悪役転生〜主人公に全てを奪われて追放される踏み台悪役貴族に転生した〜

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再出発

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「ローランですか?」
「うん……久しぶり」
 
 振り返るとそこには幼馴染の少年がいた。
 ここ最近はずっと会っていなかった少年が。
 
「そうですね」

 アリシアは、思わず握りしめてしまった刃を下ろす。
 だが、何故か、警戒心を緩めきれなかった。
 思わず辺りを少しだけ見回してしまう。

「元気だった?」

 少し気恥ずかしそうに聞くローラン。

「おかげさまで」

 会釈をして返すアリシア。
 ここ最近歩いてきた道を考えると、簡単に元気だったとは言えないような日々ではあった。
 だが、それを彼にに言う事は何故か憚られた。

「そっか、良かった」
「はい」

 アリシアは少し気まずそうに返す。

「あの日、以来だね」
「そうですね」
「父さんがこの辺の盗賊のアジトをいくつか見つけて潰したらしいよ。アリシアが捕まってた場所かどうかはわからないけど……」
「私も、あそこが何処なのかわかりませんね」
「この辺は多分もう安全だろうってさ。だけど、一応父さんも、暫くは村にいてくれるらしい」
「リカルドさんがいてくれれば、村の皆もきっと安心しますね」
「なんか、色々あったけどさ、僕は……アリシアが無事に帰って来れて、本当に良かったと思うよ……」

 微笑むローラン。

「私も、一時はどうなることかと思いましたけど……」
「うん……」

 アリシアに同意するローラン。
 だが――。

「あの人が助けてくれましたから……」 
「……あの人?」
「はい、レクスさんに助けてもらいましたから」

 少し嬉しそうな顔で言うアリシア。
 その名前に、ローランはビクっと反応した――。

「あの人は悪い人ではないんですよ。ローラン。私にも凄く良くしてくれましたし……多少変わっていますが……、そういえば、あの服。私があの時着てた服だってあの人が作ったんですよ。私もあの時は……」

 思い出したように笑うアリシア。

(——アリシアはあいつに、騙されてるんだ——)

「……ローランは仲違いしているみたいなんですが……」

 少し顔色を伺うようにいうアリシア。

「あのさ……アリシア……」

 震えた声で言うローラン。

「はい?」
「僕がここに来たのはその事なんだけどね。
「はい」
「あの貴族の男の話……」
「レクスさんの事ですか?」

 ローランの様子の変化に戸惑うアリシア。

「アリシアはさ……あいつに騙されているんだよ」

 拳を握り締めて言うローラン。

「……そんな事無いですよ」

 少しの沈黙のあと、アリシアは返す。

「いいや……—ッ! アリシアはあいつに、騙されているんだよ……—ッ!」
「……そんな大声で、どうしたんですか……?」

 少し怯えた様子のアリシア。

「あいつは、悪い奴なんだ……—ッ!」
「……そんな事ないですよ。なんでローランは、あの人を悪者だと決めつけるんですか?」
「あいつは悪党なんだ……ッ! 倒さなきゃいけなかったんだ……ッ!」
「……あの人は悪い人じゃないですよ。盗賊の人に襲われていた私を助けてくれました」

 少し強い口調で反論するアリシア。

「あいつが、ただで人助けなんてするはずなんて無いッ! 盗賊に襲われたのだって、あいつがアリシアを騙すために企てた事に決まってるッ! 僕には分かってるんだ……ッ!」
「ローランはあの人を良く知らないだけですよ……この前も突然斬りかかって……」
「アイツは女の子を無理やりにさらったんだよ」
「……そ、そうなのかもしれませんが……。何か事情があったのかもしれません、その話をレクスさんに聞いてみないと私は何とも言えません」

 アリシアは、再びローランから告げられた事実に動揺を隠せない。

「何でだよアリシア……ッ!」
「何がですか?」
「何で……、何であんな奴を庇うんだよ……ッ! この前もあんなになってまで……ッ!」

 強く訴えかけるローラン。
 その表情を静かにアリシアは見つめて言う。

「……あの人だけでした」
「何が?」

 アリシアの話を聞くローラン。

「あの人だけが、言ってくれました。私に諦めるなって、お前ならできるって、自分を信じろって言ってくれたんですよ……」

 少し、目頭を熱くさせながら言うアリシア。

「あいつはそうやって人の心の弱みに付け込んでいるだけだよ……」

 呆れたように言うローラン。

「また昔みたいに魔術を使えるようになるって……そう言ってくれたんですよ……」
「そうやって耳障りの良い奇麗事を言って騙してるだけだ……ッ! あいつはそういう奴なんだよ……ッ!」

 少し泣きそうな声で喋るアリシアの言葉を受け入れないローラン。

「諦めるなって……自分を信じろって……」
「アリシア——もう目を覚ましなよ。君は散々苦しんだ。もうこれ以上は……」

 アリシアのそんな様子に少し同情したような顔のローラン。

「別に私は苦しくたって構いませんよ」
「もう諦めなよ……」
「私はもう諦めません」
「君はもう魔術は使えないんだよ、もう使っちゃいけないんだ……ッ!」
「……ッ!」

 ローランの一言に思わず黙るアリシア。

「この世界にはどうしようもない事もあるんだよ……ッ!」
「いいえ……どうにかなります」
「アリシアッ!」
「どうにかなります、いいえ、どうにかして見せますよ」

 アリシアはローランの言葉に抗うようにそう返す。

「ねぇ、分かってるの? このまま行くとアリシアはあいつの妾にされちゃうんだよッ!」

 諭すようにいうローラン。

「そうかもしれませんね……」
「なら……ッ!」
「でも……」
「でも?」
「それは、ローランには……」
「……何?」

 ローランは少し動揺し、彼女の言葉を待つ。

「ローランには関係ないじゃないですか……ッ!」
 
 思わず叫ぶアリシア。

「……か、関係あるよ……ッ!」

 その一言にたじろぐローラン。
 
「無いですよ……」
「僕は、その……。アリシアの事が……その、そう、その大事だから……ッ! だ、大事な幼馴染だから……ッ!」
「………」

 その言葉にアリシアは何も言えなかった。
 その少年が自分を想っている事は分かっていた。
 彼がぼかした言葉の裏にある本当の言葉がなんなのか、アリシアには分かっていた。
 だからこそ、アリシアは何も言うことができなかった。

「い、今は分かってもらえないかもしれないけど……僕はアリシアを守りたい。僕がいつかきっと変えて見せる色んな事を……、そうすれば、僕達は昔みたいに……」

 黙ってしまったアリシアにローランはそう声をかける。

「………」
「じゃ、じゃあね……」 

 黙ってしまったアリシアから少し逃げるようにローランはその場をさった。

「…………」

 アリシアは背を向け、再び薬草の採集を始めた。
 去っていく少年の背中を彼女の視線が追うことは無かった。
 その手に迷いはなく、その口は堅く閉ざされていた。

「自分で変えてみせますから……」

 静かな森の中に、そんな呟きだけが、聞こえた。



「強くならないと」

 アリシアと分かれたローランは駆け足に父のもとへと向かう。

(——あいつは、またやってくる——)

「その時までにあいつに勝てるようにならないと……、僕が、あいつを倒さないと……ッ!」

 ローランは決意を改に奮起するのであった。


「昨日は、ローランと喧嘩してしまいましたね」

 あくる朝、早朝の訓練を終えたアリシアはあの森へと向かう。
 思えば、あんな風に彼と口論をしたことは無かった。

 だが、不思議と後味の悪さは感じなかった。

 しかし、アリシアの頭には、ずっと、消えない疑問があった。

「どうしてですか……レクスさん……」
 
 思わず空に向かって問いかける。
 答えるものなどいないことは分かっている。
 それでもアリシアは問いかけてしまう。

「女の子を攫ったって、一体どうしてですか……ッ!」
「お姉ちゃん?」
「私の事は置いていったのに……ッ!」
「アリシアお姉ちゃんッ!」

 少し大きくなる声。

「今度会った時には……ッ!」
「お姉ちゃんってば……ッ!」
「あ……ッ! はい?」

 大声で叫ばれアリシアが振り向くとそこには魔術を教えてあげた少女がいた。

「やっとこっち向いてくれたぁ」
「すいません。アンネ。ちょっと考え事を……—」

 独り言を聞かれた事に赤面するアリシア。

「ふぅん。それってあの変な偉そうなお兄ちゃんの事?」
「変な偉そうなお兄ちゃん?」

 口元に笑みを浮かべた少女の言葉に戸惑うアリシア。

「そう、金髪のよくわかんないこと言うお兄ちゃん」
「ああ、レクスさんのことですね」

 アリシアは少し笑ってしまう。

「お姉ちゃんは、ローランよりあの変なお兄ちゃんの方が良いの?」
「一体何を……」

 その質問に少し赤面してしまうアリシア。

「まぁ、あっちの方が格好いいからね。お金持ちっぽそうだったし……まぁ分かるよ」
「いや、そういうわけでは」

 照れたように返すアリシア。
 この少女にうかつな事をいえば、明日には村中の噂話になることは分かっていた。

「ローランもちょと可哀想だけどね」
「いや、ですから……」
「まぁ、ローランの事はいいよ。あのね……ッ! お父さんは駄目っていってたんだけど……お姉ちゃんに私聞きたいことがあって……」

 少しもじもじとした様子で問いかける少女。

「……どうしました?」
「また今度でいいからまた、魔術を教えて欲しいかな……、なんてッ!」
「……そうですね……」

 その質問に考え込む様子のアリシアは。

「駄目?」

 黙るアリシアの顔を覗き込む少女。

「いえ………勿論いいですよッ!」

 アリシアは依然と同じように、笑顔を浮かべると少女にそう返した。

「本当ッ! やったぁッ!」
「今は色々と忙しいんですが……ひと段落したら……でいいなら」
「うんそれでいいよッ!」
「じゃあ、また今度ですね」
「お父さんはなんか駄目って言ってたんだけど」
「私は気にしませんから大丈夫ですよ」

 片目を瞑って、少し悪戯っぽく笑って答えるアリシア。

「あ、お父さん来ちゃった。じゃあね……ッ!」
「はい、またね……」

 そう言って手を振る少女にアリシアも手を振り見送る。



 アンネと分かれたアリシアは、再び歩き出すと森へと向かう。
 少し暖かくなってきた風が、アリシアの美しい青い髪を、静かに揺らす。
 ポカポカとした陽気は、夏がそれほど遠くない事を予感させる。
 
「あの子を見ていると、やっぱりなんか、色々な事を思い出してしまいますね」

 アリシアはまだ幼く世界が希望と期待に満ちているであろう少女の顔を思い出す。
 痛みも挫折も知らない無邪気な少女の顔を。
 その顔を思い出すと、その頬は思わず綻ぶ、

「あの頃は、楽しかったですね……」

 過酷な現実を知ったアリシアは夢見る少女ではいられなくなった。

「まさか、こんなに大変な事になるなんて……」

 才能は失われた。
 今は、あの少女でも扱える、簡単な魔術を使うことさえできはしない。
 彼女の抱えている問題は山積で、前途はきっと多難な事だろう。

「……でも。もう、振り返ってもしょうがないですよね」

 それでも、アリシアは自らに言い聞かせる。
 必死に努力を積み重ねても、昔と同じように魔術を使える保証なんてものはどこにもない。
 
「過去の事はもう、忘れましょう。前を向いて歩いて行くしかないんですから」

 それでも、一歩、一歩、歩み続けるアリシアは振り返らない。

「さぁ、今日も頑張りましょう……ッ!」

 そう呟く、少し背丈の伸びた少女の姿は、魔術を失う前の、あの日と何も変わらない。

 アリシアは待っている。
 この村で待っている。
 いつかあの少年が再び会いに来る日を——
 アリシアは待っている。
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