伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン

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​「……んふふ。これ、甘くて美味しいですね」

​屋敷のダイニングルーム。
俺は、グラスの中で揺れる黄金色の液体を機嫌よく飲み干した。
今日はガルドが遠征先の領主から最高級のエルフの果実酒を貰ってきたということで、二人きりでささやかな晩酌をしていたのだ。

​「薫。ペースが早いぞ。それは口当たりはいいが、度数はドワーフの火酒並みに高いんだ。……おい、顔が真っ赤だぞ」

​向かいの席に座るガルドが、心配そうに眉を寄せた。
自分の頬に両手を当ててみた。確かに、火がついたように熱い。視界もふわふわと揺れていて、足の先から頭のてっぺんまで、得体の知れない熱と高揚感が駆け巡っている。

​「だいじょーぶですって。俺、結構お酒強いんですから」
「グラスの持ち方が危うい。もう飲むな」

​ガルドが立ち上がり、俺の手からワイングラスを取り上げようとした。
普段なら「わかりましたよ」と素直に渡すところだ。
だが、アルコールのせいか、今日はなぜかガルドのその過保護な態度が、少しだけ不満だった。

​「……やだ」

​俺はグラスをテーブルに置くと、手を伸ばしてきたガルドの腕をガシッと掴んだ。

​「か、薫?」
「ガルド様……こっち来て。隣、座って」

​自分でも驚くほど甘ったるい声を出して、ガルドの袖を引いた。
ガルドの体がビクッと硬直する。

​「……俺の隣が、いいのか?」
「うん。遠い。……もっとくっついてないと、寂しい」

​上目遣いで訴えると、ガルドは息を呑み、椅子を蹴り倒す勢いで俺の隣に移動してきた。
広いダイニングテーブルなのに、肩と肩がぶつかるほどの至近距離。
満足して、ガルドの厚い胸板にコテンと頭を預ける。

​「……あったかい。ガルド様の筋肉、硬いけど……すっごく安心する」
「あ……薫、君、まさか完全に酔って……」
「酔ってないよぉ。ただ、ガルド様の匂いが嗅ぎたいだけ」

​ガルドのシャツの胸元に顔を擦り付け、すぅっと息を吸い込んだ。
いつもガルドが俺にしていることを、そっくりそのままやり返してやったのだ。
太陽と、微かな鉄の匂い。そして、ガルド自身の体温の匂い。

​「……んんっ、いい匂い。好き、これ」
「ッ……!!!」

​頭上で、ガルドが凄まじい勢いで息を吸い込む音がした。
​スゥゥゥゥゥゥッ……!!!

​「……ああっ! 駄目だ! 今日の君は危険すぎる!」
「なにがぁ?」
「アルコールの熱で揮発した君の香りが、果実の甘さと混ざり合って……まさに熟成の極み! 極上のヴィンテージワインだ! 肺に入れた瞬間、俺の理性が蒸発しそうだ!」

​ガルドの大きな手が、俺の肩を震えながら掴む。
いつもならここで「変態」と突き放すのだが、今日は違う。

​「理性が蒸発するなら……全部飛ばしちゃえばいいのに」

​ガルドの首に両腕を回し、その耳元に唇を寄せて囁いた。

​「ねえ、ガルド。……今日は、吸うだけじゃなくて……ちゃんと、俺のこと食べてよ」
「――ッ!」

​その瞬間、ガルドの中で決定的な何かが千切れる音がした。  

​「……後悔しても、遅いぞ」
「後悔なんて、しないもん」

​ガルドは俺の膝裏と背中に腕を差し入れ、軽々と抱き上げた。
視界がふわりと浮き上がり、ダイニングを後にして、熱の籠もる寝室へと向かった。
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