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038 会話が途切れた瞬間、オレはビーストに変身する自信がある
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――残り時間2:35
『古代遺跡』を後にしたオレたちは、次の目的地へ向けて北西へ飛んでいく。
【ミッション7】 伝説の鍵師から『究極のカギ』を入手せよ(所要時間30分)。
どうやら、次のミッションはアイテム入手のようだ。
よくあるゲームだと、この伝説の鍵師やらはワガママで、「カギが欲しかったら〇〇してこい」みたいなオツカイやらされるんだよな。
途中で中ボスを倒さなきゃいけなかったり、あちこちを走り回されたり。
単純なミッションだけど、場合によっては結構面倒くさかったりする。
『攻略ガイド』の地図を見ると、伝説の鍵師さんは『古代遺跡』からかなり離れた場所に住んでいるようだ。
『王都』や『シティー』との位置関係から判断するに、5分や10分では着かなそうなんだけど、オツカイこなしてる時間あるのかな……。
「なあ、次の場所まで結構時間かかりそうだけど、大丈夫なんか?」
「うん。だいじょうぶだよ~。へいきへいき~。わたしに考えがあるから~、まかせといて~」
リスティアは自信満々に胸を叩いて、任せてアピールしてくるから、オレは余計なことを考えるのは早々に諦めた。
大丈夫だ。だって、イージーモードだし。
ここまでのことを思い出しても……うん、考えるだけムダだな。
そういえば、さっきの頭ナデナデの一件から、リスティアとの距離がかなり縮まった。
精神的にも、そして――物理的にも。
リスティアは今、もたれかかるようにしてオレの胸にその身体を預けている状態だ。
柔かくって。温かくって。いい匂いがして。
オレの理性が悲鳴を上げている。
平然とした顔で普通の会話をつづけているが、実際のところ、心臓はバクバクだし、手汗もヌルヌルだし、下半身もスゴいことになってる。
上目遣いでこっちを見つめるリスティアにはオレの内心なんかモロバレなのかもしれないが、彼女がなにも言わない以上はオレもこの仮面をかぶり続けるしかない。
この幸せな時間がいつまでも続いて欲しい反面、早く開放してくれないとヤバいと焦る気持ちも大きい。
気を紛らわすためにも、ここは会話が必要だ。是非とも必要だ。
会話が途切れた瞬間、オレはビーストに変身する自信がある。いや、自信しかない。
なんでもいいから急いで、話のネタを探さないと……。
回らない頭を必死で回して、なんとかオレは会話の糸口を見つけ出した――。
「なあ、ちょっと気になったんだけど、訊いてもいいか?」
「うん、なんでもきいて~。勇者さまだったら、ワタシの恥ずかしいヒミツだって教えちゃうから~」
リスティアは蠱惑的な微笑みを向けてくる。
だから、そういうの、たとえ冗談でも、今のオレにはキツイからやめて欲しい。
「こほん。さっきのメタスラの話だけどさ」
「うんうん」
「アレもっと増やせなかったのか?」
「ん?」
「いやさ、あんな簡単にメタスラ増殖できる薬あるんだったら、わざわざ『トルマリン・リング』を取りに行かなくても良かったんじゃないか? その方が時間短縮できたんじゃない?」
たしかに『トルマリン・リング』は取得経験値が10倍になるっていうぶっ壊れアイテムだ。
でも、モンスター自体を増殖可能な上、一網打尽にできる毒薬があるんなら、単にメタスラをさっきの10倍に増やせば、それでいいんじゃね?
などと素人ながらに考えたわけだ。といっても、真剣に考えたわけじゃない。
薬の性能上不可能なのかもしれないし、それだけ大きな設備を作れない等の困難があるだけなのかもしれない。
パッとした思いつきにすぎない。今のこの状況で、気を紛らわせればいいだけだ。
案の定、オレの浅はかな考えは、すぐにリスティアに否定された。
「ああ、それムリムリ~」
「そうなのか。理由は?」
よし、会話が広がりそう。いい流れだ。
「ひと言で言うとね~、個体上限数だよ」
「個体上限数? なにそれ?」
「んーとねえ、モンスターってのは魔王の魔力によって生み出されるんだよ。それでね、時間が経つにつれてドンドン増えていくんだけど、種族ごとに割り当てられている魔力が定まっているんだよ。だから、最大でもその魔力の範囲内までしか増えないんだよ。それが個体上限数だよ~」
「ああ、なるほど。理解した」
まさに、ゲームみたいなシステムだな。
「じゃあ、そこまでメタスラを増やすのは不可能ってことか」
「そだね~。あの量も結構ギリギリだったし。魔王の封印が限界まで弱まっている今だから可能な方法だったんだよ~」
「魔王の封印が関係あるのか?」
「うんうん。封印が弱ると魔王が使える魔力が増えるから、個体上限数が上がるんだよね。だから、世界中にモンスターが溢れちゃうんだよ」
「じゃあ、とっとと倒しちゃわないとなっ」
「うん、勇者さま、がんばってね~」
あら、なんか、綺麗なかたちで話がまとまってしまった。
次の話題をなにか探さないと……。
「あっ、でもさ、なんでわざわざあの街に寄ったんだ? 貴重なアイテムなのかもしれないけど、リスティアだったら取り寄せるなり、国内で入手したりできたんじゃないか?」
「古代遺跡に近い『シティー』じゃないと、高品質なヤツは急ぎで手に入らなかったんだよね~。それに、自分の国じゃちょっとマズい理由もあって……」
「マズい理由?」
「へへへ~」
露骨に誤魔化された……。
【後書き】
次回――『このノリだったら、ふざけたフリで1モミや2モミくらいは許されるのではないか?
』
『古代遺跡』を後にしたオレたちは、次の目的地へ向けて北西へ飛んでいく。
【ミッション7】 伝説の鍵師から『究極のカギ』を入手せよ(所要時間30分)。
どうやら、次のミッションはアイテム入手のようだ。
よくあるゲームだと、この伝説の鍵師やらはワガママで、「カギが欲しかったら〇〇してこい」みたいなオツカイやらされるんだよな。
途中で中ボスを倒さなきゃいけなかったり、あちこちを走り回されたり。
単純なミッションだけど、場合によっては結構面倒くさかったりする。
『攻略ガイド』の地図を見ると、伝説の鍵師さんは『古代遺跡』からかなり離れた場所に住んでいるようだ。
『王都』や『シティー』との位置関係から判断するに、5分や10分では着かなそうなんだけど、オツカイこなしてる時間あるのかな……。
「なあ、次の場所まで結構時間かかりそうだけど、大丈夫なんか?」
「うん。だいじょうぶだよ~。へいきへいき~。わたしに考えがあるから~、まかせといて~」
リスティアは自信満々に胸を叩いて、任せてアピールしてくるから、オレは余計なことを考えるのは早々に諦めた。
大丈夫だ。だって、イージーモードだし。
ここまでのことを思い出しても……うん、考えるだけムダだな。
そういえば、さっきの頭ナデナデの一件から、リスティアとの距離がかなり縮まった。
精神的にも、そして――物理的にも。
リスティアは今、もたれかかるようにしてオレの胸にその身体を預けている状態だ。
柔かくって。温かくって。いい匂いがして。
オレの理性が悲鳴を上げている。
平然とした顔で普通の会話をつづけているが、実際のところ、心臓はバクバクだし、手汗もヌルヌルだし、下半身もスゴいことになってる。
上目遣いでこっちを見つめるリスティアにはオレの内心なんかモロバレなのかもしれないが、彼女がなにも言わない以上はオレもこの仮面をかぶり続けるしかない。
この幸せな時間がいつまでも続いて欲しい反面、早く開放してくれないとヤバいと焦る気持ちも大きい。
気を紛らわすためにも、ここは会話が必要だ。是非とも必要だ。
会話が途切れた瞬間、オレはビーストに変身する自信がある。いや、自信しかない。
なんでもいいから急いで、話のネタを探さないと……。
回らない頭を必死で回して、なんとかオレは会話の糸口を見つけ出した――。
「なあ、ちょっと気になったんだけど、訊いてもいいか?」
「うん、なんでもきいて~。勇者さまだったら、ワタシの恥ずかしいヒミツだって教えちゃうから~」
リスティアは蠱惑的な微笑みを向けてくる。
だから、そういうの、たとえ冗談でも、今のオレにはキツイからやめて欲しい。
「こほん。さっきのメタスラの話だけどさ」
「うんうん」
「アレもっと増やせなかったのか?」
「ん?」
「いやさ、あんな簡単にメタスラ増殖できる薬あるんだったら、わざわざ『トルマリン・リング』を取りに行かなくても良かったんじゃないか? その方が時間短縮できたんじゃない?」
たしかに『トルマリン・リング』は取得経験値が10倍になるっていうぶっ壊れアイテムだ。
でも、モンスター自体を増殖可能な上、一網打尽にできる毒薬があるんなら、単にメタスラをさっきの10倍に増やせば、それでいいんじゃね?
などと素人ながらに考えたわけだ。といっても、真剣に考えたわけじゃない。
薬の性能上不可能なのかもしれないし、それだけ大きな設備を作れない等の困難があるだけなのかもしれない。
パッとした思いつきにすぎない。今のこの状況で、気を紛らわせればいいだけだ。
案の定、オレの浅はかな考えは、すぐにリスティアに否定された。
「ああ、それムリムリ~」
「そうなのか。理由は?」
よし、会話が広がりそう。いい流れだ。
「ひと言で言うとね~、個体上限数だよ」
「個体上限数? なにそれ?」
「んーとねえ、モンスターってのは魔王の魔力によって生み出されるんだよ。それでね、時間が経つにつれてドンドン増えていくんだけど、種族ごとに割り当てられている魔力が定まっているんだよ。だから、最大でもその魔力の範囲内までしか増えないんだよ。それが個体上限数だよ~」
「ああ、なるほど。理解した」
まさに、ゲームみたいなシステムだな。
「じゃあ、そこまでメタスラを増やすのは不可能ってことか」
「そだね~。あの量も結構ギリギリだったし。魔王の封印が限界まで弱まっている今だから可能な方法だったんだよ~」
「魔王の封印が関係あるのか?」
「うんうん。封印が弱ると魔王が使える魔力が増えるから、個体上限数が上がるんだよね。だから、世界中にモンスターが溢れちゃうんだよ」
「じゃあ、とっとと倒しちゃわないとなっ」
「うん、勇者さま、がんばってね~」
あら、なんか、綺麗なかたちで話がまとまってしまった。
次の話題をなにか探さないと……。
「あっ、でもさ、なんでわざわざあの街に寄ったんだ? 貴重なアイテムなのかもしれないけど、リスティアだったら取り寄せるなり、国内で入手したりできたんじゃないか?」
「古代遺跡に近い『シティー』じゃないと、高品質なヤツは急ぎで手に入らなかったんだよね~。それに、自分の国じゃちょっとマズい理由もあって……」
「マズい理由?」
「へへへ~」
露骨に誤魔化された……。
【後書き】
次回――『このノリだったら、ふざけたフリで1モミや2モミくらいは許されるのではないか?
』
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