34 / 37
4
ある日の夕暮れ。
屋敷の庭を散歩していた俺は、茂みの中で震えている小さな毛玉を見つけた。
怪我をした子犬……いや、角が生えているから小型の魔獣だろうか。
放っておけず、そいつをリビングに連れ帰り、手当をしてミルクを与えた。
「キュゥン……」
「よしよし、もう大丈夫だぞ」
毛玉はすっかり懐き、膝の上で丸くなって喉を鳴らしている。
温かくてフワフワだ。癒される。
ドォン。
その時、地響きと共にリビングの扉が開いた。
帰還したガルドである。
「ただいま、薫。今日も君の匂いを……ん?」
俺に抱きつこうと両腕を広げていたガルドが、ピタリと動きを止めた。
その視線は、俺の膝の上で丸くなる毛玉に釘付けになっている。
「……薫。なんだ、その薄汚い獣は」
「庭で拾ったんです。怪我をしてたので手当を……」
「今すぐ捨ててこい」
「は?」
ガルドの声が、マイナス五十度くらいまで冷え込んだ。
バチバチと、彼の周囲の空間が魔力で歪んでいる。
「そこは俺の指定席だ。俺以外の生物が君の膝の上で安らぐなど、天地がひっくり返っても許されん」
「いや、ただの小さな魔獣ですよ? 嫉妬する相手がおかしいでしょ」
「生物としての格など関係ない! 薫の匂いを最も近くで享受する権利は、この俺にしかないんだ!」
ガルドが本気の殺気を放った。
それに反応した毛玉が、俺の膝の上で立ち上がり、ガルドに向かって「ウゥゥッ!」と小さな牙を剥いて威嚇した。
「ほほう……この俺に牙を向くか、害獣め。その毛皮を剥いで薫の足拭きマットにしてやろう」
「ガルド! 大人気ないからやめて! 相手は体重3キロもないんだよ!」
俺が必死に毛玉を庇うと、ガルドはギリッと歯を食いしばり、信じられない行動に出た。
なんと、俺のもう片方の空いている膝に、自分の巨大な頭を乗せてきたのだ。
「……ガルド?」
「俺のほうが毛並みもいいし、体温も高い。それに、君への愛は誰にも負けん。……ほら、撫でろ」
上目遣いでこちらを見る世界最強の英雄。
明らかに、俺の膝の上の毛玉に対抗して「可愛さアピール」をしている。
「……あんたさぁ」
「キュゥゥン」
「スゥゥゥッ……ハァ……。薫、俺のほうがいい匂いがするだろう?」
右膝にはフワフワの魔獣。
左膝には金髪の超大型犬。
両方から見つめられ、俺は頭を抱えた。
結局、この毛玉は騒ぎを聞きつけたセバスチャンが「私が責任を持って飼育いたします」と引き取ってくれるまで、ガルドの理不尽なガン飛ばしに耐え続けることになった。
あなたにおすすめの小説
追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜
たら昆布
BL
聖女のおまけで召喚されたと思われて追放された不憫受けが拾われて愛される話
当て馬に転生した俺、メインヒーローに懐かれすぎて物語が崩壊しています ~最強の騎士様、俺じゃなくてヒロインを追いかけてください!~
たら昆布
BL
処刑される元貴族に転生していたので婚約破棄して雑用係になった話
転生エルフの天才エンジニア、静かに暮らしたいのに騎士団長に捕まる〜俺の鉄壁理論は彼の溺愛パッチでバグだらけです〜
たら昆布
BL
転生したらエルフだった社畜エンジニアがのんびり森で暮らす話
騎士団長とのじれったい不器用BL