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第九章
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「ふん、天使の証拠にしてはおそまつじゃねえか」
アレイルの手の中で、ぽっぽ、と可愛らしい声がした。
一匹の白い鳩がアレイルに抱えられていた。ただ、翼が異様に大きく、アレイルの胸の高さから床に届いてまだあまりがある。
「こいつを背中にとまらせて翼に見せ掛けていたんだな」
ぽいっとその鳩を部屋の隅に放す。
間抜けなカラクリを暴かれて、セレイダルはアレイルを睨みつけた。
セレイダルの手がローブのポケットに伸びる。武器を取らせまいと、アレイルはその手を槍で払いのける。
ピストルが床に落ちた。
セレイダルの喉元に槍の先が突き付けられる。
こめかみに汗を浮かべながらも、セレイダルは話し始めた。
「……確かに私の翼は偽物だ。だがその少年達は本物の天使になる」
そろそろと移動を始めたセレイダルに合わせ、槍を突き付けたままアレイダルはその後を追う。
セレイダルは奥に続く扉を開けた。元は診察室兼手術室だったのだろう、診察台と円盤型のライトが見える。その診察台の枕元に、手作りの祭壇あった。
教会のシンボルマークである星を描いた布の両脇に、半分ほど解けたロウソクが置いてあった。
セレイダルは槍を突き付けられているのも忘れ、陶酔しているように言った。
「私は天使の魂をこの世に呼び戻す。私が作った『器』の中に。そうすればまた人間は繁栄を取り戻すだろう」
写真に写っていた、翼が生えた少年の正体。きっとセレイダルは少年に無理やり羽をくっつけたのだ。天使を呼び出し、その器にするために。
もちろんそんな事をされて人間が長く生きていられるはずはない。おそらくここに映っている少年達はもうこの世にはいないだろう。
「それがお前の目的か? その翼は獲物を釣るための餌か」
「そうだ。これがあれば大抵の人間は言う事を聞いてくれるからな」
純朴な村人達に自分が天使であると思い込ませることができれば、実験に使う動物や人間を生け贄として差しださせることも可能だろう。
おそらくアレイルの邪魔がなければあと数日後にヒナタノ村にもエセ天使が現われたことだろう。そうとう誘拐におあつらえ向きの場所にいたのか、兄弟はそれを待つ事無くさらわれてしまったようだが。
「それならなんであの村を襲った?」
「別に襲いたくて滅ぼしたわけじゃない」
かすかに弁解がましくセレイダルは言った。
「自分の用心棒がわりにこさえたドラゴンが暴走してしまってね」
「地下鉄のワニも似たようなもんか」
「天使を創るだけでは、使わない技術の腕が落ちてしまうから、色々と造っていたのだが。なに、心配することはない。これがなかなかむずかしい物で、手を加えた生き物は長く生きてくれないんだ」
この建物の横に朽ちていたドラゴンの姿がアレイルの頭に浮かんだ。ではあれは無理にいじくられたせいで自壊した(しんだ)のか。
「こいつもお前の作品か?」
そういって鳩を指さす。大きすぎる翼に飛び上がることもできず、ぐるぐると円を描いて書類と写真をかきまぜている。生物としてどこか不自然な姿は哀れだった。
「ああ、そうだ。そしてそれもな」
何者かに右足をすくわれ、アレイルはいきなり逆さづりになった。今まで天井だった位置が床になる。奪われて投げ捨てられた鉄の槍が床に転がり、耳に痛いほどの音を立てる。
黄色の触手が足首に絡み付いていた。診察室の開いた扉の影から、四這(よつば)いの
巨大な生き物が音もなく這い出してきていた。
アレイルの手の中で、ぽっぽ、と可愛らしい声がした。
一匹の白い鳩がアレイルに抱えられていた。ただ、翼が異様に大きく、アレイルの胸の高さから床に届いてまだあまりがある。
「こいつを背中にとまらせて翼に見せ掛けていたんだな」
ぽいっとその鳩を部屋の隅に放す。
間抜けなカラクリを暴かれて、セレイダルはアレイルを睨みつけた。
セレイダルの手がローブのポケットに伸びる。武器を取らせまいと、アレイルはその手を槍で払いのける。
ピストルが床に落ちた。
セレイダルの喉元に槍の先が突き付けられる。
こめかみに汗を浮かべながらも、セレイダルは話し始めた。
「……確かに私の翼は偽物だ。だがその少年達は本物の天使になる」
そろそろと移動を始めたセレイダルに合わせ、槍を突き付けたままアレイダルはその後を追う。
セレイダルは奥に続く扉を開けた。元は診察室兼手術室だったのだろう、診察台と円盤型のライトが見える。その診察台の枕元に、手作りの祭壇あった。
教会のシンボルマークである星を描いた布の両脇に、半分ほど解けたロウソクが置いてあった。
セレイダルは槍を突き付けられているのも忘れ、陶酔しているように言った。
「私は天使の魂をこの世に呼び戻す。私が作った『器』の中に。そうすればまた人間は繁栄を取り戻すだろう」
写真に写っていた、翼が生えた少年の正体。きっとセレイダルは少年に無理やり羽をくっつけたのだ。天使を呼び出し、その器にするために。
もちろんそんな事をされて人間が長く生きていられるはずはない。おそらくここに映っている少年達はもうこの世にはいないだろう。
「それがお前の目的か? その翼は獲物を釣るための餌か」
「そうだ。これがあれば大抵の人間は言う事を聞いてくれるからな」
純朴な村人達に自分が天使であると思い込ませることができれば、実験に使う動物や人間を生け贄として差しださせることも可能だろう。
おそらくアレイルの邪魔がなければあと数日後にヒナタノ村にもエセ天使が現われたことだろう。そうとう誘拐におあつらえ向きの場所にいたのか、兄弟はそれを待つ事無くさらわれてしまったようだが。
「それならなんであの村を襲った?」
「別に襲いたくて滅ぼしたわけじゃない」
かすかに弁解がましくセレイダルは言った。
「自分の用心棒がわりにこさえたドラゴンが暴走してしまってね」
「地下鉄のワニも似たようなもんか」
「天使を創るだけでは、使わない技術の腕が落ちてしまうから、色々と造っていたのだが。なに、心配することはない。これがなかなかむずかしい物で、手を加えた生き物は長く生きてくれないんだ」
この建物の横に朽ちていたドラゴンの姿がアレイルの頭に浮かんだ。ではあれは無理にいじくられたせいで自壊した(しんだ)のか。
「こいつもお前の作品か?」
そういって鳩を指さす。大きすぎる翼に飛び上がることもできず、ぐるぐると円を描いて書類と写真をかきまぜている。生物としてどこか不自然な姿は哀れだった。
「ああ、そうだ。そしてそれもな」
何者かに右足をすくわれ、アレイルはいきなり逆さづりになった。今まで天井だった位置が床になる。奪われて投げ捨てられた鉄の槍が床に転がり、耳に痛いほどの音を立てる。
黄色の触手が足首に絡み付いていた。診察室の開いた扉の影から、四這(よつば)いの
巨大な生き物が音もなく這い出してきていた。
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