伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン

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​ある日の夕暮れ。
屋敷の庭を散歩していた俺は、茂みの中で震えている小さな毛玉を見つけた。
怪我をした子犬……いや、角が生えているから小型の魔獣だろうか。
放っておけず、そいつをリビングに連れ帰り、手当をしてミルクを与えた。

​「キュゥン……」
「よしよし、もう大丈夫だぞ」

​毛玉はすっかり懐き、膝の上で丸くなって喉を鳴らしている。
温かくてフワフワだ。癒される。
​ドォン。
​その時、地響きと共にリビングの扉が開いた。
帰還したガルドである。

​「ただいま、薫。今日も君の匂いを……ん?」

​俺に抱きつこうと両腕を広げていたガルドが、ピタリと動きを止めた。
その視線は、俺の膝の上で丸くなる毛玉に釘付けになっている。

​「……薫。なんだ、その薄汚い獣は」
「庭で拾ったんです。怪我をしてたので手当を……」
「今すぐ捨ててこい」
「は?」

​ガルドの声が、マイナス五十度くらいまで冷え込んだ。
バチバチと、彼の周囲の空間が魔力で歪んでいる。

​「そこは俺の指定席だ。俺以外の生物が君の膝の上で安らぐなど、天地がひっくり返っても許されん」
「いや、ただの小さな魔獣ですよ? 嫉妬する相手がおかしいでしょ」
「生物としての格など関係ない! 薫の匂いを最も近くで享受する権利は、この俺にしかないんだ!」

​ガルドが本気の殺気を放った。
それに反応した毛玉が、俺の膝の上で立ち上がり、ガルドに向かって「ウゥゥッ!」と小さな牙を剥いて威嚇した。

​「ほほう……この俺に牙を向くか、害獣め。その毛皮を剥いで薫の足拭きマットにしてやろう」
「ガルド! 大人気ないからやめて! 相手は体重3キロもないんだよ!」

​俺が必死に毛玉を庇うと、ガルドはギリッと歯を食いしばり、信じられない行動に出た。
なんと、俺のもう片方の空いている膝に、自分の巨大な頭を乗せてきたのだ。

​「……ガルド?」
「俺のほうが毛並みもいいし、体温も高い。それに、君への愛は誰にも負けん。……ほら、撫でろ」

​上目遣いでこちらを見る世界最強の英雄。
明らかに、俺の膝の上の毛玉に対抗して「可愛さアピール」をしている。

​「……あんたさぁ」
「キュゥゥン」
「スゥゥゥッ……ハァ……。薫、俺のほうがいい匂いがするだろう?」

​右膝にはフワフワの魔獣。
左膝には金髪の超大型犬。
両方から見つめられ、俺は頭を抱えた。

結局、この毛玉は騒ぎを聞きつけたセバスチャンが「私が責任を持って飼育いたします」と引き取ってくれるまで、ガルドの理不尽なガン飛ばしに耐え続けることになった。
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