毒童話をどうぞ

三塚 章

文字の大きさ
8 / 9

運のいい奴、悪い奴

しおりを挟む
  キリギリスは、雪の上をトボトボと歩いていました。アリの巣に食べ物をもらいに行ったのですが、散々冷たい言葉を浴びせられて追い出されてしまったのです。
『キリギリスさん、夏の間歌っていたのなら、冬には踊っていればいいでしょう』
『まったく、私達が一生懸命働いて蓄えた食糧を、何もしないで分けてもらおうなんてずうずうしい!』
『こつこつ努力すれば困ったことにはならないのに!』
 もっとも、アリ達が怒るのも無理はないのです。彼らが小麦の粒を必死に運んでいる間、キリギリスはさんざん歌を歌い、仕事の邪魔をしていたのですから。それどころではありません。アリがため込んだ麦を盗み出して、こっそり店で酒と交換したりもしたのです。
 雪の冷たさで感覚がなくなった足は重たく、キリギリスは小さな石につまずきました。
踏み留まろうとしましたが、その力はありません。倒れた先は下り坂になっていて、キリギリスはそのまま転がり落ちて行きました。
 坂の先は細い縦穴に続いていました。落っこちたキリギリスは、自分が地下の大きな穴の中にいる事に気づきました。そこは外の寒さが嘘のように暖かく、体の凍えが取れていきます。
 暗闇に目が慣れると、もこもことした山のような物が目の前にあるのに気がつきました。それが体を揺すると、地面まで小さく揺れます。
「誰だい?」
 巨大な毛玉の正体に気づいた時、キリギリスはもう少しで心臓が止まる所でした。話し掛けて来たのは、一頭のクマだったのです。
「い、いえ、あの、起こしてしまいましたか」
 おどおどと言うキリギリスに、クマは疲れたように笑いました。
「いや、起きていたよ。冬眠しないといけないのに、眠れないんだ」
 とりあえず、すぐ踏み潰されたりはしないようです。キリギリスは少し安心しました。
「キリギリス君、悪いけど、眠れるまで何か歌ってくれないか。お礼だったらほら、あそこにあるし、ここが気に入ったならずっとここにいていいから」
 クマが示した所を見て、キリギリスは目を疑いました。そこにはクマが冬眠用のベッドに用意していた草のあまりが山積みになっていたのです。クマにとっては枕にもならない量ですが、体の小さなキリギリスにとっては一年たっても食べきれないほどです。クマの食べ残したブドウやドングリ、魚の肉もありました。
 しかも、クマの体温で暖かいここにいれば凍死する事もありません。少し歌うだけで食べ物と部屋が手に入るなんて、なんて運がいいのでしょう!
 キリギリスは喜んで歌い始めました。

 それから数十日後、穴の中でかさこそという音を聞き、キリギリスは歌を止めました。クマはキリギリスの歌でぐっすり眠っています。
「いた! キリギリス君!」
 穴から降りて来たのはアリでした。
「ここを通ったら、キリギリス君の歌が聞こえたから」
 キリギリスは、アリの姿を見てびっくりしました。アリは、やせ細っていたのです。アリは、物欲し気に隅につまれた食べ物を見つめました。
「申し訳ないけど、少し食べ物を分けてくれないか」
「いや、でもあんた達は麦を蓄えていたはずじゃ……」
「麦の中に、毒のカビを持っている物があったんだ! 蓄めていた麦はほとんど全滅だ! その毒のせいで仲間もどんどん…… 頼む、少し食べ物を……」
 キリギリスの頭に、今までかけられた言葉がよぎりました。
『夏の間歌っていたのなら、冬には踊っていればいいでしょう』
『まったく、私達が一生懸命働いて蓄えた食糧を、何もしないで分けてもらおうなんてずうずうしい!』
 キリギリスはニヤリと笑いました。
「こつこつ努力すれば困ったことにはならないんだろ? これからまた、努力すればいいじゃないか」
 そう言い放って、キリギリスはアリを追い出しました。

 冬の間、暖かく暮らしたキリギリスは、春になってアリの巣をのぞいてみました。しかし、アリさんは全滅していたんですって。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【1話完結】5分で人の怖さにゾッとする話

風上すちこ
ホラー
5分程度で読める1話完結のショートショートを載せていきます。主に、ヒトコワなホラー話です。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

眠らなかった5分間

皐月ハル
ホラー
これは私の身に起こった本当の出来事です。 友だちの名前は仮名で、モールの名前、国道県道の名前は伏せていますが、それ以外は、起きたことをそのまま書いたものです。 私は、 もしかしたら、少しだけ霊感があるかもー? な、体験がいくつかあるのですが、 これは、もし私に霊感がなかったら… どうなってたんだろう、と怖ろしくなる出来事でした。 それからは、昼間であってもその道を通ることはありません。 私の他の作品(BLだけれども😅)を読んだことがある方なら、どこの県の話かはわかるでしょうし、 その県の住人なら、どこら辺で起きた話かもわかると思います。 心当たりがある方は、気を付けて。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

洒落にならない怖い話【短編集】

鍵谷端哉
ホラー
その「ゾワッ」は、あなたのすぐ隣にある。 意味が分かると凍りつく話から、理不尽に追い詰められる怪異まで。 隙間時間に読める短編ながら、読後の静寂が怖くなる。 洒落にならない実話風・創作ホラー短編集。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

処理中です...