冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン

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22話

第22話

​砦の外で繰り広げられた虐殺劇は、一時間と経たずに幕を下ろした。
泥濘に足を取られ、実戦経験に乏しい王国の正規軍が、死神率いる帝国の精鋭部隊に敵うはずもない。

生き残った金ピカの兵士たちは武器を捨て、悲鳴を上げながら南の王都へ向けて蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていった。
​血と泥に染まった平原に、帝国の漆黒の軍勢だけが残る。
その中央から、返り血でさらに赤黒く染まったルーファスが、悠然と黒馬を歩ませて砦の正門へと近づいてきた。

​「終わったぞ、レオン! お前の陣地を汚す害虫共は全て駆除してやった!」

​防壁の上から見下ろすと、ルーファスは満面の、そして狂気に満ちた笑みを浮かべて両手を広げていた。

​「さあ、約束の報酬をもらおうか! その門を開け、俺を温かい寝床と熱い口づけで迎え入れてくれ!」
「誰がそんな約束をした」

​冷たく吐き捨て、白銀の剣の柄に手を置いたまま見下ろす。

​「害虫を掃除しろとは言ったが、中に入れるとは一言も言っていない。ご苦労だったな、帰っていいぞ」

​その無慈悲な宣告に、ルーファスは一瞬キョトンとした後、肩を震わせて腹の底から爆笑した。

​「はははははッ! 素晴らしい! その冷酷さ、俺を都合よく利用して捨てる強かさ! ますます手放せなくなったぞ!」
「……本当にどうしようもねえドMだな、あの変態。ボスの冷たい態度に余計興奮してやがる」

​横で大剣を構えたヴォルフが、ドン引きした顔で呆れ返る。
逆側では、アルヴィスが魔導杖の切っ先に絶対零度の冷気を収束させながら、美しい顔を憎悪に歪めていた。

​「レオンの美しき唇から放たれる罵倒は、あのような汚物に浴びせるには勿体ない。……今度こそ、私が奴の舌ごと氷結させて引き抜いてやります」
「お前ら、無駄口を叩いている暇はないぞ。来る」

​忠告と同時だった。
ルーファスが黒剣を天高く掲げると、その刃に底知れぬ漆黒の魔力が渦巻き始める。

​「開けないというなら、こじ開けるまで! お前の心の壁も、この砦の門も、俺の愛で粉々に砕いてやる!」

​ルーファスは背後の自軍に向けて声を張り上げた。

​「全軍、待機しろ! これは俺とレオンの愛の語らいだ! 手を出した者は斬る!」

​三万の軍勢を後方に待機させ、ルーファスは再び単騎で跳躍した。
標的は、アルヴィスが数日がかりで強化した砦の氷岩の正門。
凄まじい質量の漆黒の斬撃が、空気を叩き割りながら門へと直撃する。
​ゴォォォォォンッ!!
​大地が激しく揺れ、鋼鉄以上の硬度を誇っていた防衛結界に、無数の亀裂が走った。

​「チィッ……私の結界を、純粋な暴力だけで……!」
「させねえよッ!!」

​門が完全に砕け散る直前、ヴォルフが防壁から砲弾のように飛び降りた。
空中にいるルーファスに向け、獣の膂力を全開にした大剣の下段斬り上げを放つ。

​「邪魔だ、番犬!!」

​ルーファスが空中で黒剣を返し、ヴォルフの特大剣と激突する。
火花が散り、衝撃波で周囲の泥がクレーターのように吹き飛んだ。

​「野犬、そこを退きなさい! 巻き込みますよ!」
「ヒョロガリの援護なんか要るか! 俺一人で十分だ!!」

​上空からはアルヴィスの氷結魔術が雨あられと降り注ぎ、地上ではヴォルフとルーファスが獣のような咆哮を上げながら剣を打ち合わせる。
三万の帝国軍が静まり返って見守る中、砦の門前は三人の化け物たちによる常軌を逸した局地戦へと変貌した。

​剣を抜き、防壁の縁に足をかける。
結界が破られるのは時間の問題だ。ならば、完全に崩壊する前にこちらから打って出て、総大将の首を直接狙う。

​「第1から第3小隊、盾を構えて防壁の穴を塞げ! 残りは弓と魔術で俺たちを援護しろ!」

​部下たちに指示を飛ばし、泥と血が舞い狂う暴風雨の中へ、白銀の刃を片手に飛び込んだ。
誰の所有物にもならない。その証明を、今ここに叩きつける。
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