア?
鍛錬を続けながら横目で馬車を見る。
さも視線には気づいていない風を装いながら。
しかし——
「……え? いない……」
窓際に彼女の姿は無い。
思わず剣を振るのを止めて、慌てて馬車へと向かう。
「……一体、アリシアはどうしてしまったのだ……。まさか、また攫われてしまったのか?」
不安になるレクスは急いで、馬車に向かい中を確認する。
「……ッ! ……寝ている……。もう寝てしまったのか……ッ!」
馬車の中でアリシアは既に、スヤスヤと穏やかな寝息を立てて既に眠っていた。
脅威的な寝付きの良さだ。
「……仕方あるまい。今日は色々あったしな……」
ギャラリーのいない事に多少の落胆を覚えつつも、安らかに眠るアリシアの顔を見て俺は訓練を再開する。
確かに、隠れて頑張ってる俺って格好良いでしょ? アピールは不完全燃焼だ。
――だが、彼女が起きた時に、一晩寝ずに頑張ってましたアピールを決める事はまだ出来る。
アリシアが起きた時に一晩中、物凄い頑張ってた感を出さなければならない。
馬車の窓から差し込む日差しにアリシアは目を覚ます。
爽やかな朝だ。
だが、目を開くとそこにあるのは、いつもの見慣れた自室天井ではなく、見慣れない天井。
「そうでした……。私攫われて……」
昨日あった出来事を思い出すと、なぜか不安な感情が湧き起こり、脳裏に浮かんだ人物を探す。
「……あの人は……?」
他人の香りがする寝具から、起きあがろうとする時に少しの痛みを感じた。
あの盗賊の男に襲われた時に、必死に抵抗したせいだろうか。
昨日の疲れもあってか、少し体も重かったが、元々寝起きが非常に良い。
窓の外を見ると、彼はまだ剣を振っているようだ。
「……こんな朝早くから……」
寝ぼけ眼でその姿を見ていると、アリシアは何故か少しの罪悪感を感じる。
「……あれは何……?」
視界と頭が、すっきりとしていく内に、アリシアは何かに気づいた。
あの少年は白い炎のようなものを体に纏って剣を振っているではないか。
「……一体どうなって……」
その現象は未だかつてアリシアが目にした事の無い魔術現象であった。
その白い炎は彼の髪も肌も服さえも焦がしてはいない。
「……あんな事が可能なのでしょうか?」
思わず目を見開きその光景に凝視する。
それは、まだ重い瞼をこじ開けようとしている、アリシアの眠気も吹き飛んでしまいそうな光景だった。
それは、この世界の魔術師の常識というものを根底から覆してしまうような光景だった。
その白い炎の美しさもさることながら、彼は剣振りながら同時にあの魔術現象を制御しているようだ。
その姿に、恐ろしい程の集中と、気迫。魔術制御能力を、感じ取る。
「あれは……。魔力回復薬でしょうか?」
彼の足元に散らばる膨大な量の容器から、その内容物がアリシアには分かった。
アリシアの実家は薬屋だ。
その容器の中身が何であるのかくらい瞬時に判別できた。
「……一晩中、ああやって……」
足元に転がる大量の容器から感じる努力の痕跡。
容器の数から感じられる無謀さと、そこに宿る狂気のような執念さえ感じる。
誰でも思いつきそうな訓練方法ではある。
だが、魔力回復薬は高額だ。
そして、潤沢な資金があったとしても、そこまでする人間がこの世界にどれほどいるのだろうか。
昨日の彼の言葉からは冷たささえ感じた。
だが、その言葉を他人に易々と吐けるほどに彼は恐らく努力を積み重ねてきたのだろう。
「……私も頑張らないといけませんね……」
当初の目的を忘れ、訓練に熱中し始めた男の姿は、ほんの少しだけ誰かの心を温かくした。
俺は剣を振る。
ひたすらに剣を振る。
馬車の中からアリシアが見ているのには気づいている。
――見ているな? 見ているな? 隠れた努力をしている、この俺の姿を見ているな……?
俺は、アリシアの前で、隠れた努力をしてますアピールをしたくなった。
さも、たいした努力なんてしていませんという風を装いながらも、影で必死に努力をしている姿、それは大変格好良いものである。
確かに、隠れた努力をしている姿は格好良い。
だが、しかし――隠れた努力だからこそ、通常では他人の目にはその努力をしている姿は見られない。
今こそ、この機会を逃す術はない。
練習や訓練の基本は反復練習だ。
幼い頃から教え込まれたサセックス家独自の剣術の型は体がしっかりと覚えている。
大して頭で考えなくても、無意識に型通りの動きが出来る。
だが、同じ動作を繰り返し反復したところで能力は向上するとは限らない。
これが、ゲームの世界であれば、反復的に延々と同じ魔物を倒し続けて経験値を稼ぎ、レベルを上げたり、スキルを習得して強くなるという事もできたであろう。
だが、ゲームの世界が現実となった今、同じ事を繰り返すだけの努力では成長の限界に達してしまう。
努力するにしても、その努力の有効性や効率性や、技術の応用方法を考えなければならない。
無意味な反復や、積み重ねは無駄な努力となってしまう事もある。
そこで必要となるのが、工夫だ。
レクスは、一つ一つの動作に、改善点を見つけて動作の改良を図っている。
レクス・サセックスとして今まで、使ってきた剣術をベースに鈴木守が用いていた古武術の動作を応用、融合していく。
この世界にも、前世の世界にも存在しない、新しい剣術を作り上げていると言って良い。
それは単に強いだけでは無く美しさも重視した剣術だ。
その創造性は芸術の領域にあると言っても良いだろう。
求めるのは、実用性と見栄えのバランス、即ち機能美だ。
――見ているか……。アリシア?
鍛錬を続けながら横目で馬車を見る。
さも視線には気づいていない風を装いながら。
しかし——
「……え? いない……」
窓際に彼女の姿は無い。
思わず剣を振るのを止めて、慌てて馬車へと向かう。
「……一体、アリシアはどうしてしまったのだ……。まさか、また攫われてしまったのか?」
不安になるレクスは急いで、馬車に向かい中を確認する。
「……ッ! ……寝ている……。もう寝てしまったのか……ッ!」
馬車の中でアリシアは既に、スヤスヤと穏やかな寝息を立てて既に眠っていた。
脅威的な寝付きの良さだ。
「……仕方あるまい。今日は色々あったしな……」
ギャラリーのいない事に多少の落胆を覚えつつも、安らかに眠るアリシアの顔を見て俺は訓練を再開する。
確かに、隠れて頑張ってる俺って格好良いでしょ? アピールは不完全燃焼だ。
――だが、彼女が起きた時に、一晩寝ずに頑張ってましたアピールを決める事はまだ出来る。
アリシアが起きた時に一晩中、物凄い頑張ってた感を出さなければならない。
馬車の窓から差し込む日差しにアリシアは目を覚ます。
爽やかな朝だ。
だが、目を開くとそこにあるのは、いつもの見慣れた自室天井ではなく、見慣れない天井。
「そうでした……。私攫われて……」
昨日あった出来事を思い出すと、なぜか不安な感情が湧き起こり、脳裏に浮かんだ人物を探す。
「……あの人は……?」
他人の香りがする寝具から、起きあがろうとする時に少しの痛みを感じた。
あの盗賊の男に襲われた時に、必死に抵抗したせいだろうか。
昨日の疲れもあってか、少し体も重かったが、元々寝起きが非常に良い。
窓の外を見ると、彼はまだ剣を振っているようだ。
「……こんな朝早くから……」
寝ぼけ眼でその姿を見ていると、アリシアは何故か少しの罪悪感を感じる。
「……あれは何……?」
視界と頭が、すっきりとしていく内に、アリシアは何かに気づいた。
あの少年は白い炎のようなものを体に纏って剣を振っているではないか。
「……一体どうなって……」
その現象は未だかつてアリシアが目にした事の無い魔術現象であった。
その白い炎は彼の髪も肌も服さえも焦がしてはいない。
「……あんな事が可能なのでしょうか?」
思わず目を見開きその光景に凝視する。
それは、まだ重い瞼をこじ開けようとしている、アリシアの眠気も吹き飛んでしまいそうな光景だった。
それは、この世界の魔術師の常識というものを根底から覆してしまうような光景だった。
その白い炎の美しさもさることながら、彼は剣振りながら同時にあの魔術現象を制御しているようだ。
その姿に、恐ろしい程の集中と、気迫。魔術制御能力を、感じ取る。
「あれは……。魔力回復薬でしょうか?」
彼の足元に散らばる膨大な量の容器から、その内容物がアリシアには分かった。
アリシアの実家は薬屋だ。
その容器の中身が何であるのかくらい瞬時に判別できた。
「……一晩中、ああやって……」
足元に転がる大量の容器から感じる努力の痕跡。
容器の数から感じられる無謀さと、そこに宿る狂気のような執念さえ感じる。
誰でも思いつきそうな訓練方法ではある。
だが、魔力回復薬は高額だ。
そして、潤沢な資金があったとしても、そこまでする人間がこの世界にどれほどいるのだろうか。
昨日の彼の言葉からは冷たささえ感じた。
だが、その言葉を他人に易々と吐けるほどに彼は恐らく努力を積み重ねてきたのだろう。
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