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第五章
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朝の光の中で、ルリュナはロープの付いたバケツを持って水汲み場へむかった。その近くに置かれた手押し車には大きなドラム缶やビニールを敷いた箱が積んであった。
道の端にある長い下り階段は、途中から完全に水没している。ロープの端を持ち、茶色く濁ったその水の中へバケツを投げ入れた。
この水を村に持って行って、蒸溜機に入れるのは村の女達の大事な仕事だった。たまに虹のような油が浮くこの水は、釜と煙突のような金属の筒でできた蒸留機で火にかけて初めて飲めるようになる。
手繰り寄せたバケツに、何か入っているのを見つけ、ルリュナは覗きこんだ。
(魚でもすくいあげちゃったかな?)
そして、バケツを取り落としそうになった。中に入っていたのは、魚とは似ても似つかない物だった。サンダルを履いた、少女の足首。
「きゃあああ!」
狭い水場に悲鳴が響いた。
彼女がとんでもない物をすくいあげたニュースはあっという間に村中へ広がった。
異常な事件というわけで、村長であるローベルも呼ばれることになった。
結果、ローベルとアレイルは、朝っぱらから村の広場で切り取られた足首を囲むという、一日の始まりにしては血なまぐさい状況となった。
「この切り口は獣の仕業だよ。刃物で斬られたものではない」
アレイルははっきりと言った。
ローベルはさっきから小さなサンダルから目を離さない。
「幸い、村人の中にいなくなった者はいない。いや、村の者でないからいいというわけでもないか」
「あの水場は色々な出口と地下で繋がってるのさ。化物は他の場所で犠牲者のカケラをくっつけて、あの出口近くに顔を出したんだ」
「アレイルが言っていた、例の化物か」
ローベルが声を落として訊いてきた。
「村を襲った個体とは違うと思うけど、まあお仲間だろうな。恐れていたことが、ってとこだな」
アレイルは起きたばかりで鈍い体を起こすために軽く肩を回した。
「まあ、昨日の歓迎会のお礼代わりだ。ちょっと化物狩りに行ってくるよ」
「……その……すまない」
ローベルはアレイルから視線を逸らした。何か大きな負い目を感じているように。
「何、大したことじゃないさ。ただし危ないからな。俺が戻るまで水場には誰も近付かせないでくれ。戻ってこなかったら後はまかせる」
アレイルは崩れかけた建物に入った。染みついた腐臭に、アレイルはかすかに顔をしかめる。久しぶりの侵入者に、床の虫達がカサカサとどこかへ逃げていった。
建物の中に置かれた入口近くの台には、黒い土のような物が乗っていた。それがもとは山積みにされた果物や野菜だというのは、わずかに残った果物のヘタや種で分かった。中にはそこから芽を出し、何本かのひょろ長い木となって、天井に触れようとしている物もあった。傍にある棚にはプラスチックの入れ物がいくつも並んでいた。中身はすべて腐り果て、もとがなんだったのかわからない。別の場所に並んでいる缶は、どれも錆びて穴が開いている。こぼれたはずの中身はとっくに乾いて、シミになっている。
台車に積んであるカゴをどかし、アレイルは、その『遺跡』からいくつかの『遺物』を調達すると、水場へ向かった。
道の端にある長い下り階段は、途中から完全に水没している。ロープの端を持ち、茶色く濁ったその水の中へバケツを投げ入れた。
この水を村に持って行って、蒸溜機に入れるのは村の女達の大事な仕事だった。たまに虹のような油が浮くこの水は、釜と煙突のような金属の筒でできた蒸留機で火にかけて初めて飲めるようになる。
手繰り寄せたバケツに、何か入っているのを見つけ、ルリュナは覗きこんだ。
(魚でもすくいあげちゃったかな?)
そして、バケツを取り落としそうになった。中に入っていたのは、魚とは似ても似つかない物だった。サンダルを履いた、少女の足首。
「きゃあああ!」
狭い水場に悲鳴が響いた。
彼女がとんでもない物をすくいあげたニュースはあっという間に村中へ広がった。
異常な事件というわけで、村長であるローベルも呼ばれることになった。
結果、ローベルとアレイルは、朝っぱらから村の広場で切り取られた足首を囲むという、一日の始まりにしては血なまぐさい状況となった。
「この切り口は獣の仕業だよ。刃物で斬られたものではない」
アレイルははっきりと言った。
ローベルはさっきから小さなサンダルから目を離さない。
「幸い、村人の中にいなくなった者はいない。いや、村の者でないからいいというわけでもないか」
「あの水場は色々な出口と地下で繋がってるのさ。化物は他の場所で犠牲者のカケラをくっつけて、あの出口近くに顔を出したんだ」
「アレイルが言っていた、例の化物か」
ローベルが声を落として訊いてきた。
「村を襲った個体とは違うと思うけど、まあお仲間だろうな。恐れていたことが、ってとこだな」
アレイルは起きたばかりで鈍い体を起こすために軽く肩を回した。
「まあ、昨日の歓迎会のお礼代わりだ。ちょっと化物狩りに行ってくるよ」
「……その……すまない」
ローベルはアレイルから視線を逸らした。何か大きな負い目を感じているように。
「何、大したことじゃないさ。ただし危ないからな。俺が戻るまで水場には誰も近付かせないでくれ。戻ってこなかったら後はまかせる」
アレイルは崩れかけた建物に入った。染みついた腐臭に、アレイルはかすかに顔をしかめる。久しぶりの侵入者に、床の虫達がカサカサとどこかへ逃げていった。
建物の中に置かれた入口近くの台には、黒い土のような物が乗っていた。それがもとは山積みにされた果物や野菜だというのは、わずかに残った果物のヘタや種で分かった。中にはそこから芽を出し、何本かのひょろ長い木となって、天井に触れようとしている物もあった。傍にある棚にはプラスチックの入れ物がいくつも並んでいた。中身はすべて腐り果て、もとがなんだったのかわからない。別の場所に並んでいる缶は、どれも錆びて穴が開いている。こぼれたはずの中身はとっくに乾いて、シミになっている。
台車に積んであるカゴをどかし、アレイルは、その『遺跡』からいくつかの『遺物』を調達すると、水場へ向かった。
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