最強の暗殺者は、平凡な12歳だった

結愛

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第一章

第一話 ~日常とは~

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   静けさが立ちこもる建物に、鍵を開けて入り、自分の部屋に向かう。裸足で通る廊下は、夏だというのに冷たく感じ、体温を奪っていく。空気も異様に冷たく、息が白くなりそうだ。

   鼻までマフラーを上げ、より顔を埋める。

   足音も響かないが、少女は顔色一つ変えず、部屋に入る。

   カーテンの開かれた窓からは、月光が差し込み、わずかに開いているのか、レースをひらひらと揺らしている。

   「疲れた·····」

   マフラーを外し、独り言を呟いて、その服のままベッドに倒れ込む。

   横になれば、自然と眠気はやってきた。

   支度せねばならないこともあるが、拒むように睡魔が襲ってくる。

   明日に全てを投げ出し、彼女は眠りにおちた。





   開け放たれたカーテンから日差しが入り込み、鳥のさえずりが鼓膜を揺さぶる。とても心地いい朝の光と音色に身を委ね、瞬間、目を開くより早くベッドから飛び降りる。

   床を転がり、壁に頭を打ちつけて、衝撃で覚醒する。
   目を開ければ、ベッドには、キラリと光る刃がすれすれで、刺されそうだった。

   その持ち主をみてみれば、こちらをギロッと見てくる。その眼力は、凄まじく、朝だとは思えない。

   おもむろに立ち上がり、スカートの埃をはたくと、少女は溜息をつきそうな顔で言葉を発した。

   「いい朝だね、リク。清々しい朝とはいえないけど」

   「ふんっ。これでも避けるのかよ」

   手馴れた動作でナイフをレッグホルスターにしまうと、その男は立ち上がる。金髪の前髪をかき分け、なんともツンツンとした髪型のまま、こちらに視線を投げる。

   「狙いを定めてからやるのが遅い。命中率が低すぎんだよ、リク」

   リクと呼ばれた青年に、無表情で淡々と指摘すると、本人も分かってるからなのか、性格も髪型同様、ツンツンになる。

   「レナに言われるまでもねぇよ。くそっ。いつ俺はてめぇを殺せんだよ」

   なんとも物騒な言葉を口にするも、少女――レナは至って普通の顔して、むしろ謙虚気味に返した。

   「ずっと無理だな。それこそ、私がばあちゃんになっても」

   「病気にして殺すか」

   「私は健康のままだ」

   この執着に呆れつつ、腰に両手をあてて、大げさに溜息をつく。

   ドアの数歩後ろに立ち、足を前に出した。

   「死んじゃえ!!」

   丁度、レナが足を伸ばそうとしていると、ドアが勢いよく開く。レナの足はドアに当たることなく、飛び出してきた少女に当たった。見事、顔にクリーンヒットし、勢いよく廊下を転げまわり、壁にあたる。

   「ふぎゃぁあ!?」

   予想外のことだったらしく、少女は変な悲鳴を上げた。小四があげるとは思えない悲鳴である。

   「足音が消しきれてない。もうちょっと落ち着いてきなよ」

   「ね、姉さん、ひどいよぉ。妹弟子にこんなことをするなんてっ!」

   半ば演劇を入れたようなオーバーリアクションに、やはりレナは表情を崩さぬまままるごと返す。

   「なら、師匠より強くなってみな」

   レナの弟子であるこの少女はリミ。なんの弟子かは、おいおい説明をするとしよう。

   三人で言い合いながら、リビングにつく。すると、食パンを足を組んで、そのうえ椅子に片腕をかけて食べるという、なんとも悪い姿勢で食べている者がいた。

   レナは、その姿を視認するなり駆け出し、首にナイフをあてる。

   「なんであなたが来ているんですか。しかもなぜ朝ごはんまで食しているのですか」

   冷徹な声で、殺気をじわじわとレナはその身から出す。リクとリミは身を竦ませ、動けずにいるが、ナイフをあてられた黒衣の男は、笑いを刻んでいた。

   「いやぁ。いつもはやいねえ。しかもこの朝ごはんもおいしい。君はほんとに器用だねえ」

   呑気に食パンを食べる手を止めず、称賛を送ってくる男に、レナは変わらず冷徹な瞳で睨むも、ナイフを離す。

   「行儀が悪いですよ。ちゃんと座ってください」

   ナイフを構え、言葉を紡がなくともその先がわかる。

   男は、やれやれ、と言いながら、姿勢を良くする。

   といっても、服も服でひどいものなので、注意しきれない。

   燕尾服に山高帽。まさに死神のような格好だ。名前も知らぬこの男のことを、死神という意味をこめてグリムと呼んでいる。

   「んで、一体あんたは何しに来たの」

   警戒を解かぬまま、ナイフの刃先を向けて問う。

   朝食を食べ終えてごちそうさまをしたグリムは、紅茶を口にしながら、答えをだす。

   「ただ単に、僕の育てたアサシンがどれほど成長したか、見に来たのさ」

   にこり、と笑ってくるグリム。その笑みは、表面的なものであって、本当に笑っているとは思えない。まるで、いろんな感情に変わる仮面を被ってるようだ。

   なんとも不気味な表情に、目を細めるレナ。警戒ではなく、探っているようだ。だが、グリムの考えを見抜くなど、海の砂の中から砂金一つをみつけるように難しい。

   「そっ。別に変わりない。一ヶ月前に来たばっかでしょ」

   「そういうなよ。僕の可愛い可愛い子どもたちの様子を見に来るのは、保護者として当然だろう?」

   ――保護者。

   グリムは、親ではなく”保護者”と言った。

   グリムと三人の間には、血の繋がりはない。また、三人の間にも、血の繋がりはない。グリムの建てた、傍から見ればただの家は、暗殺を教える場となっている。グリムが拾ってきた孤児たちを、暗殺者として育てるわけだ。

   リミがレナの弟子というのは、暗殺者としてのことである。ちなみに、リクも高一でレナより年上だが、レナの弟子だ。

   レナは、この場に限らず、この街の中では最強の暗殺者。数々の大物を仕留め、神出鬼没の、紅眼にちなんで『アカメ』と裏世界では呼ばれている。

   「別に来なくていい。·······はぁ。朝ごはん、私たちも食べようよ。四人分作っといてよかった」

   ナイフをしまい、レナはキッチンに入る。ラップしておいたサラダを入れた皿と、食パンのある皿を手に取り、テーブルに運ぶ。

   それぞれジャムやマーガリンをつけて、いただきます、と声を合わせた。

   そうして、忙しい朝を過ごした。

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