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第一章
第一話 ~日常とは~
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静けさが立ちこもる建物に、鍵を開けて入り、自分の部屋に向かう。裸足で通る廊下は、夏だというのに冷たく感じ、体温を奪っていく。空気も異様に冷たく、息が白くなりそうだ。
鼻までマフラーを上げ、より顔を埋める。
足音も響かないが、少女は顔色一つ変えず、部屋に入る。
カーテンの開かれた窓からは、月光が差し込み、わずかに開いているのか、レースをひらひらと揺らしている。
「疲れた·····」
マフラーを外し、独り言を呟いて、その服のままベッドに倒れ込む。
横になれば、自然と眠気はやってきた。
支度せねばならないこともあるが、拒むように睡魔が襲ってくる。
明日に全てを投げ出し、彼女は眠りにおちた。
開け放たれたカーテンから日差しが入り込み、鳥のさえずりが鼓膜を揺さぶる。とても心地いい朝の光と音色に身を委ね、瞬間、目を開くより早くベッドから飛び降りる。
床を転がり、壁に頭を打ちつけて、衝撃で覚醒する。
目を開ければ、ベッドには、キラリと光る刃がすれすれで、刺されそうだった。
その持ち主をみてみれば、こちらをギロッと見てくる。その眼力は、凄まじく、朝だとは思えない。
おもむろに立ち上がり、スカートの埃をはたくと、少女は溜息をつきそうな顔で言葉を発した。
「いい朝だね、リク。清々しい朝とはいえないけど」
「ふんっ。これでも避けるのかよ」
手馴れた動作でナイフをレッグホルスターにしまうと、その男は立ち上がる。金髪の前髪をかき分け、なんともツンツンとした髪型のまま、こちらに視線を投げる。
「狙いを定めてからやるのが遅い。命中率が低すぎんだよ、リク」
リクと呼ばれた青年に、無表情で淡々と指摘すると、本人も分かってるからなのか、性格も髪型同様、ツンツンになる。
「レナに言われるまでもねぇよ。くそっ。いつ俺はてめぇを殺せんだよ」
なんとも物騒な言葉を口にするも、少女――レナは至って普通の顔して、むしろ謙虚気味に返した。
「ずっと無理だな。それこそ、私がばあちゃんになっても」
「病気にして殺すか」
「私は健康のままだ」
この執着に呆れつつ、腰に両手をあてて、大げさに溜息をつく。
ドアの数歩後ろに立ち、足を前に出した。
「死んじゃえ!!」
丁度、レナが足を伸ばそうとしていると、ドアが勢いよく開く。レナの足はドアに当たることなく、飛び出してきた少女に当たった。見事、顔にクリーンヒットし、勢いよく廊下を転げまわり、壁にあたる。
「ふぎゃぁあ!?」
予想外のことだったらしく、少女は変な悲鳴を上げた。小四があげるとは思えない悲鳴である。
「足音が消しきれてない。もうちょっと落ち着いてきなよ」
「ね、姉さん、ひどいよぉ。妹弟子にこんなことをするなんてっ!」
半ば演劇を入れたようなオーバーリアクションに、やはりレナは表情を崩さぬまままるごと返す。
「なら、師匠より強くなってみな」
レナの弟子であるこの少女はリミ。なんの弟子かは、おいおい説明をするとしよう。
三人で言い合いながら、リビングにつく。すると、食パンを足を組んで、そのうえ椅子に片腕をかけて食べるという、なんとも悪い姿勢で食べている者がいた。
レナは、その姿を視認するなり駆け出し、首にナイフをあてる。
「なんであなたが来ているんですか。しかもなぜ朝ごはんまで食しているのですか」
冷徹な声で、殺気をじわじわとレナはその身から出す。リクとリミは身を竦ませ、動けずにいるが、ナイフをあてられた黒衣の男は、笑いを刻んでいた。
「いやぁ。いつもはやいねえ。しかもこの朝ごはんもおいしい。君はほんとに器用だねえ」
呑気に食パンを食べる手を止めず、称賛を送ってくる男に、レナは変わらず冷徹な瞳で睨むも、ナイフを離す。
「行儀が悪いですよ。ちゃんと座ってください」
ナイフを構え、言葉を紡がなくともその先がわかる。
男は、やれやれ、と言いながら、姿勢を良くする。
といっても、服も服でひどいものなので、注意しきれない。
燕尾服に山高帽。まさに死神のような格好だ。名前も知らぬこの男のことを、死神という意味をこめてグリムと呼んでいる。
「んで、一体あんたは何しに来たの」
警戒を解かぬまま、ナイフの刃先を向けて問う。
朝食を食べ終えてごちそうさまをしたグリムは、紅茶を口にしながら、答えをだす。
「ただ単に、僕の育てたアサシンがどれほど成長したか、見に来たのさ」
にこり、と笑ってくるグリム。その笑みは、表面的なものであって、本当に笑っているとは思えない。まるで、いろんな感情に変わる仮面を被ってるようだ。
なんとも不気味な表情に、目を細めるレナ。警戒ではなく、探っているようだ。だが、グリムの考えを見抜くなど、海の砂の中から砂金一つをみつけるように難しい。
「そっ。別に変わりない。一ヶ月前に来たばっかでしょ」
「そういうなよ。僕の可愛い可愛い子どもたちの様子を見に来るのは、保護者として当然だろう?」
――保護者。
グリムは、親ではなく”保護者”と言った。
グリムと三人の間には、血の繋がりはない。また、三人の間にも、血の繋がりはない。グリムの建てた、傍から見ればただの家は、暗殺を教える場となっている。グリムが拾ってきた孤児たちを、暗殺者として育てるわけだ。
リミがレナの弟子というのは、暗殺者としてのことである。ちなみに、リクも高一でレナより年上だが、レナの弟子だ。
レナは、この場に限らず、この街の中では最強の暗殺者。数々の大物を仕留め、神出鬼没の、紅眼にちなんで『アカメ』と裏世界では呼ばれている。
「別に来なくていい。·······はぁ。朝ごはん、私たちも食べようよ。四人分作っといてよかった」
ナイフをしまい、レナはキッチンに入る。ラップしておいたサラダを入れた皿と、食パンのある皿を手に取り、テーブルに運ぶ。
それぞれジャムやマーガリンをつけて、いただきます、と声を合わせた。
そうして、忙しい朝を過ごした。
鼻までマフラーを上げ、より顔を埋める。
足音も響かないが、少女は顔色一つ変えず、部屋に入る。
カーテンの開かれた窓からは、月光が差し込み、わずかに開いているのか、レースをひらひらと揺らしている。
「疲れた·····」
マフラーを外し、独り言を呟いて、その服のままベッドに倒れ込む。
横になれば、自然と眠気はやってきた。
支度せねばならないこともあるが、拒むように睡魔が襲ってくる。
明日に全てを投げ出し、彼女は眠りにおちた。
開け放たれたカーテンから日差しが入り込み、鳥のさえずりが鼓膜を揺さぶる。とても心地いい朝の光と音色に身を委ね、瞬間、目を開くより早くベッドから飛び降りる。
床を転がり、壁に頭を打ちつけて、衝撃で覚醒する。
目を開ければ、ベッドには、キラリと光る刃がすれすれで、刺されそうだった。
その持ち主をみてみれば、こちらをギロッと見てくる。その眼力は、凄まじく、朝だとは思えない。
おもむろに立ち上がり、スカートの埃をはたくと、少女は溜息をつきそうな顔で言葉を発した。
「いい朝だね、リク。清々しい朝とはいえないけど」
「ふんっ。これでも避けるのかよ」
手馴れた動作でナイフをレッグホルスターにしまうと、その男は立ち上がる。金髪の前髪をかき分け、なんともツンツンとした髪型のまま、こちらに視線を投げる。
「狙いを定めてからやるのが遅い。命中率が低すぎんだよ、リク」
リクと呼ばれた青年に、無表情で淡々と指摘すると、本人も分かってるからなのか、性格も髪型同様、ツンツンになる。
「レナに言われるまでもねぇよ。くそっ。いつ俺はてめぇを殺せんだよ」
なんとも物騒な言葉を口にするも、少女――レナは至って普通の顔して、むしろ謙虚気味に返した。
「ずっと無理だな。それこそ、私がばあちゃんになっても」
「病気にして殺すか」
「私は健康のままだ」
この執着に呆れつつ、腰に両手をあてて、大げさに溜息をつく。
ドアの数歩後ろに立ち、足を前に出した。
「死んじゃえ!!」
丁度、レナが足を伸ばそうとしていると、ドアが勢いよく開く。レナの足はドアに当たることなく、飛び出してきた少女に当たった。見事、顔にクリーンヒットし、勢いよく廊下を転げまわり、壁にあたる。
「ふぎゃぁあ!?」
予想外のことだったらしく、少女は変な悲鳴を上げた。小四があげるとは思えない悲鳴である。
「足音が消しきれてない。もうちょっと落ち着いてきなよ」
「ね、姉さん、ひどいよぉ。妹弟子にこんなことをするなんてっ!」
半ば演劇を入れたようなオーバーリアクションに、やはりレナは表情を崩さぬまままるごと返す。
「なら、師匠より強くなってみな」
レナの弟子であるこの少女はリミ。なんの弟子かは、おいおい説明をするとしよう。
三人で言い合いながら、リビングにつく。すると、食パンを足を組んで、そのうえ椅子に片腕をかけて食べるという、なんとも悪い姿勢で食べている者がいた。
レナは、その姿を視認するなり駆け出し、首にナイフをあてる。
「なんであなたが来ているんですか。しかもなぜ朝ごはんまで食しているのですか」
冷徹な声で、殺気をじわじわとレナはその身から出す。リクとリミは身を竦ませ、動けずにいるが、ナイフをあてられた黒衣の男は、笑いを刻んでいた。
「いやぁ。いつもはやいねえ。しかもこの朝ごはんもおいしい。君はほんとに器用だねえ」
呑気に食パンを食べる手を止めず、称賛を送ってくる男に、レナは変わらず冷徹な瞳で睨むも、ナイフを離す。
「行儀が悪いですよ。ちゃんと座ってください」
ナイフを構え、言葉を紡がなくともその先がわかる。
男は、やれやれ、と言いながら、姿勢を良くする。
といっても、服も服でひどいものなので、注意しきれない。
燕尾服に山高帽。まさに死神のような格好だ。名前も知らぬこの男のことを、死神という意味をこめてグリムと呼んでいる。
「んで、一体あんたは何しに来たの」
警戒を解かぬまま、ナイフの刃先を向けて問う。
朝食を食べ終えてごちそうさまをしたグリムは、紅茶を口にしながら、答えをだす。
「ただ単に、僕の育てたアサシンがどれほど成長したか、見に来たのさ」
にこり、と笑ってくるグリム。その笑みは、表面的なものであって、本当に笑っているとは思えない。まるで、いろんな感情に変わる仮面を被ってるようだ。
なんとも不気味な表情に、目を細めるレナ。警戒ではなく、探っているようだ。だが、グリムの考えを見抜くなど、海の砂の中から砂金一つをみつけるように難しい。
「そっ。別に変わりない。一ヶ月前に来たばっかでしょ」
「そういうなよ。僕の可愛い可愛い子どもたちの様子を見に来るのは、保護者として当然だろう?」
――保護者。
グリムは、親ではなく”保護者”と言った。
グリムと三人の間には、血の繋がりはない。また、三人の間にも、血の繋がりはない。グリムの建てた、傍から見ればただの家は、暗殺を教える場となっている。グリムが拾ってきた孤児たちを、暗殺者として育てるわけだ。
リミがレナの弟子というのは、暗殺者としてのことである。ちなみに、リクも高一でレナより年上だが、レナの弟子だ。
レナは、この場に限らず、この街の中では最強の暗殺者。数々の大物を仕留め、神出鬼没の、紅眼にちなんで『アカメ』と裏世界では呼ばれている。
「別に来なくていい。·······はぁ。朝ごはん、私たちも食べようよ。四人分作っといてよかった」
ナイフをしまい、レナはキッチンに入る。ラップしておいたサラダを入れた皿と、食パンのある皿を手に取り、テーブルに運ぶ。
それぞれジャムやマーガリンをつけて、いただきます、と声を合わせた。
そうして、忙しい朝を過ごした。
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