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第一章 君がいない世界で
3話
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僕が彼女と初めて逢ったのは、高校の入学式の日だった。
あの日のことはよく覚えている。
自分で選んだ高校に受かって、新しい環境になる。目を輝かせ、新しい環境に胸を膨らませながら、校門をくぐっていく新入生達。それを見守り、自分の子供の晴れ姿を、今か今かと待ちわびている保護者達。
それを僕はずっと眺めていた。このとき、僕は入学式をサボろうと考えていた。理由は簡単だ。行きたい高校じゃなかったから。それに両親は入学式には来ない。バレることは無いから、好都合だった。
「写真を撮ってこい」と、父から頼まれたが、「写真を撮れる場所がなかった」とでも言えば、上手く誤魔化せる。
そう考えて、家に帰ろうと歩き出したとき、
「あの! すみません!」
という声が聞こえた。でも僕に話しかけてないだろう。と思い、そのまま歩いていく。
「あの! ちょっと!」
肩を叩かれて、僕はようやく後ろを向いた。話しかけてきたのは、女の子だった。きっと彼女も新入生だろう。
「はい?」
「あっ、えっと、新入生の方ですよね?」
「そうだと思いますけど」
「あ! やっぱり! さっきから全然中に入ってこないから違うのかと思って」
「そうですか」
「じゃあ、クラスも見てないですか?」
「そうですけど」
「そしたら、私が掲示板のところまで一緒に行く!」
「いや、一人でも行けますけど……!」
そう話しているのにも関わらず、彼女は強引に僕の腕を引っ張りながら歩いていく。引っ張られながら、周りを見てみると、さっきまで沢山居た新入生達の姿が、少ししか居なかった。
「さあ! 着きました! 探してください!」
「あ、はい」
(月島、月島……)
「あった」
「え! 何組?」
「2組みたいです」
「私と一緒だ! 一緒に教室行こう! あっ、今日からタメ口で話そうね!」
「はあ…」
(いきなり連れてこられて、教室に行って、タメ口って)
僕は正直、戸惑っていた。女の子と話したことがあまり無く、扱いに困ったからだ。
(そういえば名前聞いてない)
「あ、名前教えてくれない?」
「えっ?」
きっと僕は、この瞬間、目に写った彼女のことを忘れることは無いだろう。それくらい、美しく、儚い光景だった。桜が吹雪いた中で、彼女は笑っていた。
「百瀬春っていうの。百瀬でも、春でも、どっちでも呼びやすい方で呼んでね」
僕は、この光景に見惚れて、しばらく彼女を見つめていた。
「じゃあ、君の名前は?」
「え、あ、月島葵」
「じゃあ、葵君! 一緒に教室行こう!」
これが、僕等の最初の出逢いだった。今考えると、このとき、もう既に彼女に、いや、春に惚れていたのかもしれない。そして、春もこのときもう既に、分かっていたんだ。これから、春がどうなるのか。それを僕が知ることになるのは、今から約1年後の3月のことだ。
あの日のことはよく覚えている。
自分で選んだ高校に受かって、新しい環境になる。目を輝かせ、新しい環境に胸を膨らませながら、校門をくぐっていく新入生達。それを見守り、自分の子供の晴れ姿を、今か今かと待ちわびている保護者達。
それを僕はずっと眺めていた。このとき、僕は入学式をサボろうと考えていた。理由は簡単だ。行きたい高校じゃなかったから。それに両親は入学式には来ない。バレることは無いから、好都合だった。
「写真を撮ってこい」と、父から頼まれたが、「写真を撮れる場所がなかった」とでも言えば、上手く誤魔化せる。
そう考えて、家に帰ろうと歩き出したとき、
「あの! すみません!」
という声が聞こえた。でも僕に話しかけてないだろう。と思い、そのまま歩いていく。
「あの! ちょっと!」
肩を叩かれて、僕はようやく後ろを向いた。話しかけてきたのは、女の子だった。きっと彼女も新入生だろう。
「はい?」
「あっ、えっと、新入生の方ですよね?」
「そうだと思いますけど」
「あ! やっぱり! さっきから全然中に入ってこないから違うのかと思って」
「そうですか」
「じゃあ、クラスも見てないですか?」
「そうですけど」
「そしたら、私が掲示板のところまで一緒に行く!」
「いや、一人でも行けますけど……!」
そう話しているのにも関わらず、彼女は強引に僕の腕を引っ張りながら歩いていく。引っ張られながら、周りを見てみると、さっきまで沢山居た新入生達の姿が、少ししか居なかった。
「さあ! 着きました! 探してください!」
「あ、はい」
(月島、月島……)
「あった」
「え! 何組?」
「2組みたいです」
「私と一緒だ! 一緒に教室行こう! あっ、今日からタメ口で話そうね!」
「はあ…」
(いきなり連れてこられて、教室に行って、タメ口って)
僕は正直、戸惑っていた。女の子と話したことがあまり無く、扱いに困ったからだ。
(そういえば名前聞いてない)
「あ、名前教えてくれない?」
「えっ?」
きっと僕は、この瞬間、目に写った彼女のことを忘れることは無いだろう。それくらい、美しく、儚い光景だった。桜が吹雪いた中で、彼女は笑っていた。
「百瀬春っていうの。百瀬でも、春でも、どっちでも呼びやすい方で呼んでね」
僕は、この光景に見惚れて、しばらく彼女を見つめていた。
「じゃあ、君の名前は?」
「え、あ、月島葵」
「じゃあ、葵君! 一緒に教室行こう!」
これが、僕等の最初の出逢いだった。今考えると、このとき、もう既に彼女に、いや、春に惚れていたのかもしれない。そして、春もこのときもう既に、分かっていたんだ。これから、春がどうなるのか。それを僕が知ることになるのは、今から約1年後の3月のことだ。
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