悪役転生〜主人公に全てを奪われて追放される踏み台悪役貴族に転生した〜

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修行の旅から

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「離れろおおおおおおおおおおおおおおぉぉッ!」

  声の方を振り返ると、そこには鬼のような形相で剣を振りかぶるローランの姿があった。

「ろ、ローラン……ッ!」
「離れろッ!!」

 アリシアの叫び声を切り裂くように、ローランは鋭い一太刀を振り下ろす。
 力任せに叩きつけるような太刀筋。
 
「危ないな」

 俺は紙一重で躱しながら後退する。
 ブンといういう鈍い音を立てて空ぶる斬撃。
 勢い余ったローランの剣の先は、ザクっという音を立てて地面を切り裂いた。

「……えッ!? どうして……ッ!?」

 少し抉られた地面と、二人の少年を見ながら、激しく動揺した様子のアリシア。
 ローランは、素早く体勢を整えると、幼馴染の少女の前に立ちふさがり、彼女を庇うかのように剣を構え吠える。

「貴様ぁああああああ……ッ!」

 その燃えるような赤い髪と、端正な顔は、薄汚れ、その服と、靴は浮浪者のように泥まみれだった。
 その瞳は血走り真っ赤に充血し、エメラルドの瞳から、頬を伝うように涙の跡が残っていた。
 

 時は遡り、アリシアが盗賊の男に誘拐されてしまった少し後。

「ふぅ……ようやく帰って来れた……」

 ローランは大きな荷物と剣を背負ってククル村へと帰ってきた。
  彼は今まで、父に連れられて、修行の旅に出ていた。
 あの日の路地裏での敗北以来ローランは成長を焦っていた。
 父リカルドに指導を頼んだが、彼も冒険者として忙しい身だ。
 毎日指導を続ける事は出来ない。

 そんな時、父から提案されたのは次の任務への同行。
 村から離れることには少しの抵抗もあった。
 他の高ランク冒険者達の指導を受けられるとあって、ローランもこの考えに賛同した。

「大変だったけど……」

 今回の冒険は非常に良い経験になった。
 天下のSランク冒険者にとっては容易なクエストも、冒険者登録も済ませていないローランにとってはそれなりに堪えるものがあったが、

「でも、僕は強くなった」

 旅先では魔術に長けた冒険者や、父のパーティーメンバーからの指導を受けた。
 魔物との実戦経験を積むのみでない、対人戦の経験も積むことが出来た。
 今回の旅は確かな成長を実感させるものであった。

「……もう二度と、僕の目の前で、あんな真似させない」

 あの日、目の前から少女を連れ去った、あの少女の事が頭から離れない。 
 その日のことを、思い返すだけで、ローランは怒りに震えた。
 しかし、それ以上にローランにとって気がかりだったのは、あの男の発言。

「アリシアをあいつの妾になんか……ッ! させないッ!」

 アリシアが自分以外の男と結ばれるなど、ローランには受け入れられるものではない。
 それが、単に貴族の側室や、愛人のような立ち位置でなくとも。

(……あいつからだけじゃない……。君を苦しめるものから全て……ッ! 僕が守ってやる)

 アリシアとは、幼い頃は良く一緒にいた。
 ローランには父親以外に家族はいなかった。
 彼はこの村の生まれではなかった。
 物心ついた頃にこの村にやってきたのだ。
 この狭い村社会。余所者に対して排他的な世界だ。
 村に来たばかりの頃は、ローランも色々と好奇な視線を向けられたものだった、他の子供達とも、打ち解けることができなかった。

 そんな彼に優しく声をかけてくれたのが、誰に対しても分け隔てなく接するアリシアだった。
 
 アリシアとローランは同じ師の元で一緒に魔術の勉強をしていた。
 二人に魔術を教えてくれた師は、ローランには人並外れた才能があると言っていた。
 だが、アリシアの才能はローランを遥かに凌ぐものだった。
 
 ローランは、いくら必死に努力してもアリシアに魔術で勝てる想像がつかなかった。

 だけど、アリシアは優しかった。
 以前は、今よりも少し気が強かったが、決して他人を見下さず、少し得意げではあったが、丁寧に魔術を教えてくれた。
 ローランはアリシアのことが大好きだった。
 背が伸びるにつれて、大人になるにつれて、好きの意味も変わっていく。
 気づけば胸が膨らみ、美しく成長していく少女のことを、少年は意識するようになった。

 気づけば、その視線はいつの彼女の姿を追っていた。

 魔術を教わる時間はローランにとって貴重な時間だった。
 アリシアの家に行けば彼女には会えるだろう、だが何故かそれは憚られた。
 意識し過ぎて、何故か彼女を避けてしまう時がある。

 だけど、いつも、ローランはアリシアの事ばかり考えていた。
 アリシアともっと話したい。
 どうやったら、自然にアリシアに話しかけられるのだろかと、考える毎日。

 どこか、もどかしい、だけど幸せな毎日。

 だが、そんなローランとアリシアとの距離はある日を境に開いていった。

 ある日、アリシアが高熱を出して倒れた。
 熱は一向に下がらずに、アリシアは生死の境を数週間彷徨った。
 幸いない事に熱は下がり快復はしたが。

 それ以降、アリシアは一切魔術が使えなくなった。

 何度もフラフラになりながら、時には倒れ村の医者の所に担がれながらも、アリシアは来る日も来る日も、魔術を使おうとした。

 だが、アリシアは魔術を使う事は二度ど出来なかった。

 アリシアが魔術を使えなくなり、師は村を去った。
 ローランはアリシアと魔術を学ぶ機会も無くなった。
 以前のような、明るく朗らか笑う少女の顔は無くなり、その表情にはいつも影が差すようになり、昔のようには喋らなくなった。

「もう時間が無い……」

 もう既に、あの男のような貴族がアリシアに目をつけ始めている。
 そんな彼女を守りたいという純粋な思いと、
 他の男に奪われたくないという独占欲、
 渦巻く、強い感情がローランを突き動かしていた。

 
 村の入り口から、獣道を歩き村の中心に向かってローランは歩いていく。
 久々に、アリシアの顔が見れる。
 そんな期待感から足取りは早くなるが、

「ロ、ローラン……」
「どうしたの皆集まって……」

 村の中央では、アリシアの両親や村の皆が集まっていた。
 アリシアの両親の顔は蒼白に染まっている。
 ただの井戸端会議のような雰囲気ではない。

「アリシアが……」

 皆が、深刻そうな顔をしている、

「……アリシアがどうかしたの?」
「……連れ去られてしまったらしいよ」
「えッ!?」

 思わず叫ぶローラン。

「盗賊みたいな二人組に連れて行かれたって……」
「……ほ、本当に……?」

 ローランの頭は真っ白になってしまう。

「ああ……あの子が攫われるところを見たって」
「ローランッ! お姉ちゃんが……ッ! お姉ちゃんが……ッ!」

 顔をくしゃくしゃにしたお下げの少女がローランに駆け寄る。

「本当に攫われたの?」
「うん……ッ! お姉ちゃんを……お姉ちゃんを……助けてッ!」
「嘘……」

 愕然とした表情のローラン。

「嘘じゃないよぉ……」

 泣きそうな少女は言葉を絞り出す。

(嫌だ! 嫌だ! 嫌だ! 嫌だ! 嫌だ! 嫌だ!)

 金槌で頭を殴られたような衝撃。
 受け入れられないような現実。

「リカルドも今はいないし……村の男の人達は……」

 戦う能力が殆どないことを、皆分かっている。

「……アリシアは……ッ! アリシアは……どこに連れて行かれたの……ッ!」

 ローランはお下げの少女の方に掴み掛かる。

「わ、わかんないよぉ……」
「そうだ、何か手がかりが……。何か手がかりが、どんな人達だった?」
「強そうな人? 体が大きくて。2人だったよ」

 少女の返答は曖昧で具体的な手がかりが掴めない。

「……どっちへ……? アリシアは……どっちへ連れていかれたの……ッ!?」
「あ、あっちの方かなぁ?」

 少女は、方向を指さす。

「………クソッ!」

 焦るローランは悪態をつくと、旅の荷物を放り出し、少女の指差す方へと駆け出した。
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