6 / 6
バンシー
しおりを挟む
枯れ枝に切り刻まれる冬の風の悲鳴のような泣き声が遠く、近く聞こえてくる。バンシーが家の周りをさ迷っているのだろう。彼がこの声を聞いたのは二度目だった。
一度目は、父が死んだ時だ。
病でやせた父の横たわるベッドの足元で、彼と母は寄り添って立っていた。
今はまだ息をしているが、それも長く続かないのは誰が見ても明らかだった。
ついさっき、別室で会った大人達は、永遠に無くなる父の笑顔や体温より、父の持っている金の方が大切なようだった。『遺産は……』『跡取りの嫁には……』囁かれていたのはそんな言葉。彼にはそれが悔しかった。
「泣くのではありませんよ」
母の声は厳しかった。
「あなたは××家の長男なんですから」
非情な大人たちに怒りわめくことも、泣くこともできず、立ちすくんでいた。
その時だった、窓の外でこちらの胸まで引き裂かれんばかりの悲し気な慟哭(どうこく)が聞こえたのは。
××家の当主が亡くなるとバンシーが現れる。
もっと幼い時に祖母から聞いた伝説が本当であることを、彼はその時はっきり知った。
父が完全に息耐えるまで、バンシーは嘆き悲しんだ。まるで泣くことさえゆるされない彼の代わりのように。
それから六十年の時がすぎ、今、彼は死の時にあった。子供時代の館は、長い年月の間人手にわたり、看取る者もなく横たわっているのは天井に雨漏りのシミがあるアパートの一室だ。
窓の外のバンシーの鳴き声に気づき、彼は自分の命がもう数刻なのを知った。
どうやら彼女はどこに住んでいても彼を当主と認めてくれているらしい。彼は干からびた唇を歪める。
身をちぎられるような泣き声。
死を嘆くためだけに現れる人ならぬもの。それはおそらく澄んだ水よりも純粋な嘆き。
「ああ、そんなに悲しんでくれるのか。ありがとう」
彼はゆっくりと目を閉じた。
一度目は、父が死んだ時だ。
病でやせた父の横たわるベッドの足元で、彼と母は寄り添って立っていた。
今はまだ息をしているが、それも長く続かないのは誰が見ても明らかだった。
ついさっき、別室で会った大人達は、永遠に無くなる父の笑顔や体温より、父の持っている金の方が大切なようだった。『遺産は……』『跡取りの嫁には……』囁かれていたのはそんな言葉。彼にはそれが悔しかった。
「泣くのではありませんよ」
母の声は厳しかった。
「あなたは××家の長男なんですから」
非情な大人たちに怒りわめくことも、泣くこともできず、立ちすくんでいた。
その時だった、窓の外でこちらの胸まで引き裂かれんばかりの悲し気な慟哭(どうこく)が聞こえたのは。
××家の当主が亡くなるとバンシーが現れる。
もっと幼い時に祖母から聞いた伝説が本当であることを、彼はその時はっきり知った。
父が完全に息耐えるまで、バンシーは嘆き悲しんだ。まるで泣くことさえゆるされない彼の代わりのように。
それから六十年の時がすぎ、今、彼は死の時にあった。子供時代の館は、長い年月の間人手にわたり、看取る者もなく横たわっているのは天井に雨漏りのシミがあるアパートの一室だ。
窓の外のバンシーの鳴き声に気づき、彼は自分の命がもう数刻なのを知った。
どうやら彼女はどこに住んでいても彼を当主と認めてくれているらしい。彼は干からびた唇を歪める。
身をちぎられるような泣き声。
死を嘆くためだけに現れる人ならぬもの。それはおそらく澄んだ水よりも純粋な嘆き。
「ああ、そんなに悲しんでくれるのか。ありがとう」
彼はゆっくりと目を閉じた。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる